ペローナの過去:後編(ペローナ視点)
グリムとの出会いから、私の生活は一変した。
「まずは闇魔法の基礎を身に着けろ。自然に使えているので、意識すればすぐだ。貴様がどれ程愚鈍であろうとな」
グリムは少し口が悪かった。そして、人に距離を詰められるのが嫌いな人だった。
けれど、必要な事は全て用意してくれた。私が魔法を使えるまで、根気良く教え続けてくれた。
「一々、オドオドするな。周りに何か言われても、黙って睨み返せ。貴様は目付きが悪いからな。それで大抵の相手は諦める」
身なりを綺麗にしたら、周囲の男性に声を掛けられる事が多くなった。若い人間の女と思って、私を番に選ぼうとしたのだろう。
けれど、私は人間の振りをした獣人だ。彼らの声掛けに応じる訳には行かなかった。
そして、グリムに相談したら、黙って睨めと言われた。私の目付きが悪いと初めて知り、私はショックを受けたのを今でも覚えている。
「闇魔法は呪術として忌み嫌われている。戦闘時はこの拳銃を使え。お前の魔法は、魔道具による効果だという事にしておけ」
闇の魔法を使える様になったけど、これも人に知られたら不味いと知った。私は魔法を使える事を隠し、魔道具で戦っていると周囲に話す様になった。
そして、拳銃の魔道具のお陰で、私は遠距離からの攻撃が可能になった。身体強化が使えない私でも、この拳銃のお陰で一方的に魔物を無効化する事が出来た。
私は生れつき魔力量が多く、視力や嗅覚に優れていた。そんな私にとって、この戦闘スタイルは上級冒険者になる大きな助けになった。
「お前は本当に良く食うな。……なに? 魔法を使うと腹が減る? ほう、それは興味深い。お前の体を後で調べさせて貰うぞ」
グリムは事あるごとに私の体を調べた。人間と獣人の違い。そして、私の体の特徴を詳細に調べて尽くした。
だから、私の体の事はグリムが一番把握している。彼は私以上に、私の体を知り尽くしていた。
けれど、私はそれが嫌では無かった。他の男性には視線を向けられるだけでも、嫌悪感を抱く事があると言うのにだ。
「お前はいつも俺の後ろに立っているな。……ああ、別に構わん。俺の邪魔をしない限りは、お前の好きにしたら良い」
私にとってグリムの側が、一番落ち着く場所だった。彼の側に居られる事が、私にとって何よりも嬉しかった。
そして、グリムは騒がしいの嫌いだった。だから私は余計な事は口にしないで、ただグリムのすぐ側に居るだけだった。
それでもグリムは、そんな私を受け入れてくれた。決して私を邪険にしたり、追い払ったりはしなかった。
「さて、約束通り三年が経ち、お前もA級冒険者となったな。……何だ契約を延長するのか。ふん、お前も物好きだな。まあ、役に立つ間は使ってやろう」
グリムは私との約束を果たした。私はこの街でNo.2の冒険者となっていた。冒険者ギルトからは、頭を下げて仕事を頼まれる立場になった。
グリムは自宅で研究に没頭する日が度々あった。そういう日は、私はギルドからの依頼を消化した。そうしたら、私は冒険者の誰からも尊敬されていた。
他の人が受けられない仕事。他の人が受けたがらない仕事。それはグリムに会えない時の暇潰し。けれど、街の人達からは沢山の感謝を貰った。
――私の幸せと居場所は、全てグリムから与えられた……。
グリムと出会えて幸運だった。グリムの側にずっと居たかった。グリムの為なら、私は何だって出来る。
そうして、グリムの役に立ち続けたい私に対して、ギルドマスターからこんな話を持ち掛けられた。
「ジャバウォックってヤバイ組織がグリムを狙っている。そして、グリムへの脅しの為に、ハインリヒの両親が人質に取られた。その救出の為に、お前さんの力を貸して貰えないか?」
ハインリヒは仲間だし、困っているなら手助けもする。相手がジャバウォックだろうと、そうそう私が後れを取る事もないだろう。
ただ、それよりも私は腹を立てていた。奴らがグリムに脅しを掛けようとしている。それが何よりも許せなかった。
「――そいつらは何処にいる? 私が今すぐ始末してやる」
「話が早くて助かる。ただ、無力化さえして貰えりゃ、後はギルドで片付けとくぜ」
グリムの為なら、人を殺す事に躊躇いは無い。けれど、それは人の社会では許容されないらしい。
私はギルドマスターから話を聞き、即座に現地へ殴り込んだ。そして、誰一人殺さずに、全ての構成員を身動き取れない状態にした。
これでグリムの邪魔者が消えたならそれで良い。また手を出す気なら、その時は改めて潰せば良いのだから。
そう考えて、私は即座に街へと帰還した。そこで待っていたギルドマスターから、余りにも想定外の言葉が待つとも知らずに……。
「実は、その……。『黄金宝珠』が解散する事になった……」
「――はっ……?」
私は手短に事情を聞かされる。そして、ハインリヒの失態と、白い子兎の存在を知らされた。
私は居場所を奪われた怒りに我を忘れる。その場を飛び出して、グリムの元へと駆け出したのだ……。




