深層再び(アリス視点)
わたしは再びダンジョンの地下七階へと降り立ちました。前回はまったくお役に立てず、ただ見ている事しか出来ませんでした。
しかし、今のわたしは違います。グリム様より与えられた魔道具。そして、ペローナさんとの訓練で編み出した技。これらが今のわたしには有るからです。
実際、地下六階までの中層では、わたしの実力が十分通じました。一切苦戦する事無く、全ての階層で魔物を狩る事が出来たのです。
今のわたしなら大丈夫。そういう確信と共に、わたしは地下七階の暗闇を見つめています。
「どうする、アリス。ここもやってみるか?」
背後から聞こえるグリム様の声。どうやらこの階層も、わたしが望むなら好きにさせてくれるみたいです。
「はい、やってみます。今なら行ける気がします」
「そうか。なら、やってみろ。俺達は援護に回る」
何も聞かず、疑う事すら無く、わたしに任せてくれた。信用されているという実感が、わたしには堪らなく嬉しかった。
わたしは新装備の一つであるゴーグルをセットする。これはグリム様の眼鏡同様に、魔力を可視化出来る仕様になっています。
暗闇の中でも関係ありません。濃い魔力で作られたダンジョンでなら、魔物の位置も弱点も、ハッキリと見る事が出来るのです。
「それでは、アリス行きます!」
わたしは堅い地面を蹴ります。ここは岩の壁で出来た洞窟型の階層。空は跳べませんが、足場ならいくらでもあります。わたしの機動力は十分に発揮出来ます。
そして、わたしの手には二本のククリ刀。これがとても手に馴染むのです。長年使い続けた愛刀に、再会出来たかの様な感覚すら覚えてしまいます。
更にガントレットとグリーブもありますが、この階層で使う事は無いでしょう。今のわたしならそれでも、レッドキャップだって相手にならないのだから!
「――いました……」
前回、それなりの数を狩った為か、以前ほどの数が居ません。それでも、私の耳が三体の魔物を捉えました。
少しするとゴーグルでの視認も出来ました。相手もこちらに気付いて、接近するわたしに警戒している様子です。
「――遅いっ……!」
相手の間合いに入る直前、わたしは『加速』の魔法を使います。急な速度の変化に対応出来ず、一体のレッドキャップは首が飛びます。
そして、すかさずわたしは壁を蹴る。続けて二体目の首を背後から切り飛ばします。慌てる三体目も、同じ要領で背後から首を刈り取りました。
「……うん、問題ない。わたしはやれる!」
レッドキャップ相手に、以前は感じた恐怖はありません。わたしの本能が告げているのです。彼等はわたしよりも弱い存在なのだと。
わたしは改めて、自分が強くなったと実感します。こんな短期間で強くなれたのは、全てグリム様のお陰なのでしょう。
わたしの体も、耳も完治して下さいました。戦い方も教えて頂き、見本も見せて頂きました。そして、与えられた魔道具が有り、初めてわたしは戦えているのです。
もっとご恩を返さなければ! ――そう思った所で、急に背後から光が溢れました。
「アリス、探しに行く必要は無い。奴等が来るのを待てば良い」
「うむ、その通り。余り先行されると、フォローが難しくなる」
グリム様が魔法の明かりを手元に浮かべています。そして、ペローナさんと並んでこちらへと歩み寄って来ました。
わたしはそこで、自分が冷静さを欠いていた事に気付きます。強くなれた高揚感もあり、もっと敵を殺したいという感情が溢れていたのです。
それに、グリム様の明かりのお陰で、レッドキャップの殺意がこちらに集まっています。こちらに向かう足音のお陰で、よりハッキリと敵の存在に気付ける様になりました。
「失礼しました。ここで敵を迎え撃ちますね!」
「……ああ、そうだな。好きに戦ってみるが良い」
グリム様の許可を得た事で、わたしは気持ちを切り替えます。敵は皆殺しにする。けれど、グリム様の事もお守りしなければならない。
わたしはグリム様の奴隷。グリム様を守る戦士。グリム様のお役に立つ事こそが、わたしの生きる意味なのです。
その使命を全うする為に、わたしはこの刃を振るい続けるのです。
「もう二度と、奪わせはしない……」
壊された日常はもう二度と戻りはしない。けれど、手に入れた今と言う幸福な日々を、わたしは二度と失いたくはない。
その為に、わたしは強くなるんだ。例えこの手が血に染まろうとも、わたしは大切な人の為に、敵を全て殺し尽くすんだ。
――グリム様、ペローナさん、グレーテルさん、ヘンゼルさん……。
わたしを愛してくる人達。その顔を脳裏に浮かべながら、わたしは刃を振るい続けた。




