第十話 失われた記憶を求めて!
久しぶりに主人公の沙希が登場する話です。
~登場人物~
・山崎沙希――主人公。最凶の魔道書ネクロノミコンを所持する魔法少女。特技はホッキョクグマに変身すること。
・狼姫――沙希の使い魔で金髪碧眼の欧米人のような姿をした鬼神。
・サマエル――通称、蛇女。爬虫類をこよなく愛する外国人魔法少女。
・キョウタロウ――サマエルの愛猫兼使い魔の黒猫。
・三嶋愛梨――新人、魔法少女。変身すると大人になる。
・アフロディーテ――アヒルの姿をした自称、美神。
・蓮田茜――沙希の親友。猫カフェでアルバイト中。
・老師ラビエル――拳法の達人(?)であるヨボヨボに老いた兎獣人
「うーむ、引っかかるんだよなぁ。ローマ帝国という言葉が、頭の中でガンガンと……」
「お客様!」
「ついでに、この十字架が気になる。ええと、誰にもらったんだったかな?」
「お客様ァァ!」
「おう、どうしたんだ? つーか、わらわは、この『THE・ローマ帝国』という本を読むのに忙しいんだ。話は後にしてくれ!」
「だあああっ! た、立ち読み禁止です! それにお菓子を食べながら立ち読みをしないでください!」
「う、うおお、なにをする! ぎゃふんっ!」
と、そんな感じで訪れた古本屋から強制退去させられた者は、狐や狼といった犬科の野生動物のようなギンッと押っ立つ大きな獣耳が見受けられる金髪碧眼の白人美女である。ちなみに、無地の赤いTシャツに白いホットパンツといったラフな衣装を着こなしている。
「ムムム、立ち読みくらいで怒鳴ることもなんだろう。このデブチビハゲがぁ!」
「おう、なにか文句があるのかよ! 警察を呼ぶぞ、ゴルァ!」
「うぬぅ、生意気な奴め! 八つ裂きにするぞ、があああっ!」
「うお、なんだ、コイツ! 狼男……狼女って感じだな、おい!」
その立ち読みが問題である。おまけにお菓子を食べながらという非常識な行為は、店員側としては迷惑の極みってところだろう。さて、そんな悪態をついた刹那、獣耳の女の犬歯がグワッと伸び、おまけに両手の五指の爪が、ガキンッと冷たい光を放つ刃物のような鉤爪に変化する。もしかして、古本屋の店主を――っ!?
「ストップ、ストォォップ!! やめぇぇぇい! そこまでよ、狼姫! さ、帰るわよっつうか、令呪の呪文を唱えちゃうかなぁ~☆」
「ぐわ、沙希! 判ったっ! 判ったから、その呪文を唱えるなァァ~~!」
とまあ、そんな感じで私、参上! とにかく、今は獣耳の女――狼姫を連れ帰んなきゃいけないわね。え、どこにって当然、私こと山崎沙希の自宅によ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ガアア、腑に落ちん! あのデブチビハゲめ、八つ裂きにしてやる!」
「まあ、落ち着きなって。ほら、メロンパンよ」
「おお、わらわの好物ではないか♪ よ、寄越せェェ!」
ふう、私は狼姫を連れて繁華街の浪岡商店街アーケードの裏通りにある公園へとやって来る。ブランコに滑り台、それに鉄棒といった遊具、その他に砂場や公衆トイレもあるポピュラーな公園だ。
「ああ、そうだ。この本を見てくれ」
「ちょ、もしかして、さっきの古本屋で万引きしてきたんじゃ!?」
「万引きってなんだ? まあいいじゃないか、気にするな」
「気にするよ! 仕方がない。後から穏行の術を行使した状態で、この本を古本屋に戻しておくかなぁ……」
ふう、世話が焼けるわね。ま、とりあえず、後から穏行の術――姿を見えなくする術を行使し、姿を消した状態で、さっきの古本屋へ出張り、狼姫が万引きしてきた本を返却しておけばいいかなぁ。
「おい、どうでもいいがローマ帝国ってなんだ! わらわは何故か気になるんだ! この錆びた十字架が関係あるっぽいのだが、さっぱり思い出せん!」
そういえば、狼姫の奴、自分の出自をまったく覚えていないんだったわね。千年の昔、私が住む○○県S市の英雄的存在である伝説の陰陽師――藤原紀典に封印されたことが原因なんだろうか? あ、でも、戦国時代に封印を破り、京都へ出張り、そこで出会った宣教師と仲良くなった、みたいなことを言っていた気がする。
「ローマ帝国? 歴史に詳しくない私でも、これだけは判る! 紀元前から存在し、十五世紀あたりまで存在していた大帝国ってことだけは! 後、お風呂が大好きだった!」
私は歴史に詳しくはないけど、そんな私でもローマ帝国のことをそこそこ知っている。一言で言えば、ヨーロッパの基礎をつくった大帝国だ。五世紀に東西に分裂してしまったけど、千年以上、存在し続けたのは圧巻だ。
「うーん、なにも思い出せんのだ! これ以上、考えると混乱しそうだ!」
「無理に思い出さなくてもいいと思う」
「そ、そうか? うう~ん……」
狼姫は腕組みをし、首を右横に軽く傾けながら、グヌヌヌと眉をひそめて考え込む。うーむ、無理に思い出す必要なんてないと思うんだけどなぁ……。
「そいつの出自はともかく、昔のことを思い出せないのは、きっとなにかしらの精神的障害があるからね」
「あ、蛇女……いや、サマエル」
うーむ、ごもっともな意見である。なにかしらの精神的障害が原因で昔のことを思い出すことができないんだろう。それはともかく、愛猫で使い魔の黒猫のキョウタロウを連れたサマエルが。フッと長い金髪をなびかせながら現れる。
「ごきげんよう、白熊さん……いや、沙希さん」
「むう、私は熊じゃねぇ!」
「さて、話は聞かせてもらったわ。狼姫は自分の出自のことで悩んでいるようね」
「ムムム、話を全部、聞いていたのか、お前!」
ホッキョクグマに変身できるけど、私は熊じゃない。私は人間だ! てか、私と狼姫の話を盗み聞きしていたな、コイツ! 思わずイラッとしてしまったけど、ここは我慢、我慢。
「ああ、助けになるかは判らないけど、どうしても昔のことを思い出したいなら、丁度いい〝御方〟を紹介するわよ」
「な、なにィ……是非とも! 頭の中に立ち込める暗雲を晴らすためには丁度いい!」
ふ~ん、どうして思い出せない昔のことを思い出させることが可能な人物がいるわけね。狼姫にとっては絶好の条件を満たしているわね。
「あ、ああ、その人なら、そろそろ、ここへ……あ、来たわ」
「ん、一羽のアヒルを連れたお姉さん?」
サマエルの知り合いかな? 首に黄色いマフラーを巻いた一羽のアヒルを連れた長身痩躯のお姉さんがやって来る。才色兼備なキレイな人だわ――と、そんなお姉さんとアヒルなのかな? 狼姫のどうしても思い出せない昔の記憶を思い出させることができるという〝御方〟は!?
「あ、私は三嶋愛梨って言います。こう見えても中学三年生なんです!」
「ウフン、私の名はアフロディーテよ。美の女神よ!」
え、中学三年生!? ウチの愚弟こと悠太と同級生なの! し、信じられない。三嶋愛梨と名乗るお姉さんは、見た目は二十代半ばくらいなのになぁ。ついでに、一緒にいるアヒルがしゃべる。古代ギリシャの美の女神アフロディーテと名乗っているけど、お姉さんこと三嶋愛梨の使い魔だろうか?
「ま、とりあえず、そこの喫茶店で詳しい話を聞きましょうか――」
「む、猫カフェかな? まあ、行ってみよう」
うん、なんだかんだと、詳しい話をそこで――と、私と狼姫、それにサマエルとアフロディーテと名乗るしゃべるアヒルを連れたお姉さんこと三嶋愛梨は、今いる公園を出てすぐのところにある猫カフェへと向かう。




