第十話 失われた記憶を求めて! その13
キャラクター紹介
・弧狐隊――マイナスに属す部隊のひとつ。
「ここがディオニュソスの住処――酒泉郷かぁ」
「ああ、酒好きの理想郷だ」
「酒好きの理想郷? あ、でも、まったく酒臭くないなぁ」
「うむ、それが不思議なのだ」
私達と並行するかたちでオリンポス十二神の一柱である酩酊の神ディオニュソス――いや、その分霊の住処である酒泉郷へと足を踏み入れる者が見受けられる。私こと山崎沙希の弟、悠太とフェレットのアポロンだ。まったく、なんでアンタ達が、ここにいるわけ!?
「さ、姉ちゃん達をさっさと探そうぜ」
「うむ、ここはマイナスという危険極まりない女の集団がいるらしいからな」
「う、うえ~、マジかよぉ!」
「マイナスは猛獣の姿に変身できるらしい。とりあえず、狐に変身してみてはどうだ、悠太?」
「ちょ、狐に変身しても猛獣が相手じゃ……」
「ま、そんな理由もあるから僕達が助っ人として一緒にやって来たわけだ」
さてと、悠太とアポロンは助っ人を雇ったようね。チーターの神倉真理とユキヒョウの芹沢修也だ。ああ、この二頭は元人間で聖なる猫の会のメンバーらしいわ。普段はS市内にある動物園にいるらしいけど……う、ひょっとして動物園から抜け出してきたわけ!?
「お、日本酒が湧く泉だ! 美味いっ!」
「あ、こっちがウイスキーが湧く泉だ。ヒュー、最高だわ、ここは~☆」
「ちょ、お前らっ!」
「悠太君も飲む?」
「おい、俺は未成年だぞ!」
「あ、そうだったわね、クククク」
神倉と芹沢は、お酒が大好きみたいね――って、おい! 未成年である悠太に、お酒を飲ませようとすんなっ!
「む、誰かこっちに来るぞ!」
「シマリスを追いかける女のコが三人! わ、おい、俺の上着の中に逃げ込むなよーっ!」
ム、首に赤いマフラーを巻いたシマリスを追いかける三人組の狐耳と狐尻尾の生えた女のコと悠太達は遭遇する。コイツらマイナスか?
「うわ、男がいる! ア、アンタ達ィー! プ、プラスの連中なわけ?」
「あのシマリスの仲間よ、絶対! あ、でも、なんか違う気も……」
「つーか、でっかい猫がいるから私らの仲間じゃね? うちの幹部は大型の猫に変身できる方が多いし――」
「わ、ちょっと、なんなんだよ、お前らは――っ!」
首に赤いマフラーを巻いたシマリスが、ガサゴソと悠太の上着の中に潜り込む――と、その刹那、そんなシマリスを追いかけてきた狐耳狐尻尾の生えた三人組の女のコのひとりが、ドンッと悠太を押し倒す。
「捕まえた! この泥棒鼠ィィ!」
「う、うわあああ! 俺の服ごとシマリスを引っ張んな――ちょ、やめろ!」
悠太は真っ赤な顔をしながら、」大声を張りあげ、ドンッと逆に押し倒す。
「わお、大胆なことをするね~☆」
「あああ、ゴメンッッ!」
「あ、気にしなくてもいいよ、ウフフフ……ん、君って狐なんでしょう?」
「えっ!? おおお、俺のどこが狐なんだよ!」
「ウフフ、誤魔化さなくてもいいわよ。私達も狐だし、それに同胞だってことがニオイで判るわ」
悠太ったら純情ねぇ~☆ 茹蛸のような真っ赤な顔で謝罪しちゃってるし――てか、悠太が狐に変身できることがバレているわね。さて、狐耳狐尻尾が生えた三人組の女のコが、次の瞬間、紙袋を破裂させたようなバフッという軽い破裂音とともに狐の姿に変身するのだった。
「私達は女性のみで構成された武装集団マイナスに属す孤狐隊です。んで、アンタの上着ン中に潜り込んだシマリスに盗まれた食料を取り戻しにやって来た者です」
「え、コイツに盗まれた食料を取り戻しに来たって!?」
孤狐隊ねぇ、マイナスに属す部隊のひとつって名乗ったわね。さて、ニュッと上着の中に潜り込んだシマリスを引っ張り出す悠太――ん、そんなシマリスは胡桃を抱えているわね。盗まれたモノって、もしかして胡桃なのかな?
「こんな小さな胡桃くらい盗ったっていいじゃん!」
「小さな胡桃とはいえ、私達の大事な食糧なんだ! 生意気なことを言うな、こんにゃろ!」
「痛っ! デコピン、すっげぇ痛いっ!」
ひょいと悠太は、再び狐の姿から狐耳狐尻尾の女のコの姿に戻った孤狐隊の三人組にシマリスを投げ渡す。その刹那、三人のデコピン攻撃がシマリスを襲う。胡桃を盗んだわけだし、因果応報ってヤツだろうか、うーん。
「お、おい、許してやれよ。つーか、胡桃のひとつやふたつでごちゃごちゃ言うなって……」
「まったくだ。意地汚い小娘共だ!」
「五月蠅いですね。小さな胡桃とはいえ、我々にとっては大事な食糧なんです!」
「てか、こんな食べ物しかメーディアのバカタレが配給しないのが小動物に盗まれる原因だと思う」
「つーか、アンタ達ってプラスの仲間なの? そこらへんがすっげぇ気になるんですけどっ!」
「プ、プラス? うわ、剣っ……」
「返答によっては、この場で――」
「お、おい、プラスがなにかは知らんけど、なんで俺が絡まれるわけ!? お、おい、助けてくれよォォ!」
孤狐隊の三人が、ダッと一斉に悠太に襲いかかる。ひとりは悠太を羽交い絞めに、残りのふたりが腰からぶら下げる長剣を鞘から抜刀し、ズイッとそんな長剣の切っ先を悠太の首筋に突きつける。
「このウイスキー最高! 人間に戻れた暁にはシックなBARで飲みたい気分~☆」
「日本酒も最高だ。僕は洋酒より、こっちの方が好きだなぁ☆」
さて、チ-ターの神倉とユキヒョウの芹沢は、ウイスキーと日本酒の湧く泉に頭を突っ込んじゃってる。あちゃ~こりゃダメだ。
「スマン、悠太。すでに捕まってしまっている」
「お、おいィィィ!!」
あちゃ~アポロンはすでに孤狐隊のすでに捕まってしまっているわね。捕まるのが早いよ!
「おいおい、なんだか知らんけど、そのプラスってなんだよ!」
「男共に構成された武装勢力よ」」
「ウチらマイナスと酒泉郷を二分化している存在なのを知らないわけ?」
「知るかっ! 俺はそんなプラスなんて知らないしな!」
「ふ~ん、ホントに? 怪しい気がするけど、とりあえず、武器だけは引っ込めてあげるわ」
「ふ、ふうう……」
プラスではない――と、信じてもらえたかは定かだけど、悠太の首筋に長剣の切っ先を突きつける孤狐隊にふたりが、スッとそんな長剣を鞘に収める。だけど、相変わらず悠太は、弧隊のひとりに羽交い絞めを仕掛けられている。
「あのデカイ猫も捕まえたことだし、アンタ達をウチら弧狐隊のアジトへ連行します」
「うわ、神倉と芹沢まで捕まったわけ!? や、役立たずゥゥ~~!!」
「フフフ、いくらでかい猫とはいえ、酒の酔った状態だと、タダの猫だわ」
「さ、行くわよ。ま、悪いようにしないから、ご心配なく~☆」
「む、むぅぅ……」
酔っ払うと元も子もないわね。呆気なく弧狐隊の増援に捕まってしまう神倉と芹沢――あはは、猛獣もあれじゃあなぁ……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて、悠太達は弧狐隊の基地へ連行させられる。そんな彼女らのアジトは、樹齢千年は数える杉の大木の根本に掘られた穴の中である。実に狐らしい基地ってところかな?
「藍狐、翔狐、真狐、お帰り~♪」
「うわ、男だ! 見回りの藍狐達が男を連れて来たぞー!」
「ヒィーッ! でっかい猫も連れてきたわ!」
「わああ、この白いシマシマのでっかい猫は雄よ!」
「このイタチもね」
「おい、私はイタチではない。フェレットだ!」
悠太達が最初に出会った弧狐隊の三人は、藍狐、翔狐、真狐という名前らしいわね。それはともかく、弧狐隊の基地の中には、前述した三人を加えると、計九人の狐耳狐尻尾の生えた女のコの姿が見受けられる。これで全員!?
「さて、私達の姉妹を紹介しておく。優狐、冴狐、風弧、百合狐、凜狐、麗狐よ」
「は、はあ……ん、気のせい? アンタ達って着てる服は違うけど、みんな同じ顔をしてちゃいない?」
「当然でしょう? 私達は同じ日に生まれた九人姉妹なんだし――てか、動くな! まだプラスの仲間って疑いは晴れていないんだからっ!」
「ぐ、ぐぶぶっ……きゅ、九人で一斉に取り押さえるなよ、苦しいっ! ぐええ~……がくっ!」
弧狐隊の隊員は、全部で九人。んで、同じ顔をした九人姉妹――とまあ、そんな九人姉妹が一斉に悠太を取り押さえる。ああ、悠太の奴、気絶しちゃった。
「さて、コイツらをどうする? メーディア達マイナスの首脳部に引き渡す?」
「ん~面倒くさいから、それは却下でいいんじゃね?」
「そうそう、ついでにメーディアなんか大嫌い! ケチだし、意地悪だし!」
「同感! コイツらの処分は私らで!」
「うんうん、この泥棒シマリスと一緒に処刑しちゃってもいいかも~☆」
「男共は死刑でOKだよね~♪」
「お、おい、お前ら! 私はこう見えても神だ! 酒泉郷の主であるディオニュソスの兄弟神アポロンだ!」
マイナスはどうやら一枚岩ではない様子ね――ちょ、男共は死刑!? 悠太達が処刑されちゃうかもしれないわね!
「お前はなにを言っているんだ?」
「嘘を吐くなら、もっとまともな嘘を吐きましょうね、イタチ君!」
「ぐぬぬぬ、私はイタチではない――と、さっきも言わなかったか、貴様! とにかく、私を処刑するとディオニュソスが黙っていないぞ!」
「あ、そんなディオニュソスさんですが、私らには居場所が判らないのよねぇ」
「な、なんだと!? それはどういうことだ!」
「どういうことだって言われてもなぁ……」
「あの御方は風来坊らしいです」
「ウチらマイナスと敵対関係にあるプラスの間を行ったり来たりしているらしいわ」
「その前に、あの御方がどんな姿をしているのか、酒泉郷の住人である私らでもさっぱりなのよねぇ……」
そんなディオニュソスなら、兎や栗鼠といった小動物の雄で組織された武装集団であるプラスの本拠地にいるってことを知る由もないよね。ん、そういえば、弧狐隊の中にはひとりもいないようね。ディオニュソスと対面したことがある者が――。
「あ、そういえば、猛犬隊の連中がプラスの本拠地へ向かったらしい。風のウワサじゃディオニュソスさんがプラスの本拠地にいるっぽいのでメーディアが拉致するように命令したらしいわ」
「ディオニュソスを拉致するだと!? おい、その前にメーディアとは何者なんだ?」
「ああ、ウチらマイナスの女王みたいな――あ、酒泉郷で唯一の人間です」
「酒泉郷で唯一の人間だと!?」
「そうそう、ウチらと違って獣人じゃないのよね」
メーディアとは、マイナスの指導者――女王であり、酒泉郷の住人の中で唯一の人間のようだわ。
「ねえ、みんな……私らがディオニュソスさんを横取りしちゃうのってどうかな?」
「イイね! んで、あの薬をつくってもらいましょうか!」
「うんうん、上手くいけば、私らの悲願がっ!」
「悲願? なんだ、それは?」
「お前にゃ関係ないっつーか、早速、出張るわよ! あ、風狐、麗狐、捕まえた連中の監視を頼むわ!」
「えー、留守番なわけ? まあいいけどさ」
「はいはい~、いってら~☆」
「つーか、お前を一緒に連れて行く! この中で大人しくしててよね」
「ぐええ、首根っこをつかむな! 私は猫じゃないぞ……ぶぎゃあっ!
弧狐隊の悲願ってなんだろう!? とにかく、ディオニュソスになにかしらに薬をつくらせようと目論んでいるっぽいわね。さて、風狐と麗狐を留守番兼捕まえた悠太達の監視のために基地内に残すと、藍狐達七人の弧狐隊メンバー――姉妹達は、ダダダッと勢いよく基地の外へと飛び出す。ああ、弧狐隊のひとりである翔狐が背負っているハート型のリュックサックの中にアポロンを押し込む。アポロンになにかしらの利用価値を見出したってことだろうか!? むぅ、なにはともあれ、ディオニュソス争奪戦(?)は、さらに混迷を深めるのだった!




