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亀毛兎角(きもうとかく)

 ペローナへの罰は、アリスへの謝罪で許容する。アリスが許すと言うなら、今回は俺も水に流す。彼女の能力は手放すには惜しいしな。


 ただ、それとは別に追及すべき事がある。それはアリスとの闘いについてだ。


「先程の説明では戦って負けたと言っていたな。だが、お前がアリスに負けるとは思えんのだが?」


「アレが普通の子兎なら、私が負ける事は無かった。だが、アレは角付きの兎だったのだろう……」


 角付きの兎? それは前に俺が話して聞かせた、亀毛兎角の事を言っているのか?


 かつてダンジョンが無い旧時代の話。兎に角が生え、亀に毛が生える何て有り得ないと言われていた。


 しかし、ダンジョンが生まれて世界は変わった。魔物が世に蔓延った事で、亀毛兎角は普通になった。


 元々この言葉は「有り得ないこと」と言う意味だった。しかし、今のこの時代では「かつて有り得ないと言われていたこと」と言う意味で使われている。


 つまり、ペローナはアリスに対して、有り得ないと思われる事を成し遂げたと言いたいのだろうか?


「アリスは具体的に何をした? 俺にわかるのは、オーバーフローが起こったと言う結果のみだ」


「オーバーフロー……。結果としては同じでも、アレは普通のオーバーフローでは無い気がする」


 ペローナは悩ましそうに考え込む。彼女を急かしても、望む言葉は得られないだろう。俺は辛抱強く彼女の言葉を待った。


 そして、ペローナは悩んだ末に、起きた事実を俺に伝えた。


「私が止めを刺そうとしたら、子兎の魔力が爆発的に膨れ上がった。そして、私の「弱体化」を力ずくで解除し、魔弾を弾く程の風の防壁と、三重掛けの「加速」を使われた」


「なん……だと……?」


 ペローナがこの状況で嘘を付くと思えない。そして、彼女の言葉が嘘で無いなら、それは起きた出来事だけを口にしたと言う事となる。


 だが、それこそ有り得ない事である。魔力が爆発的に膨れ上がるのも、アリスがそれ程の高度な魔法を扱うという事もだ。


 ペローナの魔法を力づくで解除するには、彼女を圧倒する程の魔力差が必要となる。そんな魔力を持つ者は、俺以外に存在すると思えない。


 更に俺はアリスへと魔法の使い方を教えていない。そもそも魔法を使えるはずが無いのに、俺に匹敵する魔法の技量を持つはずが無いのだ。


 俺は理解が及ばず、あらゆる可能性を模索する。すると、ペローナは怯えを含んだ瞳で、俺に対して問い掛けて来た。


「あの子兎は何なんだ? 私とて仮にも獣人。それにも関わらず、最後の一撃は目で追えなかった。気付かぬ内に倒されていた……」


「それ程なのか……?」


 兎人族であるアリスは、獣人の中でも特に素早い。それでも、ペローナも素早さが高い種族であり、豊富な経験で隙を突くのも難しいはず。


 そんなペローナでさえ目で追えないと言う。それが事実ならAランクどころではない。伝説と言われるSランクに匹敵する実力となる。


 アリスの才能ならば、いずれそこに至れる可能性はある。しかし、それは五年や十年先の話であり、今の彼女にそれ程の実力が有るはずが無いのだが……。


「まさか、アリスは超越者なのか……?」


「超越者? グリム、それは何なんだ?」


 俺の呟きにペローナの獣耳が反応する。アリス程では無いだろうが、それでも彼女も人間以上の聴覚を持つからな。


 俺をじっと見つめ続けるペローナ。俺は思考の整理の為にも、ペローナへと説明を行う事にした。


「超越者とは種族の常識や限界を超えた者の事を言う。稀に生まれる俺の様な天才も含むが、その種族を一段階進化させる者を指す時に使われる言葉だな」


「種族を一段階進化させる? あの子兎は、兎人族から進化した者なのか?」


 この世界で研究される、種の進化についての学説である。獣人族もある意味で人から進化した種族。人の長所を残しつつ、獣の長所を取り込んだ種族なのだ。


 そうした進化の方向性を示した者。その先頭に立つ者を超越者と呼ぶ。今の所はエルフ族の中から生まれた、ハイエルフ族しか生きた実例は存在していない。


 そして、これはあくまでも、そういった学説があると言うだけの話だ。アリスが本当に超越者かどうかは、この先のアリスの行動と結果によって決定されるだろうしな。


「……あくまでも仮説に過ぎん。それを事実と錯覚すると、真実が歪んで見えかねん」


「ああ、わかった。なら、一旦は忘れる事にする」


 頭の片隅に置いておく、では無いのがペローナらしい。まあ、考えるのが苦手だと、自覚があるのは好ましいがな。


 俺は小さく息を吐く。そして、アリスについては課題が多いなと肩を竦める。


 だが、それと同時に興味深くもある。彼女と言う存在が持つ未知に、俺は少なくない興奮を覚えてもいた。

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