守るべき者
アリスが用意した夕食がテーブルに並んでいる。そのテーブルに着くのは、俺とアリスとグレーテルの三人だ。
最近はこの三人での食事が当たり前になっている。以前では考えられない事だが、俺は何故だか悪く無いと感じていた。
以前は人が周りに居れば落ち着かなかった。一人の方が気楽だと感じていたはずなのだがな……。
「ねえねえ、グリムさん。今日の出来栄えはどうかな?」
グレーテルが満面の笑みで俺を見つめていた。その表情を見るだけでわかる。今日はアリスの料理が、特段に上手くいったのであろう。
俺は無言で匙を手に取る。そして、スープを掬って口へと運ぶ。
「ふむ、悪くないな。グレーテルの味に非常に近い」
「本当ですか! やりました! グレーテルさん!」
俺の言葉にアリスが喜ぶ。師匠であるグレーテルも喜び、二人でハイタッチをしていた。
ただ、喜ぶ理由もわからなくはない。この短期間で本当に腕を上げたからな。
少し前までアリスとグレーテルの腕前は歴然の差だった。口にすればどちらが作ったかすぐに判断出来たものである。
しかし、今のこの一皿は違う。グレーテルが作ったと言っても信じてしまう出来だった。アリスの腕が上がった証明である。
とはいえ、それは味だけの話である。アリスが作ると食材のカットが大きい。特に人参は好物だからか、カットも大きく量も多かったりする。その辺りの個性はハッキリ出ているな。
「やはり、アリスは優秀だな。手に入れて正解だった」
「――グ、グリム様? それって本当でしょうか……?」
ポツリと漏らした俺の言葉に、アリスが呆然としながら俺を見つめる。俺はそれにコクリと頷く。
何も驚く事では無い。俺は単に事実を述べただけである。俺自身を除けば、ここまで優秀な人材を他に見た事が無いからな。
そうだと言うのに、アリスは顔をくしゃっと歪める。そして、ボロボロと涙を流して大泣きを始めた。
「よがっだ……。よがっだよぉ……」
「ま、待て。泣く程のことか……?」
突然の大泣きに俺は動揺する。只の感想にここまで反応されるとは予想していなかった。
そして、こういう時のフォロー役であるグレーテル。何故か彼女はガタリと立ち上がり、恐れる様に俺を凝視していた。
「そ、そんな……。グリムさんが人を褒めるだなんて……?!」
「黙れ、愚か者め。お前は俺を、何だと思っている……?」
だが、グレーテルはいつもの悪ノリでは無く、本気で動揺しているみたいだった。俺の顔をマジマジと見つめている。
そして、その隣では大泣きを続けるアリス。何故だか一気に落ち着かなくなった。やはり、食事は一人の方が落ち着くのかもしれない……。
俺はやれやれと肩を竦め、食卓の料理を口に運ぶ。すると、落ち着きを取り戻したグレーテルが、アリスを抱きしめながら俺に声を掛けた。
「そう言えば、こんな流れでアレだけど。兄さんからの伝言思い出したわ。ギルドマスターさんからの伝言で、グリムさんに急ぎで確認したい事があるらしいよ」
「ギルドマスターが? なら、明日にでも顔を出してみるか」
つい先日も、ギルドには顔を出した。アリスの昇級申請を行う為である。
それからまで二日しか経っていない。それだと言うのに、俺に何の用事があると言うのか……。
「というか、どうしてヘンゼル経由なのだ?」
「あはは! だって、グリムさんに確実に伝言が届くからね? 担当窓口って思われてるよね!」
確かに俺は数日家に閉じこもる事もある。その上で家には結界が張ってあり、誰でも俺に会える訳では無い。
他人の訪問を煩わしく思い、俺がそういった環境にしたのだ。用がある時は、俺から出向けば良いと考えて。
なお、元パーティーメンバーには、結界の入場許可を与えている。とはいえ、今の状況でハインリヒがやって来るとは思えない。
それらの状況が重なり、ヘンゼルに負担を掛けてしまったらしい。彼には何らかの形で、対価を渡す必要があるかもしれんな。
俺はそう決めて食事に手を付ける。アリスとグレーテルも和やかに話しながら、食事を取り始めた。
そして、食事を取り終えた俺は、グレーテルに対して声を掛ける。
「ヘンゼルに話もあるしな。今日は店まで送ろう」
「え、良いの? そうして貰えると嬉しいけど♪」
店までの距離は近いとはいえ、最近は物騒な事もあったしない。夕暮れ時の女性の一人歩きも危険と言えるだろう。
この先、何があるかわからない。魔道具を渡したとはいえ、夕食を共にする際には今後も同行すべきかもしれんな。
「何とも煩わしい話だが……」
俺の呟きに何の事かと、グレーテルが首を傾げた。俺はゆっくりと首を振って、何でも無いと示す。
グレーテルはそれで、それ以上は踏み込まなかった。俺から無理に聞き出す気は無いのだろう。
アリスだけでは無い。グレーテルも守る必要が出てしまった。その事を俺は、どう受け止めるべきか判断出来ずにいた。




