第十話 失われた記憶を求めて! その14
酒泉郷の主であるディオニュソスを拉致し、なにかしらの悲願を達成させるために行動を開始しようとする弧狐隊が動き出す。それと並行するかたちで私――山崎沙希や猫斗真拳とやらの伝承者である黒猫のキョウタロウと猛犬隊のオネーサン達との戦いが始まるのだった。
「肉球百烈弾ッ! ウニャニャニャニャアアアッ!」
ズドドドドッ! と、キョウタロウは眼に見えぬ速さの――音速の領域に達した猫パンチを連続で放つ! ん、そんなキョウタロウの周囲を取り囲む数人の猛犬隊隊員のオネーサン達の身体のあっちこっちに、ズギュウウンと肉球型の痣が……おお、全員、一斉に吹っ飛んだわ。
「ワオオン! なんだ、あの猫は!」
「つ、強いワン!」
「当然よ! 私の使い魔なんだから……必殺蛇地獄!」
使い魔のキョウタロウに負けてたまるものか! ――と、サマエルが大量の蛇をばら撒く! わお、サマエルがばら撒いた蛇が巨大化し、猛犬隊のオネーサン達に身体に巻きつくのだった。
「うわー、蛇は大嫌いだワン!」
「うわああ、巨大な河馬も現れたワン! ぐぎゃんっ!」
今度は河馬!? 愛梨&アフロディーテの使い魔となった(?)タウエレトが、ズドンッと上空から猛犬隊のオネーサン達の目の前に舞い降りる。んで、そんなタウエレトの背中には、愛梨と幽霊貴婦人ことメアリーが跨っているわ。
「集団で襲いかかる卑怯者には容赦はしません!」
「オラオラオラァ! どいた、どいた、どいたァァ~~!!」
「わあああ、あっちゃん、暴れないでーっ!」
「ひゃあああ、ごめんあそばせェェェ~~!」
「うわあああ、ぐぎゃ!」
「あうううっ! 踏みつぶされた……ガクッ!」
地上に舞い降りと同時に、タウエレトの猛烈な突進を開始する。うお、猛犬隊のオネーサンは成す術もなく吹っ飛ばされたわ。河馬はある意味、最強よね。ライオンより人間を殺しているかもしれない猛獣でもあるらしいし――。
「ギャンッ! 力が抜ける、ムギュウウ……」
「あうあうあぁ~……う、動けない…」
「な、なんだなんだ! アイツに触れられた途端、身体が……」
「生命力を少しもらった。ごちそうさん~☆」
ドサドサドサッ――と、今度は猛犬隊のオネーサン達の中の数人が、真っ青な顔でぶっ倒れる。リュシムナートの特技のひとつである生命力吸収が炸裂したわけだ。ああ、彼女は触れるだけで対象物の血液や生命力を奪えるらしい。うえ~、吸血鬼ならではの怖い特技だわ!
「ええと、こんな技はどうかな? ガオオオオッ!」
「ギャワワン、ギャワン! な、なんだ、この耳障りな咆哮は!」
「あ、頭が割れそうだワン! ギャウーン!」
豹の姿をしている時、限定の技なのかな? 茜がけたたましい咆哮を――お、猛犬隊のオネーサン達は、両手で両耳を押さえながら、苦悶の表情を浮かべる。ああ、何人か気絶したわ!
「よし、わらわも――魅了の魔眼を食らえっ!」
「ギャ、ギャワン! 意識が遠退く……うがああ」」
「お、おおお……うがあああっ!」
「わああ、なにをするワン! ひええ、お前らまでーっ!」
ズギュウウウンッ! と、狼姫の双眸が光った途端、猛犬隊のオネーサン達の中の数人が、ブクブクと口から泡を吹いてガクンッと膝をつく――が、その刹那、虚ろな表情で立ちあがり、仲間のオネーサン達に襲いかかる。狼姫の双眸から放たれた魅了の邪気によって操られたってところか?
「ガ、ガウウっ……痛っ! 殴ることないじゃん!」
「ゴ、ゴメンねガウー! てか、なんで殴ったのかさっぱりガウ?」
「むはーっ! 言いわけすんなガウー!」
そういえば、主に長柄の棍や戦鎚といった刃物ではない武器をたずさえているわね。猛犬隊のオネーサン達は――とまあ、そんな武器で仲間割れとばかりに味方同士を殴り合っている。お、仲間同士での殴り合いで受けた衝撃でかは知らないけど、狼姫の双眸から放たれた魅了の邪気から解放された何人かが正気を取り戻したっぽいね。
「どうでもいいけど、オネーサン達、タフすぎ!」
猛犬隊にオネーサン達のタフさには、流石に驚いたわ! 仲間のひとりが振りまわす戦鎚で勢いよく頭を直撃したはずなのに、痛ぇー! ――って、悲鳴をあげるだけで済んじゃっているし……ど、どんだけ石頭なのよ!
「みんな無双しちゃっているわね。んじゃ、私も――熊マグナム!」
さてと、猛犬隊のオネーサン達相手に無双しちゃっているみんなに負けていられないわ! ギンッと私は右腕をホッキョクグマに変化させ打ち放つ――熊マグナムを!
「ぐ、ぐわああ! コイツ、強いワン! 貧乳チビの小娘のクセにィィ!」
「うっさい! じゃあ、爆裂形態でボコってやんよ!」
チビで貧乳――聞き捨てならぬ言葉であった! そんなわけでプチッとキレた私は、あんまり使いたくない形態である大人形態へと変身するのだった。ああ、大人形態は一時的に外見が成人女性のモノになる秘技だ。身体能力もホッキョクグマに変身時の時、または身体の一部へ動物のモノに変化させる合成獣形態ほどではないけど、対人戦闘には向いているかな? え、チビで貧乳って言われたから無理矢理、大人の姿に変身したんだろうって? うっさいわね、いいじゃん、そんなの!
「コ、コイツ! 小娘の姿から大人の女の姿に変身したワン! だけど、胸の方は相変わらず貧乳だワン、プギャ~♪」
「だあああ、五月蠅いっ……五月蠅いィィ~~!!」
うう、大人形態で一時的に大人の姿にはなったけど、私の胸は貧乳のままだ……ム、ムギィィ!! 腑に落ちないわっ!
「わ、私が貧乳なのは、アンタ達が悪い!」
「ちょ、それが八つ当たりだワン! うぎゃあああー!」
「さ、沙希ちゃん、間違いなく八つ当たりだよぅ……」
「八つ当たり? なんのことかしら?」
確かに八つ当たりだ! だけど、八つ当たりをしなくちゃ、このモヤモヤした気分を晴らせないのよね! え、メチャクチャなことを言うなって? い、いいのよ、細かいことは! とにかく、一時的に大人の姿になった私は、貧乳チビって言った猛犬隊のオネーサンのひとりに対し、元の形状である人間のモノに戻した右拳を叩き込む。
「ああ、元に戻ってしまった」
「沙希さん、無理に大人の姿にならなくてもいいのでは?」
「そうよ、胸なんか真っ平のままなんだし……プププッ♪」
「ううう、五月蠅いィィ!」
大人形態は、あくまで一時的な変身にすぎないわけだ。気づけば、外見も元通りの美少女に~☆ う、愛梨はともかく、アフロディーテがくっそ笑っている……うう、もう大人の姿には変身しないって決めた!
「ぐ、ぐえええ~、あっしの敗北でヤンス……」
「大狸を討ち取ったりィィ~!!」
「ちょ、なに負けているのよ! うおりゃああー!」
さて、私達一行の中で唯一、無双できなかった者がいる。タヌキチだ。猛犬隊のオネーサン達にフルボッコにされちゃってる……あちゃ~鎧兜で武装&巨大化しているのにねぇ。んで、主である茜が割って入らなかったら、きっと――。
「ん、コイツもプラスの仲間なのか? 見た目は女のコだけど、男のニオイがするワン」
「ムムム、確かに男のニオイがするぞガウ!」
「よ、よし、ひん剥いて確かめるガオ!」
「わ、わあああ、怖いっ……怖いよぅ! ニヒヒヒッ♪」
タヌキチのことは放っておいても大丈夫かな? それよりディオニュソスが三人の猛犬隊のオネーサンに取り囲まれている! あ、でも、怖いって言いながらも、口許には三日月のような笑みが浮かんでいるわね。ひょっとして喜んでいるの!?
「ディオニュソスさんを守れっ!」
ヒュンヒュンとヌンチャクを振り回す数羽の兎が、ディオニュソスを守るためシャッと猛犬隊のお姉さん達の行方を遮るのだった。
「うお、可愛い兎の騎士の登場かワン?」
「「そうだ、我々は騎士だ! ディオニュソス様を守る騎士だぁぁ~~!!」」
「ん、ディオニュソス様だぁ? お前はなにを言ってるワン! ディオニュソス様が女の服を着た男のわけがないだろう? つーか、ディオニュソス様を差し出せやガウー!」
「「「…………」」」
猛犬隊のオネーサン達は、目の前にいる女装男子――男の娘がディオニュソスご本人だって信じられない様子ね。ま、まあ、私も最初はそうだったんだけどね。
「フン、どうでいいワン。お前ら全員、このアリア様がまとめて叩きのめしてやるガウ!」
猛犬隊のオネーサンのひとりがアリアと名乗る。ちなみに、ショートカットの背の高いオネーサンだ。んで、ヴォンッとたずさえる長柄の戦鎚を頭上で何度も振りまわしながら、ディオニュソスと兎達に襲いかかる。
「お前ら全員、薙ぎ払ってやるガウ!」
「「「兎をナメるなよ、うおおおー!」」」
「は、馬鹿だガウ! 無謀にも突撃してくるとは……ぐぎゃんっ! 痛い、痛いっ!」
「おお、兎ちゃん達、強ぇ!」
兎達はアリアの振りまわす長柄の戦鎚の薙ぎ払い攻撃をジャンプして回避する! そして一斉に振りまわすヌンチャックをアリアを標的に投げ放つ! お、すべてクリーンヒット……ああ、だけど、効果は薄いわね。タフだなぁ。
「ええい、生意気な兎ちゃんだガウ! おらあああっ!」
「ぎゃあああっ!」
「ひぎぃぃ!」
アリアが先ほどよりも早く、そして重い一撃を放つ! く、今度は避けられなかったか! 数羽の兎が長柄の戦鎚の餌食に――っ!
「そらぁーもう一丁! う、うお、なんだ、お前は!」
アリアは追撃する。長柄の戦鎚を――もっともダメージを受けていると思われる兎に対し、渾身の一撃とばかりに振り下ろす!
「ホッホッホ~今度は~わしが~相手に~なってやるのじゃ~」
ムム、そんな窮地に陥った兎を救うとばかりに、アリアが渾身の一撃とばかりに振り下ろした長柄の戦鎚の一撃を受け止める一際、大きな兎ちゃんが現れる。老師ラビエルだ!
「お前はプラスの指導者的存在……老師ラビエル! お前を討ち取って手柄は独り占めだガウ!」
「プラスの~指導者~? ホッホッホ~わしらには~指導者など~おらぬぞ? わしらには~身分など~存在しない~。み~んな~平等なのじゃ~」
「みんな平等だ? まあいい、お前は私が倒すっ……ワオオオン!」
プラスには指導者がいないのね。んで、身分とかは存在せず皆、平等かぁ――と、ある意味、理想の社会かもね。さて、アリアが先手を打つ! 老師ラビエルに対し、愛用の長柄の戦鎚を逆袈裟にぶん回す!
「ホッホッホ、そんなに~大振りだと~隙が生まれるぞ~ほいっ!」
「な、なにィィ、かわした!? ワオオン、いつの間に私の懐に……ギャイイイン!」
アリアがハッと老師ラビエルの姿を見た時、既に勝敗は決していたんかもしれない。そんな老師ラビエルが、長柄の戦鎚を振りまわすと同時に、スススッと残像を残しながら、彼女の懐に入り込んでいたし――ガゴッ! アリアの懐に入り込んだ老師ラビエルが、自慢の脚力を活かし、跳びあがる。頭突きだ。
「う、ううう、脳が揺れて立ちあがれないワン……」
老師ラビエルの頭突きが、アリアの顎にクリーンヒットする。当然、そんなアリアの頭蓋骨の中で脳みそが激しくバウンドし、脳震盪を引き起こす。脳みそへの衝撃は全身の神経を一瞬で麻痺させるものだ。これじゃ動きたくても動けないわね。
「おお、あれが羅毘斗聖拳の神髄!」
「我ら兎の脚力を最大限に活かした神速の動き!」
「し、痺れる! そして憧れるっ!」
「ホッホッホ~、気をつけろ~弟子達~。猛犬隊は~まだまだ~た~くさんいるぞ~」
「う、フードをかぶった怪しいオネーサンがやって来た!」
羅毘斗聖拳!? 兎の間に伝わる天敵である狐などから身を守る拳法ってところか? ん、なんだか怪しい雰囲気がするフードをかぶったオネーサンが現れたわ。猛犬隊の仲間か!?
「クククク、馬鹿だねぇ。こうすればいいのに……」
「なんだ、お前は……ぐがっ! か、身体が動かないぞ、どういうことだぁ!?」
「ぐううう、わらわもだ! 身体が言うことを聞かんっ!」
「沙希ちゃん、私も身体がっ!」
身体が動かない!? ディオニュソスを守るために集まった兎達、そして私と茜、それに狼姫の身体が突然、硬直し、まったく動けなくなる。なにが起きたわけ――ぐ、ぐうう、なんだで身体が硬直するのよ! う、あの怪しいフードをかぶったオネーサンの仕業なのか!?




