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第十一話 悪魔と天使と新人魔法少女 その2

 偽善者って思われるかもしれないけど、私は弱い者をイジメる輩を見るとぶん殴りたくなる性分である。そんなこんなで私の中で正義感という名の炎は、轟々と燃え盛る! 弱い者イジメを行い卑劣な輩――悪の存在を消毒だァァ~~!!



「アナタ達っ! その少年(ボーイ)をイジメているわけ? だっから許さないわよ!」



「ああ、早苗姉ちゃん! うぐぐぐ……」



 キッと意を決したように早苗姉ちゃんが、オタク少年を取り囲むガラの悪い連中――不良クン達のもとへ駆け出す! があああ、イイところを持っていかれた気がするわ!



「おう、なんだテメェ!」



「見慣れない顔だな?」



「新人の先公じゃね? そろそろ新学期だし、新しく赴任してくる先公がいるだろうし」



「つーか、イジメだぁ? なに言ってんだ、コイツ? 言いがかりはやめてほしいんですけど!」



 我が校には不良生徒(ヤンキー)なんていません! と、PTAの連中に説明している教頭先生の姿をチラ見したことがあるわ。でも、実際のところけっこういるのよねぇ。つーか、学校の暗部を知らないわけ? そりゃないか――。



「高瀬春夫、井上健司、中井正毅、それに紅一点の高梨彩か、やれやれ……」



「お前は同じクラスの山崎じゃん! つーか、お前も俺達になにか文句でもあるのかよ?」 



「沙希、同じクラスの級友なわけ?」



「そう、一応ね。弱い者イジメっつう最低最悪な行為におよぶ外道じゃなきゃ陽気なイイ奴らなんだけどねぇ」



「な、なんだと、テメェ! つーか、俺達の絡んできた女は誰なんだよ!」



「外道っていうのは、ホントのことじゃん。ああ、この人は私の姉よ。ま、それはさておき、一緒にいるオタクBOYを解放しなさい! これは警告よ」



 さてと、イジメを食い止めようと不良クン達のもとに駆け寄る早苗姉ちゃんの加勢するかたちで、私も不良クン達のもとに駆け寄り、そして悪に対する怒気を抑えながら、そう警告する。



「嫌だって言ったら?」



「ん~……こうなるわよ」



「えっ……がはっ!」



 絶対に嫌だって言うと思った。そんなわけで魔眼発動! 私の双眸から放たれた邪気が不良クン達の紅一点、高梨の精神を破壊する――ま、何時間かすれば立ち直る程度の弱い邪気なんだけどね。



「うわ、高梨! テ、テテテメェ! なにをしやがっ……ぐぎゃん!」



「悪いな。お前らを見ていたら、昔、俺をイジメていた連中を思い出しちまったぜ」



 パカーン! と、乾いた音とともに不良クン達のひとりが弧を描くかたちで吹っ飛ぶ。ミスティアが鉄拳を放ったわけね。



「わああ、殴った! 母さんにも殴られたことがないのにィィ! 痛ぇ、痛ぇよ、うわああああっ!」



「フン、だから他人の痛みを知らないんだよ、ガキ共っ!」



「このチビ! ふざけんなァァ~~!」



「うわ、チビって言った……オラアアアッ!」



「ぐ、ぐふうぅ!」



 ミスティアは私より背が低いかもしれない。とりあえず、身長は150cm弱かなぁ――と、背の低いことを気にしているようね。そんなこんなでブチッとキレたミスティアのジャンプ頭突きが、ガゴンッと不良クンのひとりの顔面の炸裂するのだった。



「さて、オタクBOYを取り囲んでいた悪人は、お前だけだな」



「う、ううう、俺は悪人じゃねぇ! ちょっと金を借りようと思っただけさ!」



「ちょっとじゃない! お前らに半年で五十万くらい脅し取られたァァ~~!!」



 ムムム、オタク少年が大声を張りあげる。半年で五十万円も、不良クン達に脅し取られた!? カツアゲってヤツ? ひっでぇことするわね!



「アンタ達、なんて酷いことを! 警察官として見過ごすことができないわね!」



「中島、この野郎っ! でかい声を出すな……え、警察官!? は、はぎゃわあああ!」



「あ、逃げた! 捕まえようぜ、沙希!」



「フン、お仕置きと洒落込むのもいいわね。だけど、逃げるヤツなんかに興味はないわ」



 不良クンのひとりが、歪な悲鳴を張りあげながら、私達の前から逃走する。早苗姉ちゃんが警察官だから? まあ、とにかく、胸中で燃えあがった正義の炎が不良クン達が逃げ出したことで興醒めする。



「もう少し張りのある奴らかと思ったんだけどなぁ」



 不良って奴らは野獣のような連中だ。そんなわけでちょっとは楽しめるかなぁと思ったんだけどなぁ~☆ え、ホッキョクグマのパワーでぶちのめす予定だったんだろって? あら、よく判ったわね、クククク♪



「少年、大丈夫かい?」



 さて、不良クン達という狼の群れに取りに囲まれていた可愛そうな仔羊であるオタク少年に対し、早苗姉ちゃんがスッと右手を差し伸べる。



「よ……」



「よ?」



「余計なことをすんなよ! アイツらをここで始末する予定だったのにィィ!!」



「し、始末する予定だった!? ア、アナタ、一体、なにを!」



 カッと、オタク少年の表情に狂気が彩る! 不良クン達を始末する!? そう叫びながら、パンと左手で差し伸べられた早苗姉ちゃんの右手を払い除ける。



「二年A組の中島文貴……」



「む、なんだ、お前? なんで俺の名前をっ!」



「知ってて当然でしょう? 私はD組の山崎沙希よ。自慢じゃないけど、同級生の名前は、すべて覚えているつもりよ。さて、不良クン達を始末しようと思ったってどういうこと? ああ、さっさとやっちゃわないから、アイツらみんな逃げちゃったわ」



「う、ううう、お前らのせいだ!」



 お、気づけば、不良クン達、全員がいつの間にかいなくなっている。逃げ足だけは早いなぁ――とまあ、それはさておき、オタク少年こと二年A組の中島文貴は、キッと狂気の彩った顔に、さらに怒りを宿しながら、私をにらんでくる。八つ当たりかしら?



「うくうう……せ、せっかく! せっかく、せっかく、せっかくぅぅ! 高い金を払って邪神召喚アプリをダウンロードしたのにィィ! お前らのせいで使い損ねたじゃないかァァ~~!!」



 スッと右手を上着の右ポケットに突っ込む中島は、愛用のスマホを取り出す。そしてガタガタと全身を震わせ怒りの絶叫を張りあげる。



「邪神召喚アプリ!? む、知ってるわ。オカジャネのクソコテ達が、そのアプリについて語ってたし……てか、マジで存在するとはね!」



「沙希、そのアプリっていつだったかクソコテのエティエンヌが騒いでたアレのことでしょう?」



 手入れがされていないボサボサ頭に眼鏡、それにナニが入っているのかはさっぱりだけど、とにかくゴチャゴチャと私物が放り込まれたリュックサック――とまあ、そんな風体の同級生なのよね、オタク少年こと中島文貴は――と、それはさておき、彼が憎々しげな口調で言い放つ邪神召喚アプリについては、私も、そして天城先輩も知っている。だけど、本当に存在するなんて、今、初めて知ったかも……。



「沙希、なんなの邪神召喚アプリって?」



「おう、俺も知りたいぜ!」



「そうね、ありていに言えば、〝呼べる〟のよ。異界の超越者達を――」



 なにも知らないようだから、早苗姉ちゃんとミスティアに、件の邪神召喚アプリについて説明する。本当に存在するなら厄介もいいところなアプリなのよね。



「あのクソ共を始末するために使おうと思っていたが、ムカついたんで、このアプリをお前ら相手に使う……クキキキ、キヒキヒ……」



 中島が不気味な笑い声をあげる。お、おいおい、ここで起動させる気!? うーん、仕方がない。中島を気絶させて邪神召喚アプリがインストールされているスマホを力ずく奪い取るべきかなぁ……。



「アナタ達、そこでなにをやっているんです! 旧校舎に続く通路のところでケンカをしている生徒がいるって報告を聞きました! アナタ達ですか?」



「む、真田先生!」



「違うますよ。彼女達を僕を助けてくれたんです。不良(げどう)共から……」



「え、そうなんですか?



「はい、そうです。間違いありません」



「…………」



 ムムム、真田先生がやって来たぞ――つーか、中島の奴、急に猫をかぶったわ。まったく、都合がいい男ね。



「それじゃボクは人形(フィギュア)制作部へ行きます」



「あ、ちょっと!」



「ああ、行っちゃったね」



「うん、しかし、真田先生が来たおかげで危険な目に遭わずに済んだかも……」



「うむ、仮に邪神召喚アプリが本物だったらって考えるとねぇ……」



「え、どういうことです?」



「アハハハ……こ、こっちの話ですので気にしないでください!」


 人形制作部? ああ、そういえば、そんなマニアックな部活の部室が、旧校舎内にはたくさんあるのよねぇ。ちなみに、私が所属するオカルト研究部――略してオカ研も、マニアックな部類に入る部活である。



「それじゃ、私達も部室へ行きます。ではではーっ!」



 ペコリと真田先生に一礼すると、私はダッと旧校舎に上階へと続く階段を駆けあがるのだった。



「ん、この感じは!? アイツが近くにいるよ、沙希!」



「わ、ヘルメス、いつの間に!? てか、アイツって?」



「ディオニュソスだよ。何故かは知らないけど、アイツの気配を感じるんだ」



 ん、いつの間にか、私の右肩に小さな妖精が――ヘルメスが座っている。さて、あのディオニュソスが近くにいるですって!? まさか、アイツが光桜学園の旧校舎のどこかに来ているわけ?

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