第十二話 魔法少女と強欲魔王 その6
砂夜鬼が住む黄金の集落は、強欲魔界の各地に存在する。彼らは強欲魔界の主であるマモンの奴隷として、この強欲魔界に連れられた元人間でもある。あ、そうそう、ここに長くいると、私達も砂夜鬼になってしまうらしいわ。所謂、呪ってヤツね、マモンの――。
「おい、起きろ! よし、起きないなら、こうだ……カプッ!」
「……ギャアアアアッ! 痛い、痛いィィ! うお、ここはどこだ?」
さて、助兵衛一家の自宅に運び込んだ手足を拘束した状態のウコバクだけど、頬を叩いてみたけど、まったく目覚める気配がないので思わずイラッとしたのか狼姫が、ガブリとそんなウコバクの尻に噛みつくのだった――お、目覚めたわ。
「おわああ、貴様らは!! お、俺を拷問する気だな!」
「じゃ、本当に拷問と洒落込もうかしら~☆ んで、洗いざらい吐いてもらうわよ。黄金騎士団のお菓子兵を操っている輩のこととか、この世界の主であるマモン、それにマジカナって奴のことも――」
「絶対にしゃべらん! 俺は口が堅い……堅い……私はアナタの忠実な下僕です。なんなりと御命じください!」
「ちょ、裏切るのが早すぎ! まあいいわ。アンタには色々、訊きたいしね」
ふう、絶対にしゃべらないとか、口が堅いって言ってたクセに、ウコバクの奴、呆気なく裏切って私達側についたわ。ん、忠誠心ってモノがなさそうだわ。
「黄金騎士団のお菓子兵――雑兵共をつくっているのは洋菓子職人にニスロクって奴です」
ふーん、あのお菓子兵をつくっているニスロクって洋菓子職人がいるようね。
「んじゃ、続けてマモンについて訊くわ」
「へえ、お嬢様! マモンさんはそりゃもう強欲でしてね。この世のすべてを自分の所有物にしようともくろでいるのです。そんなわけで、ここはマモンさんが集めて蒐集物の保管場所としても機能する世界なのです」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、蒐集物が展示されている博物館なんかもありそうね」
「この世のすべての食べ物は保管されている城もあります!」
この世のすべてを自分の所有物にしたいって? ハハハ、強欲の極みね。あ、そういえば、博物館以外にも食べ物を保管している場所もあったわね。
「んじゃ、マジカナについても教えてもらおうかしら」
「ん、マジカナについては俺にもよく判りません。ただ、お嬢様達と同じく、人間で、おまけに光桜学園という学校に通う生徒らしいですが、それ以上は……」
「マジカナは人間で、おまけに、私達と同じ光桜学園の生徒!?」
「い、一体、誰よ!」
「それが判れば苦労しないわ、まったく!」
ウコバクの話を聞く限りでは、マジカナって輩の正体は、私達と同じ光桜学園の生徒かもしれないわね。
「マジカナ……反対から読むとナカジマ……ん、同じ苗字の生徒が何人もいるし、見当がつかないわね」
マジカナを反対から読むとナカジマになるわけだ。ムムム、灯台下暗し! 今まで気づかなかったなんて――そういえば、中島って名字の生徒は何人もいるから確かに見当がつかなくて困るわね。
「ま、行ってみれば判るさ」
「うむ、行こう! さらに美味い食べ物にありつけそうだからな、ジュルリ~♪」
「ふう、食べることしか頭の中にないわけ?」
「失敬な! わらわは、そんな無粋な輩ではないぞ!」
狼姫はまだ食べる気だ。まあ、狂霊山、そして黄金万魔殿へ行けば、お菓子兵以上に美味しい食べ物にありつけそうだけど――と、それはともかく、マジカナに会ってみたくなったわ。その正体が気になるしね。
「沙希、食べ終わったよ……うう、まだなにか食べたい……」
「え、まだなにか食べたいわけ!?」
ん、アーたんがやって来る。まだなにか食べたいようだ――うお、助兵衛一家の自宅の外や黄金の集落のあっちこっちで再起不能になって倒れている数多のお菓子兵を全部食べたわけ!? 彼女の胃袋はブラックホールだわ。どんな構造なのか気になるわね、すっごく!
「ツァトゥグアはボク以上に食べている……ん、このニオイは!? いっただきますー!」
「ギャアアアッ! 俺の頭がァァ~~!」
「わ、それは食べ物じゃない! って、チョコレートの塊だったのか、お前!」
アーたんの両目がキュピーンと輝く――と、その刹那、バクッとウコバクに頭に噛みつくのだった。うひゃー、某映画に出てくる脳みそを食べようと狙ってくるゾンビのようだわ……え、ウコバクの身体ってチョコレートの塊!? むぅ、コイツはお菓子だったようだわ。
「うおおお、俺はチョコレートの塊だったのか!? うああああ、俺は人造生物だったのかァァ~~!」
「その反応を見ると、なにも知らなかったって感じね」
「うわあああ、ひでぇ! ひどすぎるゥゥ!」
ウコバクにとってはショックなんだろうなぁ。まさか、自分も命を吹き込まれたお菓子だったわけだし――。
「さ、行くわよ!」
「沙希、私も行く! 一緒に行けば、さらになにか食べられそうだしね!」
「うむ、わらわもそれが気になっているんだ」
「アンタは食べることしか頭にないわけ? まあいいわ。一緒に行きましょう」
「行こう、行こう! ジュルリ……」
狼姫とアーたんの頭の中は食べ物のことしか思い浮かべることができないのかしら? とまあ、そんなわけで私達は助兵衛一家の自宅を後にし、一路、黄金万魔殿がある狂霊山へ臨むのだった。




