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第九話 男装魔法少女と炉の女神 その13

 人工的に固有結界がどんなモノなのかはともかく、ここは広大だ。まあ、大部分が真っ暗闇の空間なので、実際の規模は判らないけどね。



 さて、イシュタルの人口固有結界内には、無数の建物がある。例えば、奥から声が聞こえる古代ギリシャ風の神殿とか、イシュタルが浩史さんを連れ去ったもうひとつの古代ギリシャ風の神殿などなど――。



「ん、神殿の奥から声が聞こえる。間違いないわ!」



「どれどれ……あ、ああ、確かになにか聞こえるな。やっぱり誰かいるぞ、ここに!」



「あらあら、ここは牢屋みたいだわ」



「ふむ、円柱に貼ってあるプレートには、ラテン語で立ち入り禁止と書いてあるわね」



「ラテン語だぁ? 俺は読めないぞ、エリザベート! てか、中に誰がいるんだよ?」



「入ってみよう。さあ、行くぞ、タツ!」



 目の前にドンとそびえ立つ神殿は牢屋!? んじゃ、この神殿にいる者は、一体――よし、先行して中に入り込んだクロベエの後を追うかたちで俺は意を決し、中に入り込む。



「中は真っ暗ね。ま、当然か――」



「外の柱に括りつけてあった松明を持ってきた。これで中を照らそう」



「うがぁ! わらわをここから出せェェ!」



「わ、雷鳴のような声だ! 耳がキーンとする!」



 神殿内は真っ暗闇だが、松明の灯りがあれば! さ、そんな神殿内はどうなっているのやら――あ、間違いなく声が聞こえる。しかし、鬱陶しいくらいの大声だな。やっぱり誰かいるみたいだ。



「倉庫って感じね。でも、荷物らしいモノがなにひとつ……ん、コンテナのようなモノがあるわね?」



「お、何かにナニかいるぞ!」



「むぅ、黄色いマフラーを首に巻いた真っ白な狐がいる!」



 神殿内は、倉庫って感じだ。だが、なにもない殺風景な――てか、奥に格子戸のあるコンテナがあり、その中を松明の灯りで照らすと、黄色いマフラーを首に巻いた一匹の白い狐の姿が――。



「むぅ、お前は何者だ!?」



「お前こそ何者だ? ああ、冥王ハーデスかな、ペンギン君?」



「うお、まさかお前はっ! 僕と同じ冥王か?」



「いかにも、わらわは冥界の女王エレキシュガルの――分霊だ」



 コンテナの中にいる白い狐に対し、はっちゃんが食って掛かる、おいおい! てか、そんなはっちゃんに対し、白い狐は冷静にエレキシュガルと名乗る。そういえば、シュメール神話に出てくる冥界の女王の名前だったな。



「おお、どうでもいいが、一緒にいるのはネルガル殿! わらわをここから出してほしい!」



「ネルガル? 俺の名前はクロベエだ。狐違いではないのか?」



「わらわの気のせいだったのか? ううむ……」



 ネルガルはエレキシュガルの夫だった気がする。クロベエと同じ黒い狐の姿をしているのかもしれないなぁ。



「フン、まあいい。コンテナの格子戸を開けるぞ……む、鍵がかかっていないぞ。お前、気づかなかったのか?」



「な、なにィィ! ぐぬぬぬ、いつでも逃げ出せる状況だったのか……おのれ、イナンナ! 絶対に出られないって言ってたのは嘘だったのか!」



 コンテナの格子戸には鍵がかかっていなかったようだ。白い狐ことエレキシュガルは、そのことに気づいていなかったみたいだ。マヌケだなぁ、ハハ♪



「イナンナ?」



「おう、ガスマスクで素顔を隠している怪人のことだ」



「あ、ああ、イシュタルって輩のことだな?」



「ぐぬぬぬ、なにはともあえ、わらわはアイツとそのお友達の怨霊ズとかいう連中に騙され、ここに幽閉されたのだ!」



「ゆ、幽閉? コンテナの格子戸は開いてたのにねぇ……」



「う、五月蠅い! どうでもいいが、あの怪人のもとへ連れて行け! リベンジだァァ~~!」



「あらあら、元気ですね、エルちゃん~☆」



「な、なんだ、そのアダ名はァァ~~!」



 エレキシュガルの真っ白な身体が、ゴオオッと一瞬だけ真っ赤に変色する。ハハ、なんだかんだと、イシュタル&怨霊ズに対し、復讐をしたいわけね。



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 さて、冥界の女王エレキシュガルの分霊――略してエル曰く、好物の油揚げで釣られたようだ。んで、協力して姫神塚古墳周辺を冥界に一部に変えたようだ。んで、その後は用済みとばかりにイシュタル&怨霊ズに、今いる神殿の奥に幽閉されたらしい――てか、幽閉されたと思い込んでいたって方が正しいかな? 格子戸のあるコンテナの鍵はかかっていなかったしねぇ。



「お、いきなり外が急に明るくなった!」



 エルを神殿の外に連れ出したおかげなのかは定かだけど、神殿の外に出ると同時に、真っ暗闇だった人口固有結界内が明るくなる。夜明けを演出しているかのようだ。



「フン、食べ物で釣られるとは馬鹿な奴め!」



「仕方がないじゃない。空腹には例え神であっても耐え難く忍び難いのだ!」



「言い訳か?」



「ウフフ、口喧嘩は後回しよ。今は怨霊の大群をやっつけなきゃ~☆」



「うわあ、足軽って感じの怨霊共がいっぱい!」



「ふむふむ、ボロ着を着た百姓って感じの怨霊も混じっている集団だね」



 さてさて、エレキシュガルが幽閉(?)されていた神殿の外が明るくなる同時に、今まで見えなかったモノが明るみになるのは当然である。んで、俺は思わず悲鳴をあげる。なにせ、全身血まみれの落ち武者の姿をした怨霊、ボロ着姿の竹槍や鍬で武装した百姓の姿をした怨霊――と、とにかく、そんな連中が、ずらりと雁首をそろえて待ち構えていたわけで! ムムム、その数は最低でも百体……ま、まるでこれから百姓一揆でも起こそうとしているかのようだ!



「クククク、コレダケノ数ノ怨霊ヲ相手ニデキルカナ?」



「む、貴様は義元!」



「うおおお、アイツは怨霊ズ四天王のひとりであります、少佐殿!」



「うお、大物キター! でも、よくよく考えてみると場違いな恰好じゃないか?」



 ボロ着姿の怨霊の中に鎧兜で武装した武将の姿が――コイツも怨霊か!? 井川が怨霊ズ四天王ひとりだって言っているし、なんだかんだと大物とのご対面である。



「我ガ名ハ稲川義元! 怨霊ズ四天王ノヒトリヨ!」



 ムム、どこかで聞いたことがある戦国武将みたいな名前だな。さて、実力のほどはどうなんだろうねぇ。



「某戦国武将に似てるな」



「うん、名前だけね」



「つーか、自分に手を汚さす。部下になんでもやらせるタイプのような気がする」



「ハハ、確かにね! てか、ああいうタイプは口先だけは立派でも、実力の方はからっきしダメって相場が決まっているよね」



「ウオオオ、貴様ラァァァ!」



 全身血まみれの落ち武者の怨霊、ボロ着を着た百姓の姿をした怨霊共を率いて現れた怨霊ズ四天王――稲川義元はキレた。当然だよなぁ、あれだけ言われりゃ……。



「まあいいや、コイツら俺がなんとかするよ。獣王舞踏祭(ビーストパーティー)!」



 仕方がない、切り札を使わせてもらうか! むぅ、稲川義元が率いる怨霊軍団を退くことができればいいんだが……とにかく、発動だ!



「ペルセポネー、私も手伝う! 獣王舞踏祭!」



 獣王舞踏祭とは、俺の獣の姿をした使い魔達を一斉に巨大化させた姿で顕現させる荒業である。ちなみに、エリザベートも獣型の使い魔を多数、従えているので同じ荒業を使うことができる! 



「ウオ、ナンダ、アノ巨大ナ鼻ノ長イ巨大生物ハッ……ヤ、ヤメロ! ギャアアア!」



「パオオオン! なんか潰しちゃった!」



 ライオン、ヌー、サイ、キリン、シマウマ、ハイエナ、チンパンジーといった巨大化した俺とエリザベートの使い魔達が一斉に顕現し、ドッと稲川義元が率いる怨霊軍団に向かって突撃する。



「あ、稲川がペチャンコに……」



 あ、稲川をただでさえ巨大な姿をしているのに、獣王舞踏祭に行使でさらに大きく雄々しい姿となったアフリカゾウの姿をした使い魔のピエール君の前足がグシャッと踏みつぶす。



「ム、無念……ガクッ!」



 と、稲川がつぶやいた気がする。再起不能(リタイア)か? あ、でも、怨霊ズ四天王と呼ばれている連中のひとりだし、しぶとく生きてそうだ……あ、すでに死んでいたな、コイツ。



「そういえば、浩史さんはどうなったんだろう?」



「ウキキキ! ご主人様、怨霊の頭を持ってきたよ~☆」



「う、うわ、そんなモノ要らないよ!」



 獣王舞踏祭の行使で巨大化した俺の使い魔達が、怨霊共を蹴散らしていく。とまあ、そんな中、俺はふとは思う。イシュタルに拉致された浩史さんがどうなったのかと――。



                   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 



「クソがァァ~~! 俺をここから出せぇ!」



 と、浩史さんは叫ぶ! だが、返事がない。シーンと静まり返るだけである。そんな浩史さんが今いるのは、第二監禁神殿という場所である。イシュタルが彼を連れ去った神殿だ。



「まったく、あのガスマスクの怪人め! ここから出たら絶対フルボッコにしてやる! しかし、真っ暗闇だな、ここ……うう、暗いのって嫌だなぁ」



「ああ、その声はやっぱり浩史さんだ!」



「うお、誰かいるのかよ! つーか、なんで俺の名前を!?」



 第二監禁神殿内は、真っ暗闇である。黒一色染まった暗澹な空間は、闇に怯える浩史さんの恐怖心を煽り、そして彼の平常心を狂わせようと浸食を始める。そんな中、彼に対し、声をかける者が現れる。



「も、もしかして麻耶ちゃん……麻耶ちゃんなのか!」



「そうよ、浩史さん。でも、今の私は肉体を失った亡霊……」



「そ、そうだったな。三日前に突然、逝ってしまったんだったな……」



 声の正体は、麻耶という女性らしい。肉体を失った亡霊って言っているので、ひょっとして亡くなった浩史さんの彼女では!?



「ああ、良かった。あの猫の亡霊は一緒じゃないのね」



「赤錆丸のことか? アイなら今頃、本当の冥界へ――おおっと、そんなことより、麻耶ちゃんの幽霊に訊きたい。なんでここにいるのかを!」



「それが判れば苦労はしないわ!」



「あ、ああ、ゴメン!」



「こっちこそ怒鳴ってしまってごめんなさい、浩史さん……。ただ判っているのは、私と浩史さんをイザナミとイザナギに見立てて、なにかを行いつもりよ、アイツらは!」



「む、むぅ、なにがなんだかよく判らないぜ!」



 暗澹とした真っ暗闇の中で、そう姿を見せない浩史さんの亡くなった彼女の亡霊こと麻耶は語る。イシュタルと怨霊ズは。ふたりをイザナミ、イザナギに見立ててなにかを行い気!? つーか、イザナミとイザナギは我が国、日本を創造したとされる神だった気がする。



「ん、そういや、動けないぞ! 真っ暗でなにも見えないが手足が拘束されている! うお、まぶしいっ!」



「やあ、イザナギ。君の彼女は強情だな。中々、この中に入ってくれなくて苦戦したよ、クククク」



「うお、ガスマスクの怪人!」



 さて、浩史さんは手足が動かないことに気づく。んで、そのことに気づいた直後、カッと周囲が明るくなり、現場が明るみとなる――浩史さんは手術台に寝かされてた状態で拘束されていたのだ! そしてドンッと見下ろすガスマスクの怪人ことイシュタルの姿が!

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