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違和感

 ダンジョン地下七階の攻略は順調に進んでいる。アリスが前線で活躍しており、俺もペローナも僅かなサポートを行う程度で済んでいた。


「順調だな、グリム」


「ああ、そうだな……」


 気楽な口調のペローナに俺は淡々と答える。魔法で照らされたペローナの顔は、一瞬だけ不思議そうな視線を向けた。


 ただ、俺が何も言わないので、ペローナも口を噤んだ。俺が思考に没頭する時、ペローナはそれを察して何かを話しかけて来る事は無い。


 俺はアリスの様子を観察する。レッドハット相手に圧倒している。対策済みとは言え、S級指定の魔物を難なく蹂躙し続けている。



 ――有り得ない強さだ……。



 自らの戦闘スタイルに合った装備に魔法。それらを卓越した技として扱える技量。その習得も異常なのだが、それだけでは説明が付かない。


 レッドハットの動きを熟知し過ぎている。自身がどう動けば、相手がどう動くかを理解しているのだ。何度も何度も手合わせをし、相手の動きを知り尽くしているかの如く。


 確かにレッドハットは初見ではない。少し前に、俺とペローナが大量に討伐した。その様子をアリスも目の当たりにしている。


 しかし、俺もペローナも接近戦を挑んではいない。俺達の戦闘を見たからと言って、アリスがここまで理解出来るはずが無いのだ。



 ――それに、アリスの気性も……。



 普段は温厚で引っ込み思案なアリス。過去の経緯もあってか、今でも周囲の顔色を窺う所がある。


 しかし、戦闘時のアリスはまるで別人なのだ。積極的に前に出て、果敢に魔物へと斬り込んで行く。


 魔物を見ると強い殺意で相手を睨み、倒すと牙を剝いて笑う。はっきり言って、アリスらしくない。


 その変化は階を下りる毎に増している。魔力の器も僅かな拡張を見せ、技の精度も上がり続けている。


 ただ、その反動と言うべきなのか、戦闘時の凶暴性が増している気がするのだが……。


「ん? 何だ、グリム?」


 俺の視線に気づいたペローナが、不思議そうに首を傾げる。しかし、その表情はいつも通りに無表情だ。


 ペローナは狼型の獣人。肉食性の種族ではあるが、彼女は戦闘時にそこまで凶暴性が増す訳では無い。


 無論、ペローナも敵対する者へは容赦しない。しかし、彼女は必要の無い戦いをする奴でも無いのだ。


 けれど、アリスは違う。一匹残らず狩り尽くすという執念を感じる。降りかかる火の粉を払うのとは、まるで意味が違っている。


 アリスの変化は何だ? 元々、アリスが持っていた気性なのか?


 それは余り良くない変化に思える。だが、それでもこの先へ進むべきなのだろうか?


「――グリム様、戻りました! この辺りの敵は一掃出来ましたね!」


 気付くと俺の目の前に、笑顔のアリスが居た。余りにも深く思考に没頭し過ぎていたらしい。


 ただ、俺の反応が無くても、アリスは気にしていなかった。アイテムボックスをペローナから受け取り、そのままドロップの回収へと跳ねて行った。


「グリム、この後はどうする?」


「この後か……。そうだな……」


 今はこの階層の中間地点。普段ならば魔物に囲まれるので休憩に適した場所では無い。


 しかし、広範囲をサーチするが魔物の気配はない。数時間程度の休憩ならば問題無さそうだった。


「数時間ここで仮眠を取る。食事も済ませておけ」


「ああ、わかった。私達でテントを張っておくか」


 アリスはドロップ回収にもう少し掛かりそうだった。かなりの広範囲にわたり、レッドキャップを狩り続けたからな。


 俺はペローナと共に野営の準備を始める。そして、少し考えてから、この先の方針を口にする。


「休息を取ったら地下八階へ向かうとしよう」


「わかった。予定より早く到着出来そうだな」


 ペローナの言う通り、ここまでの道中も予定より早く進めた。そして、この階層も魔物を狩り尽くしたので、警戒せずに素早く移動が可能となった。


 本来よりも二日は早く、地下八階へと到着する事になる。冒険者ギルドからは、記録更新だと単純に喜ばれるだろう。


 しかし、それを成したのはアリスの手腕だ。まだ冒険者になって、一ヶ月にも満たない新人が成したのである。


 これは決して嫉妬では無い。アリスの事を憎々しく思っている訳でも無い。


 けれど、そこには不快感があった。アリスの変化を理解出来ない自分の不甲斐無さ。そして、わかってあげられない申し訳無さ。


 俺以上にアリスを上手く使える者はそう居ない。だからといって、完璧な道を用意出来ない自分に、苛立ちを感じてしまうのだ。


「……愚かだな。愚かだぞ、グリム」


 自分が愚かである事は、とうの昔に理解したはず。最近は傲慢になって、その事を忘れていたのかもしれない。


 俺は賢者への道を歩むと決めた者。そして、まだまだ新米の賢者なのだと、俺は自らに改めて言い聞かせるのだった。

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