第八話 魔法少年としゃべる獣達 その7
「さて、ここへ来るまでの経緯を報告してもらうけどOK?」
「ま、まあ、OKですが……先生、野菜がお好きなんですね」
「フフフ、私は菜食主義者だからな☆ ああ、肉も好きだぞ、クククク」
「そ、そうですか、アハハハ……」
「そんなことより、報告を――」
先生こと逢坂美月は、元人間とはいえ、その外見は百獣の王ライオンである。しかし、そんな雄々しき獣の女王という姿とは正反対に菜食主義者を自称しているのが意外だ。だけど、なんだかんだと彼女はライオンだ。お肉大好き肉食獣という本性が見え隠れしているのも、また然りである。さ、ここへ来るまでの経緯を報告しておくかなぁ。
「なるほど、その娘が〝アレ〟を呼び出したわけだな」
「アレ? ま、まあ、とにかく、アーたんの〝お友達〟とやらが、アンタの使い魔だっていうハイエナの姿をした霊団をすべて食っちまったんだ!」
「アハハハ♪ クーちゃんはなんでも食べちゃうよ。てか、美味しかった?」
「不味い! つーか、幽霊を食べるなんて初めてだぜ!」
「むぅ、一緒にいる〝そいつ〟なのか!? しかし、その小さな異形の生き物が私の使い魔である霊団を食べてしまったとは意外だ!」
「お肉大好き肉食獣であるライオンの先生が菜食主義者を自称しているのも、俺的には意外すぎるんですけど!」
さて、アーたんの足許に視線を向けると、そこには頭が蛸で身体が人間!? とまあ、そんな異形の緑色の小人がいる。そう、コイツが先生の使い魔である霊団――HG共を食ってしまったんだ。ま、そのおかげで助かったみたいな……。
「ふーん、助けを呼んだら、コイツがやって来たわけね?」
「うん、クーちゃんは見た目はグロいけど、正義味方なんだよ! あの幽霊さん達にやっつけてくれたことだし!」
「ハハハハ、俺は一応、邪神なんだが正義の味方と呼ばれるなんて……照れるぜ♪」
「じゃ、邪神!? ヒィ、あのニャルラトホテプの仲間なのかよぉ!」
蛸頭の緑色の小人ことクーちゃんは、アーたんに正義の味方と言われ照れくさそうにモジモジしながら口にする――邪神であると!
「邪神ねぇ、見た目はグロいけど、綺麗な金色の眼をしているのね」
「うん、見た目がグロいけど、眼だけは綺麗だね」
「ん、お前はアフロディーテ? なるほど、その娘と一体化しているようね」
三嶋とアフロディーテは一体化している。そんなわけで人格が交互に入れ違う様子は、まるで一人漫才をやっているお笑い芸人の滑稽な芝居のようだ。それはともかく、先生とアフロディーテは知り合いのようだ。
「ところで、そいつの姿を直視してもなんとないわけ?」
「ああ、大丈夫だ。それがなにか?」
「ふむ、邪神を直視しても発狂しないあたりは流石だ。カイムが期待するだけのことはあるわ」
「そんなカイムさんなら……ほら来ましたよ、先生」
「先生、ごきげんよう」
「むぅ、アンタいつの間に!?」
え、要するにクーちゃんを見ると普通なら発狂するレベルってこと!? さて、ウワサをすれば影とばかりに、あのカイムが現れる。
「フフフ、驚いたかい?」
「そ、そんなことはないぞ!」
と、答えたけど、実際は驚いたよ。つーか、あのカイムって猫だけど、俺の家の居候その五として勝手に住み着いてしまっているんだよなぁ。さて、他の居候は、姉の沙希の使い魔である狼の姿をした鬼神の狼姫、フェレットのアポロン、元人間と自称するシャム猫の霧崎ジョーとアメショーの神崎朱莉である。
「さてと、とりあえず、訓練その一は終了だ」
「え、その一ってことは、まだあるんですか、先生?」
「うえー……てか、ホントに人間に戻れるんですか、僕達は?」
訓練終了を先生が告げる。うう、あくまでその一が終了しただけなんだよなぁ。後、何回、訓練が残っているんだよ! いい加減、夜のサバンナって感じの固有結界の外に出してくれェェ!
「フフフ、君をウチの組織に向かい入れたいなぁ♪」
「うお、蛇!? え、それって勧誘?」
「うん、理由はカイム達のミス・ネクロノミコンを取られちゃったから、その代わりとして君を勧誘しようと思ってね」
「は、はぁ……」
蛇のミカエルが取られたって言うそのミス・ネクロノミコンっていうのは、俺のふたりいる姉のひとりである沙希のことだ。アイツは死霊秘法という魔道書から得た禁断の知識で超人――魔法少女へと昇華した存在でもある。つーか、俺はアイツの代わりなのかよ! なんだ、胸中がモヤモヤしてきたぞ、何故だ!?
「ああ、そいつは要らないわ。好きにしていいわよ、カイムさん。そいつはトラブルメーカーだしね」
「うえ、それって私? ぐぬぬぬ、貴様、失敬もいいところだぁ!」
「むぅ、何気にショックなんですけどぉ……」
ミカエル曰く、三嶋&アフロディーテは要らないそうだ。三嶋はともかく、その身体と一体化しているアフロディーテは、ギリシャ神話のトラブルメーカーだしなぁ。
「彼女は私達が預かります。来たるべき時に備えての育成枠のひとりとして我が組織に加えようと思っている」
「ふえ~なんだか嫌な予感がする!」
「ハハハ、なにを恐れている?」
「うう、どうでもいいけど、私の身体の中から出てってよ!」
「なんだと、出ていけだと!? う、うぎゃっ!」
「おお、アヒルが――アフロディーテが三嶋の身体から分離したぞ! 自力でやってのけたのか?」
むぅ、三嶋は自力で一体化している邪魔者を追い出す。さて、アフロディーテと分離すると同時に、スタイル抜群で蟲惑的な美女という容姿が、三嶋の元々の容姿である地味な眼鏡の女のコへと戻るのだった。
「あ、元に戻った!」
「うぬぅ、私を強制的に追い出すとは侮りがたし!」
「さて、一旦、元の空間に戻りましょうか――」
「え、元の空間の戻る!? わ、まぶしいっ!」
わああ、夜のサバンナという先生の心象風景が実体化した空間――固有結界のあっちこっちに光る亀裂が……うおっ! それから間もなくピキィィィンという耳障りな破裂音を奏で激しい光芒を放ちながら破裂する!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おい、悠太! おい、おいってばぁ!」
「うおぉ! た、田所! びっくりしたぁぁ!」
「おいおい、そりゃこっちの台詞だっつーの! 何度も声をかけたのに虚ろな表情のまま硬直していたじゃないか!」
「え、そう? う~ん……」
「ハハハ、変な奴だなぁ、まったく」
先生の固有結界が消滅した際に発生した激しい光の奔流はどこへやら!? 気づけば、俺は元の世界――姫神塚動物園の世界の猛獣館の中に戻っているのだった。ああ、朱莉とクロベエ、それにカイムも一緒だ。穏行の術で普通の人間には姿が見えないようにしているのは言うまでもないかな?
「まあいいや、それより、あのライオンは瞑想しているように見えるっつうけど、ありゃ絶対に眠っているだけだよな?」
「え、ああ、そうだよな」
「あれぇ? 時間が一分も経ってない……」
「ん、なんの話だ?」
「あ、いや、なんでもないわ」
そういえば、俺は先生の固有空間の中に何時間もいたつもりだったんだが、〝こっちの世界〟では一分も経っていないようだ。うーん、時間の感覚がおかしくなりそうだぞ。
「ああ、またここに戻ってきてしまった……」
「ハハハ、まあいいじゃん。夜中にいつも抜け出しているだろう、僕らは?」
「それはそうだけどさぁ。ああ、なんか食べたいなぁ」
「んじゃ、パトロールのついでにコンビニにでも――」
さて、チーターの神倉真理とユキヒョウの芦沢修也も世界の猛獣館の野内に戻ってきている。そういえば、アイツらはどうやってここから抜け出しているんだろう?
「わ、カラスが入り込んでる!」
ムムム、沙羅も固有結界から無事に出られたようだ。でも、穏行の術を使えないので、あの真っ黒な姿を見えなくすることはできないようだ。
「さ、あのライオンを見ていてもつまんねぇし、別のところへ行こうぜ」
「お、おう!」
さらのことはともかく、田所、後藤、野田が出口の向かって駆け出す。まあ、ここにいてもつまらないしな。さ、俺も出口へ向かおう。
「山崎悠太、それに三島愛梨。後日、連絡があり次第、聖なる猫の会の本部である雉飼探偵事務所へ来るように! 第二の訓練についての説明をそこで――」
「「…………」」
むぅ、立ち去ろうとする俺と三嶋の先生が声をかけてくる。うぇ~第二の訓練がやっぱりあるのかよ! 面倒くさいなぁ、まったく……。
「嫌そうだね? でも。仕方がないよ、悠太君。私達は〝選ばれし者〟なのかもしれないし……」
「むぅ、三嶋は割り切っているのかよ。俺は躊躇しまくりだよ、ふう……」
三嶋は割り切っている。当然、課せられた運命を受け入れたってことか、ある意味ですごいな。だが、その一方で俺は――。
「行こう、悠太! 象さんが見たいなぁ~♪」
「俺も見たいぞ!」
「うえ、クーちゃん!? なんで、コイツも!」
アハハハ、KYなアーたんのおかげで少しだけ不安な気持ちが吹っ飛んだかも……って、おい! 蛸頭の緑色の小人ことクーちゃんが、アーたんの足許にいるぞ! まあ、誰も気づいていないので、アイツも穏行の術を使っているのかな? さ、田所達を追って世界の猛獣館から立ち去るとするか――。
「ん、三嶋の頭の上にいるのは、まさか!? てか、気づいていないのか、三嶋は?」
あれ、三嶋は気づいていないのか!? 頭の上に乗っかっているアヒルことアフロディーテの姿に――。




