表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/118

第九話 男装魔法少女と炉の女神 その4

 少しだけ時間はさかのぼる。つーか、〝意外な場所〟と魔術師墓場はつながっていたわけだ。



「うお、ここは空家か? 火災に遭った感じの……ん、もしかして?」



「ん、この火災に遭い骨組みを残して放置されている空家を知っているのか?」



「ここは二ヶ月ほど前に放火被害に遭い一家全員が亡くなった加地さん宅だ。ハハハ、まさかこことつながっているなんて……」



 俺とエリザベート、それにクロベエとはっちゃんが地下の魔術師墓場より地上へと帰還した先というのは、今から大体二ヶ月ほど前に放火という不幸に見舞われて火災消失した焼け焦げた骨組みを残し、そのままの状態で放置されている加地さん宅である。ああ、ちなみに場所は、俺の自宅の四件右隣だ。しかし、加地さん宅が火事に遭うとか皮肉な語呂合わせだなぁ。



「魔術師墓場につながる通路は複数存在する。ここのそのうちのひとつだろう」



「そ、そうなのか? じゃあ、別の場所にもつながっているわけね」



「確か、お前の自宅の近所にある公園の砂場ともつながっているはずさ」



「こ、公園の砂場と!? ううむ……」



 ちょ、そんな場所にもつながっているのかよ。下手したら、そんな公園で遊んでいる子供なんかが迷い込んでしまうじゃん!



「あ、女のコみたいな顔のお兄ちゃんだ。あ、砂場に階段が……わー入っちゃえ♪」



「おわあああ、(わたる)君、ダメだァァ!」



 うわ、早速、顔見知りの近所のガキンチョが砂場にぽっかりと開いた穴――魔術師墓場へと入り込んでしまう。うく、すぐに連れ帰んなきゃ!



「ぐぬぬ、渉君を連れ戻しに行かなくちゃな。ふう……」



 まったく、突然のトラブルだ。仕方がないなぁ、そんなトラブルを――魔術師墓場へと入り込んだ渉君を連れ戻し、面倒事を早々と解決しておかなくちゃ! やれやれだぜ。



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 さてと、時間を戻そう。俺はエリザベートとクロベエ、それに冥王ハーデスことキングペンギンのはっちゃんとともに美しい花々と林檎、柘榴、蜜柑などなどの果実がたわわに実る木々が生い茂るデメさんの固有結界――夢幻花園へと足を踏み入れる。



「なるほど、魔術師墓場に闖入者が潜り込んじゃったみたいね」



「う、うん、ほら、右斜め向かいの大竹さん宅の渉君が入り込んじゃってさ……」



「ああ、あの坊やね? ウフフ、勇敢ね。そして無謀だわ」



「アハハハ、確かに……」



 ふう、あの渉君を連れ戻すのに、そんなに時間はかからなかったけど、油断しちゃいけないな。あの坊主は絶対、魔術師墓場に再び入ろうとするはずだ。厄介なことに、ガキンチョのクセに死をも恐れぬ勇者の心を持っているからなぁ。



「な、なあ、どうでもいいけど、ここにいる男は俺とタツだけだよな? むぅ、怖い顔をした軍人みたいな女もやって来たぞ、ヒィィィ!」



「アハハハ、あれはテュポンさんだ。ここの番人のリーダーみたいなお人さ。ああ、ついでだけどさ、浩史さん。今の俺は――と、そんなことより、はっちゃんを連れてきたよ、義母さん」



 デメさんの固有結界こと夢幻花園の規模は、そりゃもうトンでもなく広大だ。んで、そんな夢幻花園には、主であるデメさんに選ばれた者、または魔物狩りを生業とするハンターや魔術師から逃げてきたモノ達を保護し、住人として匿っていたりする。ああ、ちなみに後者がゴルゴン三姉妹だったりするわけだ。



 ああ、ついでにだけど、夢幻花園には男性はいない。いや、入ることが許されない女の聖域と言ってもいいのかもしれない。そんな理由もあるのかな? ここに仮に男性が入り込んだ場合、性別が入れ替わってしまうらしい。ん、でも、浩史さんは男のままなんだが……どういうことなんだ!?



「うおお、そういえば、俺に厄介な亡霊が憑いているんだよな? なんだよ、その厄介な亡霊っつうのはァァァ!!」



 おっと、忘れちゃいけない。浩史さんには厄介な亡霊が憑いているんだった。んで、そいつの正体を知るためにもはっちゃんの存在が必要不可欠である。



「うーん、憑いているね。魔術師型のマイナス思念体の一部が――しかも高レベル! 怨霊だわ、絶対!」



「おおお、怨霊が俺に憑いているだと!? う、うわああ、その前にペンギンがしゃべった!!」



「きゃあああっ! どこに潜り込んでいるのよ!」



 そりゃペンギンがしゃべれば驚くよな。てか、悲鳴をあげながら浩史さんは、夢幻花園の住人のひとりであるゴルゴン三姉妹のひとり――長女ステンノーが着こなす白いワンピースのスカートの中に潜り込む。あ、顔面にステンノーの膝蹴りがクリーンヒットしたぞ。



「うう、青と白の縞々のパンツ……ぐえっ!」



「わあああん! 公開すんな、スケベェェ!」



「おお、姉者の肘打ち、裏拳、正拳の怒涛のラッシュが、あの男にすべてクリーンヒットしたな」



「だけど、ニタニタ笑っているよ。き、気持ちが悪い!」



「無駄にタフなだけだよ……」



 浩史さんはタフだ。ステンノーの怒涛の連続攻撃を食らったのに、ニタニタ笑って平然と立っているし……気持ち悪いなぁ、確かに! ああ、ゴルゴン三姉妹だけど、赤いジャージと黒いバンダナという恰好をしているのが次女のエウリュアレー。素顔を紙袋で覆っているヘンテコリンな女のコの方がメデューサである。



「そんなことより、お前、どこで〝あんなモノ〟を? そういえば、この町には有名な心霊スポットがあったような?」



「ん、姫神塚古墳のこと?」



「ああ、そこだ――というか、お前、あの古墳の〝玄室〟に足を踏み入れただろう?」



「げ、玄室なんだ、そりゃ?」



「ウフフ、ありていに言えば古代の遺体安置所よ。空っぽの石棺があるって話だったわね?」



「あ、聞いたことがある。姫神塚古墳は江戸時代に盗掘被害に遭ったらしい。そんなわけで玄室に安置された石棺の中身が空っぽだとか――てか、あそこは閉鎖されているはずだよ。何年か前に落盤事故が起きて犠牲者が出たって理由で――」



 姫神塚古墳とは、俺が住む○○県S市内には最凶最悪の神霊スポットである。場所は何気にS市の繁華街である浪岡商店街アーケードの近場にある浪岡自然公園内にあるので行こうと思えばすぐに――と、それはともかく、あの古墳の周辺は立ち入り禁止区画に指定されている。が、しかし、心霊写真を撮ろうと目論むオカルトマニアな連中が夜な夜な出没するんだよなぁ。あそこで写真を写すと高い確率で写るって聞くし……。



「怨霊の正体は鳴神姫じゃね?」



「あら、それって、あの古墳の被葬者の名前かしら?」



「うん、でも、実際は判っていないらしい」



「ふむふむ、そういえば、件の鳴神姫は縁結びの神と呼ばれていたわね」



 鳴神姫は姫神塚古墳の被葬者の亡霊である。しかし、本当にそうなのかは判らない。真相は歴史の闇に中ってヤツだ。そういえば、あの亡霊のことを縁結びの神とか福の神って呼んでいる連中もいるんだよなぁ。そんなわけで一種の都市伝説と化しているのも、また然り。



「おい、そこの男」



「お、おう、なんだよ、しゃべるペンギン!」



「お前、本当にあの古墳の玄室に足を踏み入れていないんだろうな? 僕が言うのもなんだが、あそこには〝集まる〟んだ。古代、中世、近世――とにかく、この町で無念の死を遂げた人間のマイナス思念体が!」



「ま、マイナス思念体!? それって幽霊のことかよ?」



「そういうことになる。さて、どうなんだ?」



「う、ううう……は、入ったよ! 入りました! 一週間くらい前に彼女と一緒に!」



 ムムム、浩史さん、やっぱり、あの古墳の玄室の入り込んだわけね。しかし、はっちゃんの話を聞くとトンでもない場所のようだ。



「うおー、やっぱりあそこに入ったのか!? 馬鹿者ぉ!」



「いてぇ! 突っつくなよ!」



「フン、まあいい。とりあえず、引っ張り出すとするか――」


 左右の羽のない翼をバタバタさせながら、はっちゃんは嘴による怒涛の突き攻撃を浩史さんにぶちかます。ん、ナニを引っ張り出すの?



「う、うおおお、俺の胸に穴が開いたァァァ!? あ、でも、痛くない……どういうこと?」



 ドンッ! と、浩史さんの胸にサッカーボールと同サイズの大きさの真っ黒なぽっかりと開く。な、なんだ、あれは――っ!!



「誰かあの〝穴〟に中に手を突っ込むんだ! あの男の身体に憑いているモノを引っ張り出すんだ!」



「「「えええーっ!! だが、断る!」」」



 嫌です! 俺とゴルゴン三姉妹は即、断る。だって気持ち悪いじゃん。浩史さんの胸にぽっかりと開いた黒い穴の中に潜むモノを引っ張り出すとか……うう、想像すると寒気が走る!



「フ、ここはボクに任せてくれたまえ♪」



「お、お前は――っ!?」



 ん、どこからともなくキザな色男が現れる。んで、フッと前髪をかき分けながら、浩史さんのもとへ歩み寄る。



「アイツはナルキッソス。デメさんのお友達のひとりだ。んで、自分以外に興味がない自己陶酔者(ナルシスト)だ。ああ、ちなみに、アイツはああ見えても――」



「フフフ、君が何故、男のままなのか気になるところだ。ボクなんて、ほら……♪」



「うお、胸がある! 男装女子か、お前!」



 ナルキッソスは浩史さんの左手を両手でつかむと、スッと自分の右胸に押し当てる。ふむ、そんなナルキッソスも俺と同じ男装女子のようだ。しかし、コイツから薔薇の香水を必要以上に身体中にぶっかけているな。ちょっと不快だなぁ。



「さて、ちょっと汚いのが不快だが、この美しき幻想郷(アルカディア)にあるまじき存在をボクは許さないっ!」



「うおおお、男装姉ちゃんが俺の胸に開いた穴に手を突っ込みやがった!」



「お、おい、ナルキッソスがなにかを引っ張り出したぞ!? ま、真っ赤な……血まみれの黒いオーラをまとった猫だ! 猫を引っ張り出したぞ!」



 キッと鋭い声を張りあげるナルキッソスは、勢いよく自身の右手を浩史さんの胸に開いた黒い穴へと突っ込む。うお、真っ赤な血まみれの猫? ああ、黒いオーラのようなモノをまとった禍々しい猫を引っ張り出した! あれが浩史さんに憑いた怨霊なのか!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ