誤解
俺達は自宅へと戻り、アリスをベッドに寝かせた。そして、ペローナから改めて事情を聴く事にした。
リビングでテーブルを挟んで向かい合う俺達。初めは渋ったペローナも、やがては観念した様に口を割った。
そして、その語られる内容に、俺は思わず頭を抱えたくなった。
「つまり、『黄金宝珠』の解散はアリスが原因であり、排除すれば元に戻ると考えたと?」
「……その通りだ。『黄金宝珠』を復活させる為に、あの子兎を排除しようとした」
視線を逸らして答えるペローナ。後ろめたい思いはあるのだろう。俺は思わず溜息を漏らす。
こいつは思考回路が単純なのは知っている。獣人の特性とも言え、多くはアリス程に賢くない。
そして、こいつ自身もそれを理解し、基本的には考える事を俺に委ねる所が多かった。
しかし、今回は何故だか自分で考え、愚かな結論に至ったらしい。実に愚かだとしか言い様が無い。
「まず、初めに誤解を解く。俺は何があってもハインリヒを信用しない。それ故に、『黄金宝珠』が復活する事は二度と無い」
「そ、そんな! そんなの、困る……」
ペローナはグッと堪える様に俯いた。そんな感情的な態度に、俺は少なからず驚きを覚えた。
ペローナはいつでも寡黙だった。人に感情を見せる様なタイプでは無かったはずだ。
それだと言うのに、今日のこいつは何なのだ? 何が彼女をこうさせている?
「そして、俺はお前が戻ったら、こう尋ねるつもりだった。パーティーは解散したが、俺に付いて来る気はないかと」
「――えっ……?」
ペローナはAランク冒険者である。獣人でありながら魔力量が多く、俺が鍛えて高い戦闘力を持つに至ったのだ。
ハインリヒと違って、彼女を手放すのは少々惜しい。そして、彼女はそこまで愚かでは無い。ハインリヒでは無く、俺を選ぶだろうとの打算もあった。
「お前のことだ。ギルドマスターの指示に従っただけで、細かな話は聞いていないのだろう? お前が俺を裏切ったとは思っていない。ならば、お前は俺に付いて来るのが、最も賢い選択だと言えるだろう」
「……う、うん。うん、そうだな!」
先程まで俯いていたペローナが、顔を上げて笑みを見せる。俺の意見に好意的なのは良いが、余りの現金さに顔を歪める。
「ただし、それはアリスとも組む事が前提だがな。今度は俺をリーダーとし、三人で新たなパーティーを結成するつもりだったからだ」
「…………え?」
ペローナはポカンと口を開く。感情の抜け落ちた顔で、俺を呆然と見つめていた。
俺の言いたい事がわからない訳ではないのだろう。恐らく彼女は、俺の言葉を受け居られずにいるだけだ。
「パーティー登録を行うことで、ギルドの制度が利用出来る。それ故に、パーティー登録を行うメリットは大きい。しかし、パーティー登録を行うには、三人以上の冒険者が必要だ。俺とお前の二人だけでは、パーティー登録は行えない」
「そ、それは、その……」
俺の声に苛立ちが混じっていたのもある。ペローナは明らかに動揺し、顔には冷や汗が浮かんでいた。
彼女もようやく気付いたのだろう。自分の取った愚かな行動が、俺の計画を大きく狂わせ様としている事に。
「アリスを殺すなど以ての外。冒険者として活動出来なくなっても、パーティー登録が行えなくなる。もし、そうなればお前は、どう責任を取るつもりだ?」
『黄金宝珠』解散の件は、彼女に責任は無い。その件で彼女を責める気は元から無かった。
しかし、アリスを襲った件は別だ。俺の所有物に手を出し、只で済ませるつもりはない。
俺はペローナを鋭く睨む。すると、ペローナは顔を青くして、震える声でこう告げた。
「あ、あの子兎に……。一生懸命、謝るから……」
「……は?」
「それで、体が治る様に一生懸命お祈りするから……」
「お祈り、だと……?」
「ぐすっ……。だから、怒らないでよ、グリム……」
ペローナはポロポロと涙を零し、子供の様に泣き出した。俺はその光景に、思わず頭を抱えてしまう。
そう、忘れていた。アリスが余りに賢いので、本来の獣人は頭が弱い種族だと言うことを。
更にペローナは特殊である。俺と同じ十八歳であり、高身長で目つきも鋭い美人タイプ。
けれど、彼女の中身は子供なのだ。過去の境遇のせいで、見た目より精神年齢が低いのである。
「……チッ、仕方がない。アリスが回復し、アリスが許せば、今回の件は不問にしてやる」
「うん、うん……。いっぱいお世話する……。早く治って、許して貰える様に……」
俺の言葉にペローナはホッとした表情を浮かべる。涙を流しながらだが、嬉しそうに微かに笑った。
いつも何を考えているかわからない。けれどこいつは、寡黙で無表情な女だと思っていた。
こんなに感情を露にするペローナに、俺は戸惑いと落ち着かない感情を抱いていた。




