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第九話 男装魔法少女と炉の女神 その2

 あの人――あの神様がやって来てから、俺の周りでは不思議な現象が連続で起きまくっている。そんなわけで俺は驚いてばかりいる。



 ん、どんな不思議な現象が起きているのかって? そうだな、いくつか例をあげると、俺の爺ちゃんがつい最近、自宅の庭に植樹した林檎と桃、そして柘榴(ザクロ)の苗木が突然、枝もたわわな果実を実らせるほどに巨木に急成長したとか、自宅の庭とその周辺が種なんて絶対に植えていないはずなのにバアアアと赤、黄、白と色鮮やかな薔薇の花が咲き乱れる花園と化すとか、植物三昧な現象が起きているってわけ。



「わああ、太田さん宅の周りに咲き乱れる薔薇の花が増えちゃいないか? こりゃ花園って感じだ。しかし、不思議な出来事もあるもんだなぁ……」



「こんにちは、山田さん。薔薇の花が欲しければ、差しあげますよ。ウフフフ♪」



 と、俺の家の周囲で起きる変化に驚く真向いの家に住む山田一家の長男、浩史(二十九歳、無職童貞)は、茫然としながら、ジッとそんな俺の家の周囲に咲き乱れる薔薇の花を――ん、浩史さんに声をかける者が現れる。ジーンズとTシャツというラフ格好の上から赤いチェックのエプロンを羽織る長身痩躯の金髪碧眼の女性だ。ええと、外見年齢は二十代後半から三十代前半ってところかなぁ?



「あ、デメさん。それじゃもらっておこうかなぁ」



「そういえば、顔色が悪いですね。ちょっとアルコール臭がします。ひょっとして二日酔いですか? 薬を煎じますよ、ウフフ」



「エヘヘ、悪いっすね。それじゃ、薬ももらっておきます!」



 さて、浩史さんに声をかけた女の人の名前はデメーテル。通称、デメさん。我が家の居候で、俺のことを行方不明になっている娘さんと勘違いしている――女神でもある。



「ところで山田さん、なにかお困りのようですね。トンでもない悩みを抱えているって感じの切羽詰まった心境が顔に出ていますよ?」



「う、なんでもないですよ。アハハハ、どうせ話して判らないだろうし……」



 浩史さんは昼間から酔っ払っている。ついでに、なにかしらの悩みを抱えているんだろうか? 彼の顔には切羽詰まった心境が彩っている。顔色が悪い……。



「うーん、悩み事は女性絡みですか? さて、アナタの後ろに妖気のようなモノを感じます。憑かれていますね」



「え、憑かれている!? ア、アハハ、変な冗談はやめてくださいよ、デメさん」



「冗談じゃありません! ――というか、私で良ければ悩みを聞きますよ。このままだと、アナタの命が危ない気がします」



「う、命が危ない!? そ、そう言われると不安な気分になりますね。だけど、個人的な問題ですし、ペラペラ話す気にも……あるぇ? なんだ、勝手に口が……うおおお、急に話したくなったァァ!」



 命が危ない!? 浩史さんの身に〝ナニ〟が憑いているんだろう? とにかく、浩史さんはデメさんに悩み事を語り始める。てか、一瞬だけど、デメさんの眼がキランと光ったぞ。ああ、なにかしらの魔術をかけたな。ありゃ強制的に語らされるんだろうなぁ……。



「三日前、彼女が亡くなったんです。心臓発作でポックリと……」



「あら、それはお気の毒に……」



「そ、そんな彼女は亡くなってからなんです! 背後に妙な視線を感じたり、カサカサ蠢く人型の黒い奇妙な生き物を見かけたり……ううう、そんなわけで三日ほど前から酒を飲んで気を紛らわせているんです!」



 ふむ、それが浩史さんの抱える悩みの種ってわけね。妙な視線はともかく、得体の知れない生物につけ狙っているのか――妄想じゃないよな? さて、お酒を飲んで知らん顔を決め込んでいるようだけど、このままじゃ不味そうな気もする。



「うーん、恐らくですが、山田さん、アナタの彼女は――あら、イイところに問題を解決に導く存在がやって来ましたわ、ウフフフ♪」



「え、なんの話だよ、デメさん……義母さん!」



 あちゃ~不味い時に帰宅してしまった気がする。デメさんは丁度イイ具合に帰宅した俺に山田浩史さんの件を押しつけてきそうな予感が――。



               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 エリザベートとデメさんの正体は、我が家の玄関に飾ってあった等身大サイズの球体関節人形(ドール)に宿った神霊である。しかし、神霊――神の力はすごいなぁ、そんなわけで宿った球体関節人形が、今では本物の人間と化し……あ、そうだ、忘れていた。デメさんの紹介というかたちで巡り合うこととなったのが使い魔の黒狐のクロベエである。



「タツ、あの男から禍々しい悪のニオイがする」



「え、どういうこと!?」



「それはよく判らん。あの男から目を離すな」



「あ、ああ!」



 クロベエから、そんな忠告を――やっぱり、あの人にはナニか憑いているのかも!? 姿を見せずコソコソと蠢く悪しきモノが!



「ペルセポネー、早速で悪いんだけど、魔術師墓場へ行ってはっちゃんを連れてきてくれないかしら?」



「え、ええっ! あの陰気くさい場所に? むぅ……」



「ウフフ、人助けのためです。それも魔法少女の仕事ですよ、ペルセポネー♪」



「むぅ、仕方がないなぁ……」



 デメさんが背後から首に手をまわすかたちで抱き着いてくる。んで、耳許で――うむぅ、あそこには行きたくないんだよなぁ。でも、人助けのためだ。仕方がない。



「ん、お前、タツだよな? しばらく見なかったが、お前って女だったのか!? 昔っから女顔だってイジメられていたけど、やっぱり……グフフフッ♪」



「ちちち、違う! 俺は男だよ。つーか、引きこもってないで仕事しろよな、浩史さん!」



「む、むぅ、引きこもりって言うなよ。俺は夜専なんだ。昼間は滅多に外に出ないんだよ。それに俺はまだ本気を出していないだけさ!」



 まだ本気を出していないって言うけど、それは本当なのどうか微妙なんだよなぁ。と、そんな浩史さんは引きこもりでもある――ま、正確なところ昼間の話である。夜の戸張が降りると同時に活発に動き出す猫科の動物のような夜行性人間ってところだろうか? つーか、かれこれ大学を卒業してから、ずっと仕事もしないで夜遊びを繰り返している気がする。そういう理由もあり、昼間に彼の姿を見るのは稀かもしれない。



(浩史さんに性別が変わったことを気づかれたかも? よ、用心しなくちゃ……)



 うーん、学校の友達――山崎沙希とか蓮田茜は気づかれていないのに――浩史さんには危うくバレてしまうところだったぜ。



「うお、タツが突然いなくなった!?」



「ペルセポネーなら、用事があってちょっとした場所へ行ってもらったんです。あのコが戻って来たら、アナタのお悩みを解決へと導く準備が整いますので、それまで夢幻花園(フラワーアイランド)でお茶でもしましょうか?」



「ペルセポネー? それに夢幻花園? まあ、どこへでもよろこんでついて行きます。俺は暇人ですから!」



「ウフフ、では、行きましょう♪」



 俺は消えたんじゃない。魔術師墓場(マジシャンズセメタリー)という陰気な場所に、デメさんに強制転送させられたんだ。と、それはともかく、夢幻花園(フラワーアイランド)とは俺の自宅に存在するデメさんがつくり出した固有空間のことである。しかし、浩史さんは運がいいなぁ。あそこに入ることができる〝男〟は滅多にいないというのに――。



「うう、ここに来るのも二度目だ。もう二度と来る気なんかなかったのに……」



「私もだ。ここは現界と冥界の狭間だ。陰気で気持ちが悪い……」



「さて、はっちゃんを探すぞ、タツ」



「う、うん! てか、あっちから迎えに出張ってきたようだ」



「ん、ペンギン? タキシードを着たペンギンがやって来たぞ。まさかアイツがはっちゃん――ハーデスなのか?」



「あ、ああ、アイツがはっちゃんことハーデスだ」



 さて、俺とエリザベート、それにクロベエは陰気な洞窟のような場所へとデメさんに強制転送させられる。魔術師墓場の一部だ。んで、ここのどこかにいるはっちゃんこと魔術師墓場の主ハーデスを連れて帰らなきゃいけない。だが、向こうから俺達のもとにやって来た。ペンギンの姿をした冥王が――。

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