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魔力の器

 昨日はあれから更に大変だった。夕飯の準備に訪れたグレーテルが、アリスの件を聞いて真っ青になったのだ。


 その後、グレーテルはペローナと二人で話し合いを始めた。何故だか俺には聞かせられないと、わざわざヘイゼルの店に二人で出かけてだ。


 その結果、二人は仲良くなって帰ってきた。ペローナに至っては、初めて友達が出来たと嬉しそうにソワソワし続けていた。


 そして、アリスが眠って夕飯を食べられないので、その分をペローナが食べて行く事になる。グレーテルの食事を食べたペローナは、グレーテルにすっかり懐いてしまった。


「グレーテルは良い。アレは良い娘だ。何せ飯が上手いからな」


「……待て、ペローナ。何故、貴様がここに居る?」


 俺は朝から目覚め、リビングに人の気配を感じて降りて来たのだ。すると、そこにはソファーで寛ぐペローナの姿があった。


 ペローナは視線を俺に向けると、ふっと小さく笑って告げた。


「お詫びも兼ねて、アリスの看病に来た。あの様子では、当面一人で生活も出来ないだろう?」


「それはグレーテルが……。いや、それよりもいつの間に家に入り込んだ?」


「夜明け前だが? ああ、二人を起こさない様に、魔法で気配は消しておいた」


 さも当然の様に答えるペローナ。俺はその答えに頭を抱える。


 冒険者である以上、徹夜には慣れている。仮眠でも取れば、寝不足で動けないと言う事態にはならないだろう。


 ただ、どうしてそんなに早く来る必要があった? そして、いつの間に俺の監視魔法を、搔い潜れる程の魔法を身に着けた?


 やはり、俺にはこいつの考えがわからない。他の愚か者とは明らかに違うのだが、思考回路が俺にも理解不能過ぎるのだ……。


 俺が頭を抱えていると、ペローナは腰のポーチから干し肉を取り出す。それを無言で齧り出したペローナに、俺はふと疑問を口にした。


「やはり、魔法を使うと腹が減るのか?」


「ん? そうだな。そういうものじゃないのか?」


 ペローナは不思議そうに問い返して来た。彼女にとって魔法を使えば、腹が減るのは当然と言う考えなのだろう。


 しかし、俺は魔法を使っても腹が減る事は無い。それ所か頭が冴えわたり、思考がクリアになる感覚を覚える。


 更にアリスも腹は減らない。何故だか彼女はトイレが近くなるがな。少なくとも腹が減るとは聞いた事がない。


「……やはり、個体差があるのか?」


 俺は眼鏡をくいっと押し上げる。そして、ペローナの持つ魔力を改めて確認する。


 彼女は闇の魔力を所持し、その中心となる位置は胃のある辺りだ。対してアリスは下腹部であり、俺は頭に魔力が集まっている。


 俺はこれを魔力の器と呼称しているが、その位置が人によって違うのだ。そして、その部位によって身体に与える影響が、それぞれ異なっているみたいだった。


 どこかで研究してみるのも良いな。もしかすると、面白い結果がわかるかもしれない。


 俺が思考に没頭し、ペローナは静かにそれを見守る。しかし、ペローナの獣耳がピクリと動き、俺の背後に気配が現れた。


「お、おはようございます……。お二人ともお早いですね……?」


 振り返るとそこには、アリスが立っていた。グレーテルが着替えさせたパジャマ姿で、おずおずとこちらの様子を窺っている。


 ペローナはソファーから急ぎ立ち上がると、怪訝そうにアリスへ近寄り観察する。そして、眉を顰めながらアリスに問い掛けた。


「どうして起き上がれる? 痛みで動けないはずだぞ? 無理をしているのか?」


「い、いえ、無理はしていません。一晩寝たら、痛みは無くなっていました……」


 アリスは慌てて首を振る。その表情や動きからも、痛みを感じている様子は見られなかった。


 ペローナ俺へと視線を向ける。俺は眼鏡を通してアリスを観察する。そして、魔力の流れを確かめて、戸惑いながら口を開いた。


「……魔力回路が治っている。それどころか、回路も器も、以前より太く、大きくなっている」


「何だと? そんなことが有り得るのか?」


 ペローナが驚きで目を丸くする。ただ、俺としても内心は同じ気持であった。


 ペローナも俺も経験があるが、魔力回路の修復には時間が掛かる。一晩寝たら治る様な、簡単なものでは無かったはずだ。


 更には魔力回路の太さ、魔力の器の拡張。それらは一朝一夕に成し遂げれる物ではない。年単位で徐々に強化されて行くものなのだ。


 流石に俺と同等とは言わないが、ペローナに匹敵する魔力量だ。これを使いこなせれば、すぐにでもA級の冒険者として活動出来るのだが……。


「わからん。アリスの体は未知数過ぎる。当面は研究に時間を割くか」


「え、えぇ……? わたしの体に、何か問題があるのでしょうか……?」


 俺とペローナに見つめられ、アリスは涙目で狼狽える。自分に何が起きているのか、自覚がまったく無いらしかった。


 俺は小さく息を吐き、そっとその頭を撫でてやる。まったく興味が尽きないなと、思わず笑みをこぼしながら。

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