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第十話 失われた記憶を求めて! その12

「ワオーン、大変です、ご主人様! いなくなったミーヤ隊長は、猛犬隊の本隊を呼びに行ったに違うないですバウ!」



「ご、ご主人様!? 私はいつからアンタの……むぅ、馴れ馴れしいわねぇ」



 猛犬隊の一頭であるコリーのエミリーは、私に完全服従したっぽいわね。ご主人様って私のことを呼んで尻尾を激しく振っているわ。



「バウウウ、狼のニオイがするバウ! 牧羊犬の血が騒ぐバウ! 羊達を守るバウ!」



「ぎゃっ! なにをするワン公! わらわの尻尾に噛みつくんじゃない、痛ぁー!」



 プラスの構成員の中には、武装した仔羊の姿も見受けられるわね。さて、牧羊犬と狼は天敵である。コリーは羊や馬といった家畜を狼などから守る犬だしね。とまあ、そんな古来から続く因縁(?)からかは知らないけど、エミリーは狼姫を敵視しているわね。



「そんなことより、猛犬隊の本隊の規模はどれくらいなのさ?」



「ええと、最低でも百頭は間違いなくいるバウ!」



「むぅ、けっこう多いなぁ。さ、どうしようか、茜?」



「みんなやっつけちゃおうか、沙希ちゃん」



「「「俺達も戦うぞ、エイエイ、オーッ!」」」



 ムム、エミリーの話じゃ最低でも百頭のワンコが猛犬隊に所属しているみたいね。多いわね、厄介だわ。ついでに、犬耳犬尻尾の女のコの姿に変身するんだろうなぁ。ま、とにかく、プラスの小動物達も戦う気満々の様子だ。



「あ、そういえば、アンタ達はディオニュソスを拉致しに来たんでしょう? その理由はなんなのかしら?」



「わあ、怖いなぁ。ガクガクブルブル……」



「ニヤニヤ笑っているけど、ホントに怖がっているのかしら?」



「ホントだよ~。怖くて怖くて、今にも失禁しそうだよぅ~☆」



「絶対に嘘だ。この状況を楽しんでいるでしょ、アンタ?」



 そういえば、猛犬隊の目的はディオニュソスを拉致することみたいだけど、その理由をエミリーに訊いてみるか――むぅ、ディオニュソスは、この状況を楽しんでいるっぽいわ。怖い怖いって言いながらも、ニヤニヤ満面の笑みを浮かべているしねぇ。



「さ~て~、わしも~たま~には運動~でもするかのう~」



「おお、老師ラビエルが参戦してくれるみたいだぞー!」



 う、私の背後でちんちくりんなサングラスをかけたオッサンと筋骨隆々のヒゲのオッサンが歓呼の声を張りあげる。ああ、さっきの二羽の兎ちゃんか――と、老師ラビエルが動く!? その実力を知りたいところだわ。



「判らないバウ。私らはメーディアからディオニュソスさんをプラスの連中のもとから拉致って来い言われただけで理由なんてなんにも……」



 それはともかく、ディオニュソスを拉致するように命令したのはメーディアという人物らしい。しかし、その理由まではエミリーにも判らないようね。



「あ、役に立つかは判らないけど、アイツを呼び出してみよう! 出でよ、タヌキチ!」



「ムニャムニャ、もう食べられないでヤンス……って、うわあああ!」



 そういえば、茜の使い魔である仙狐のタヌキチのことを忘れていたわ。んで、茜はシュッと懐から取り出したタロットカードの(スター)のカードを空中に投げる。その刹那、モコモコと星のカードが蠢き一匹の狸の姿に変化し、ゴトンと頭から地面に落下する。



「ううう、頭を強打してしまったでヤンス。それに頸椎を痛めたでヤンス。ああ、あっしの頭蓋骨の中で出血も……くも膜下出血でヤンス!」



「なにふざけたことを言ってるのよ。つーか、アンタにも手伝ってもらうよ、タヌキチ」



「ハハハ、冗談でヤンスよ。だから、唸り声を張りあげないでほしいでヤンス!」



 グルルッと茜は唸り声を張りあげながら、タヌキチをギロリと――てか、そんな茜はいつまで豹の姿に変身しているんだろう?



「お、美味そうな鼠がいるでヤンス~♪ あっしの朝飯でヤン……あべっ! ひでぼっ!」



 美味そうだってジュルリと口許をナメずり回すタヌキチだったけど、獲物として狙おうとした鼠が振りまわす三節棍の前に一網打尽にされてしまったわ。ふう、役に立つのか心配になってきたんだけど……。



「どうでもいいけど、猛犬隊の本隊を迎え撃つわよ、みんな!」



「了解です。丁度、空腹になってきたので栄養補給と洒落込みましょう」



「え、それってもしかして……」



「どうでもいいが遠吠えが聞こえるわ! 連中が来るぞ!」



 リュシムナートは迎え撃つ気満々の様子だ……って、おい! 吸血鬼であるアンタの空腹時の栄養補給って、もしかして!? ん、それはともかく、猛犬隊の本隊が、ついに私達がいるプラスの本拠地である酒泉郷の岩山に攻め込んできたっぽいわ! げ、迎撃だぁーっ!



                   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「あああ、たくさんの犬がワンワン吠える声が聞こえるっ!」



「うう、私はワンコが苦手なのよ! ギャンギャン五月蠅いし、おまけに齧るし!」



「あ、あっちゃん、ギャンギャン五月蠅いのはともかく、齧るワンちゃんは飼い主に問題があると思うんだけど……」



「ととと、とにかく、私はワンコが苦手なのっ! あああ、ワンコの鳴き声を聞くだけでストレスが溜まるわ!」



 アフロディーテと愛梨は、ひとつの身体を共用しているので、そんなふたりの会話は、ひとりで二役をこなすお笑い芸人のように見えてしまうのよねぇ。さて、愛梨はともかく、アフロディーテは犬が苦手らしいわ――というか、妙な偏見を持っているわね。



「お主ら~、連中が~来たぞ~」



「連中が来ただって、老師ラビエル!? わ、チワワとかダックスフントとかパピヨンとか、とにかく、ちっちゃい犬がたくさんやって来た!」



「わああ、可愛すぎる~☆」



 肩車とばかりに、私の肩にドカッと座る老師ラビエルが言うとおりだ。連中が――猛犬隊の本隊が、遂に……えええ、小型犬!? ちょ、猛犬隊の本隊ってチワワやダックスフントといった小型犬で構成された可愛い部隊なワケ!?



「キャンキャン! 狼と豹がいる! あああ、あの貧乳小娘は熊の仲間だキャン!」



「ちょ、なんだ、お前ーっ! いきなり貧乳小娘たぁ失礼じゃないかぁ!」



「みんな変身だキャンキャン!」



 う、うわあ、貧乳小娘って言われた! ちっちゃなチワワに……腑に落ちないぞ! その刹那、猛犬隊の本隊――百頭は確実にいる小型犬の軍団すべてが、軽い爆発音とともにエミリーや気絶しているサヴィアとミラと同じ犬耳犬尻尾が見受けられる人間の女のコの姿に変身したわ。あ、でも、ちょっと違うかなぁ、外見年齢とか人間時の衣装とか――。



「うわ、年増が多い!」



「だ、誰が年増だキャン! 私は人間の年齢じゃ二十代前半のオネーサンよ、まだ!」



「そうだ、そうだ! 失礼もいいところだワオン!」



「誰だ、今ババアっつった奴は! 私はまだ二十代だぞ、ガウウ!」



「おい、年増っつうのはリーダーのミーヤ隊長のことだガオ! ああ、私はまだ二十歳のオネーサン~☆」



「ぬああ、なにを言う! 私だって、まだまだぁ二十代だーっ!」



「あ、あああ、ゴメン! 未成年がいないからさぁ。若さが足りないなぁと思って……テヘ♪」



「「「テヘ……じゃねぇよ! 十分、若ぇよ、あたしらは――っ!」」」



 むぅ、なんだかんだと、未成年がいないわね。さて、人間の変身した時のエミリー、サヴィア、ミラは、私と同じ同世代の女のコの外見だけどさ。猛犬隊の本隊を構成する小型犬達が変身した姿は、皆、例外なく成人女性のものだし――つーか、十代の女のコがいないわね。



十代(ティーン)がひとりがいないようね」



「う、うん、確かにいないね」



「ん、そういえば、わらわの姿は、あの人間の姿に変身した犬共とそう変わらん姿だなぁ」



「ああ、私も外見だけなら二十代ですよ。実年齢は三千歳以上ですが~☆



 ああ、そういえば、愛梨は魔法少女に変身すると年齢が十歳ほど上乗せされるんだったわね。ついでに、人間の姿をしている時の狼姫も二十代半ばの成人女性の姿をしていたんだったわ。あ、リュシムナートは論外! 三千年以上も生きている吸血鬼の真祖だしねぇ。



「く、沙希ちゃん、分が悪いよ。アイツら小さな犬の姿のままなら、私達の魔術で一網打尽にできそうだったけど、みんな人間に変身しちゃったし……」



「しかもタイマン勝負と勝手が違うわ。無双する?」



「もちろんだ、サマエル! 猫斗真拳は複数相手でもOKな拳法だからな」



「沙希、集団戦闘の特訓と洒落込もうじゃないか!」



「わ、ヘルメス! いいい、いつの間に! むぅ、集団戦闘の特訓かぁ……」



「おお、ヘルメスじゃん、お久しぶり~☆」



「やあ、ディオニュソス。元気そうだね。しかし、相変わらず見事な女装じゃん。本物の女のコと見間違えるほどだ」



「でも、女のコの姿を完全再現するのって難しいねぇ。ここなんか絶対に無理だよ、ふう……」



「わあああ、スカートをたくしあげちゃダメェー! 大事なところが見えちゃうじゃん!」



 むぅ、タイマン勝負とは勝手が違うよねぇ。さ、突然、どこからともなく現れたヘルメスの言うとおり、集団戦法の特訓と洒落込んでみますかぁ――って、おい! ディオニュソスさん、スカートをたくしあげちゃダメーっ!



「ワオオオオン! プラスの小動物共、そして裏切り者共を八つ裂きにするガウッ! ディオニュソスさんを探すのは、それからだガウウウ!」



「「「ワオオオン! アオオオン!」」」



 猛犬隊のリーダーであるミーヤが、スゥと右手を頭上にかかげる。戦闘開始の合図だ! 犬耳犬尻尾のオネーサンに変身した百頭のワンコ達が一斉に襲いかかってきたわ! こ、こりゃ、無双するっきゃないよね? よ、よ~し、ホッキョクグマに変身だァァ~~!

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