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オーバーフロー

 冒険者ギルドから家へと帰ると、俺を待ち構える人物が居た。裏町で関係を持ったMr.ダンディと名乗る人物だ。


 彼はダンジョンへと一人で(・・・)駆け込むアリスの姿があったと、俺に対して情報を持って来たのだ。


 それは自分が役立つというアピールの為。そうわかっているのだが、今回ばかりは礼を考えねばならんかもしれん。


 何せダンジョンへと確認に赴いた俺は、想像を絶する最悪な光景を目の当たりにしたのだから。


「何が……起きた……?」


 ペローナは変化の魔法が解け、両肩を壁に磔にされている。事情を聴きたいが、今の彼女は気を失っていた。


 そして、そのすぐ側には地面に転がるアリスの姿。血を吐きながら、何やら小さく呟いていた。


「痛い……痛い……痛い……」


 俺はアリスの元へと駆け寄る。そして、彼女の体にスキャンをかける。


「魔力回路がボロボロになっている……?」


 この症状には覚えがある。魔力過多を起こし、魔力酔いの先に起きる現象。オーバフローを起こした状態である。


 魔力は血液と共に全身を巡る。その魔力回路が焼け付いて、経路である血管を破壊してしまったのだ。


 大量の魔力を長時間に渡り使い続ければ、この状態になる事はある。しかし、今のアリスにはそれだけの魔力を扱えるはずが無いのだが……。


「グリム様……? グリム様なのですか……? 助けて……。助けて、グリム様!」


「……ああ、わかった。後は俺に任せろ」


 俺はアリスの白い髪をそっと撫でる。そして、魔法によって彼女を眠らせる。


 そして、魔法によって血管や筋肉の損傷を回復する。しかし、魔力回路は魔法では治せない。安静にして、自然に治るのを待つ他ない。


 そして、その間はかなりの苦痛が伴うだろう。その苦痛は肉体的な物ではないので、治るまでは耐え続けるしかないのだ。


「……それでこちらは、どういう事だ?」


 俺は壁に磔られたペローナを確認する。その両肩にはアリスの短剣が刺さっている。


 状況を考えるとアリスがやったと思われる。しかし、彼女がそうする理由がわからない。


 そもそも、それを出来るとも思えなかった。何せペローナは街でNo.2の冒険者なのだ。


 荷物持ちのハインリヒとは違う。その戦闘力はAランクに相応しい実力者なのである。


 俺以外でこんな真似を出来る者は存在しない。如何にアリスに戦闘の才能があろうと、経験値の差までは覆せるはずが無いのだが……。


「まあ、このままと言う訳にはいかんか……」


 俺はペローナの体に浮遊の魔法をかける。そして、両肩の短剣を抜いて、魔法で傷口の治療を行う。


 血はそこまで流れておらず、肉体的な損傷は完治した。ダメージによる気絶の様だし、このまま起こしても問題は無いだろう。


「おい起きろ。起きろ、ペローナ!」


「――はっ……?! グ、グリム……?」


 ペローナは俺の声で覚醒する。そして、俺は浮かせていた体を下ろし、彼女が自らの足で立つのを確認する。


「ここで何があった?」


「そ、それは……」


 俺の問いに、ペローナが視線を逸らす。冷静な彼女には珍しく、動揺で視線が泳いでいた。


 だが、ペローナの視線がアリスに向く。彼女は複雑そうな表情で俺に問い掛けて来た。


「その子兎は……?」


「肉体は治療したが魔力回路がボロボロだ。当面は身動き取れんだろうな」


 その状態がどれ程辛いかは、ペローナなら知っているだろう。彼女とて過去に無理をし、治療に専念した時期があったからな。


 それを思い出してか、ペローナは苦しそうに俯く。そして、そのまま貝のように口を堅く閉ざしてしまった。


「……ひとまず家に来い。アリスをこのままには出来ない」


「グリムの、家に……?」


 不思議そうに問い返すペローナ。何故、そんな当たり前の事に動揺しているのだろうか?


 俺にはこいつの考えがわからない。いつも俺の側にいて、何も言わずに佇むだけの奴だった。


 ただ、俺の不利益になる事はしなかった。だから俺も、気にせず好きにさせて居たのだが……。


「魔物の気配が集まっている。露払いは任せるぞ?」


「――あ、ああっ! 任せろ、グリム!」


 いつもの通りに俺が指示し、ペローナがそれに従う。ダンジョンでの攻略は、それでこれまで進み続けてきたのだ。


 今更、彼女がゴブリン相手に手こずるはずもない。ペローナは魔導銃を両手に構え、いつでも行けると頷いた。


 俺はアリスを抱きかかえ、彼女の体に浮遊の魔法をかける。これで重さを感じる事も無く、家まで急いで帰れるだろう。


「それでは行け、ペローナ!」


「了解した! 行くぞ!」


 出口に向かって駆け出すペローナ。その足取りはしっかりしている。先ほどのダメージは残っていなさそうだ。


 俺はその背を追い掛け駆け出す。アリスが目覚めない様に気遣い、優しくその体を抱きしめながら。

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