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魔力操作(アリス視点)

 地下四階を覗いた翌日。わたしは庭に出て、一人で訓練を行っています。体内の魔力を操作する訓練です。


 わたしは魔力を使うのに不便な体質を持っています。そう、トイレに行きたくなってしまうのです。ダンジョンで使うには、非常に不便な体質です……。


 それを何とかしなければ、私は魔法を使えません。そして、地下四階より下へと向かえないと言われています。


 わたしは自分の体質を把握する為、朝から何度も魔力を操作しています。トイレに行った後はしばらく大丈夫。けれど、体のムズムズは収まらないので、どうにかしたい所です……。


「とはいえ、早く何とかしなければ……」


 今日のグリム様は研究室に籠っています。空いた時間で魔物の研究をするそうです。わたしの体質については、一旦は様子見だそうです。


 なので、わたしはわたしで自主練をしている訳です。早く魔力を使える様になり、グリム様のお役に立てる様になる為に……。


「というか、凄かったな。昨日のグリム様……」


 リザードマンは人間よりも一回り大きな体に、鉄製の武具を身に着けた魔物です。足場が悪くなかったとしても、わたしでは手こずる相手でしょう。


 けれど、グリム様は気軽に速攻で倒しました。まるで呼吸するかの如く、自然に魔法を使って殲滅して見せたのです。


 私は魔力を足に向けてみます。ドロッとした粘液みたいに、ゆっくりと魔力が移動するのを感じます。その速度にどうしても焦れてしまいます。


「遅すぎます……。もっと早く動かせないと……」


 魔力を足に纏わせ、そこから魔法を発動させる。その発動すらも、慣れていないと時間が掛かるそうです。


 けれど、グリム様はとても素早く魔法を使われます。私の最高速度に匹敵する動きで、難なく発動が間に合う程に素早く……。



 ――わたしはお役に立てるのでしょうか……?



 魔力操作が可能になって、魔法を使える様になったとしても、それでもグリム様には追い付けない。グリム様をお守り出来る程に、強くなれる気がしないのです。


 この先もグリム様にお仕えしたい。受けた恩をお返ししたい。その為には、わたしは強くならなければならないのに。


 それだと言うのに、わたしはこんな所で躓いている。この体質のせいで魔力を扱えず、グリム様の足を引っ張ってしまっている……。


「このままでは、グリム様に……。――えっ?」


 視線を感じて顔を上げる。そして、敷地を覆う柵の外に、一人の少女の姿を見つけました。


 それは赤いフードを被った女の子。そして、赤いマントで身を包んでおり、背丈としてはわたしと変わらない程の小さな子です。


 その子はじっと私を見つめている。顔は良く見えないけれど、黒い眼差しが真剣にわたしを見つめていました。


「何だろう? わたしに用事かな?」


 獣人奴隷と蔑む感じではありません。かといって、好奇心で覗いていると言う感じもしません。


 ピリピリする程の鋭い眼差し。わたしは何だか肉食獣に狙われた様な、落ち着かなさを感じてしまいます。


「あの……。わたしに何か……」


「おい、アリス。訓練の調子はどうだ?」


 声を掛けようとした所で、玄関からグリム様が姿を現しました。わたしが振り向くと、怪訝そうにわたしを見つめています。


「何をしている? 外に何かあるのか?」


「え……?」


 グリム様は策の外を不思議そうに見つめています。わたしも視線を向けましたが、先程の場所に女の子の姿はありませんでした。


 わたしは呆然となります。首を傾げながらも、グリム様へと問いかけました。


「先程まで覗いていた方がいらっしゃいまして。赤いフードを被った方が……」


「赤いフードだと? それはスラリとした高身長で、黒髪の女だったか?」


 スラリとした高身長? 先程の女の子は、わたしと同身長の小さな子でしたね。


 わたしはフルフルと首を振る。すると、グリム様はそれで興味を無くしたらしく、わたしの髪をくしゃりと撫でました。


「余り根を詰めるな。もうすぐグレーテルが来る。程々で休んでおけ」


「わ、わかりました! そろそろ、昼食の準備に取り掛かりますね!」


 気付けば既にお昼が近い時間です。グレーテルさんが食材と共に、調理の指導にやって来る時間です。


 わたしの返答にグリム様は小さく笑う。そして、家の中へと戻って行かれました。


 わたしはその後を追って、家の中へと入ろうとします。けれど、気になって背後をもう一度振り返りました。


「やっぱり居ない。何だったんだろう……?」


 髪の色はわからなかったけど、瞳の色は黒色だったな。あの鋭い視線が、何故か妙に忘れられません。


 何の用事だったのかは気になります。けれど、いなくなった以上はどうしようも無いですね。


 わたしは女の子を忘れる事にする。そして、いつもの日常へと戻るのでした。

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