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引き渡し(アリス視点)

 灰色のマントを纏った一団に捉えられたわたしは、短剣、腕輪、ブーツの魔道具を取り上げられました。


 幸いな事にメイド服を脱がされる事は無かったです。これが魔道具と思われなかったのか、下着姿にされなかった事にはホッとしています。


 ただし、腕と足には鎖で繋がれた鋼鉄の枷が付けられました。これを目にするとかつての境遇を思い出し、苦い思いが溢れて来ます……。


 なお、今のわたしは褐色肌の女性に抱きかかえられています。小柄とは言え、わたしを抱えて苦も無く走る姿には驚かされています。


 恐らくは手練れの戦士なのでしょう。直感的に勝てない相手だとわかります。そして、わたしが無抵抗だからか、思ったいたより丁寧に扱って貰えています。


「もうすぐだ。大人しくしていろ」


「は、はい……。わかりました……」


 唐突に声を掛けられ、わたしは思わず返事をします。淡々とした声でしたが、その声にはわたしを見下す色が滲んでいませんでした。


 それを不思議に思いましたが、不意に彼女の足が止まります。見れば周囲は薄暗い廃墟。アンデルセンの街とは思えない場所でした。


 見た目はボロボロだけど頑丈そうな鉄の扉。そこに静かに近寄ると、女性はそっと声を掛けました。


「……白兎を捉えた。扉を開けろ」


「ふん、ようやくか。さっさと入れ」


 鉄の扉は開かれ、中から強面の男性が現れます。わたしの姿を確認すると、クイッと顎をしゃくって中へと招かれました。


 女性はわたしを床へと下ろします。そして、腰に下げていた袋を外し、強面の男性へと手渡しました。


「白兎の所持していた魔道具だ。扱いは任せる」


「ほう、魔道具か? そいつは悪くねぇな……」


 男性は袋を受け取り、ニンマリと笑みを浮かべる。わたしはその目を知っています。それは欲望に塗れた瞳です。


 そして、その視線は次にわたしへと向けられます。その下卑た眼差しに、わたしはゾクリと背筋が震えました。


「獣人の割には小奇麗だな。こいつは少し遊べそうか?」


「止めておけ。ボスからは丁重に扱えと指示が出ている」


 男性の言葉に対し、女性が忠告する。すると、男性は表情を一変させました。



 ――ガツン……!!!



「汚れた種族が、人様に指図するんじゃねぇ!」


 顔を殴られた女性は僅かによろける。そして、被っていた灰色のフードが勢いで外れました。


 フードの下に隠れていたのは、灰色の髪に黄金の瞳。更には特徴的な尖った耳でした。


 その姿を見て、わたしは彼女の正体に思い当たります。獣人とは異なる亜人種。彼女がダークエルフと呼ばれる種族だと気付いたのです。


「それとも、テメェが遊んで欲しいのかよ!」


 男性は女性の胸へと手を伸ばす。そして、女性の大きな胸を鷲掴みにしました。


 それは女性を辱める行為です。そうだと言うのに、女性は無表情にじっと見つめ返すのみ。


 男性はその反応に顔を歪めます。握っていた手を離すと、苦々し気に吐き捨てました。


「チッ、気味が悪い連中だ……。用事が済んだならさっさと消えろ!」


「まだ、完了報告書を貰っていない。ボスの元へ帰れないのだが?」


 女性に淡々と告げられ、男性は顔を真っ赤にします。しかし、男性は黙ってそのまま奥の部屋へと向かって行きました。


 その背中を静かに見つめる女性。そして、その姿が見えなくなると、女性は無音でわたしに身を寄せました。



 ――チャリッ……。



「えっ……?」


 女性がスカートのポケットに何かを入れたのです。それが何かはわかりませんが、女性はわたしを見つめて静かに首を振りました。


 どうやら、今は確認するなと言う意味みたいです。それが何かはわかりませんが、きっとわたしにとって害となる物ではないのでしょう。


 そして、彼女がすっと身を引くと、奥から男性が戻って来ました。男性は握り締めた羊皮紙を、女性に対して叩きつけます。


「さっさと消えろ!」


 女性は羊皮紙を見事にキャッチします。その中身を確認すると、小さく頷きました。


「承知した。これで我々の任務は完了だ」


 女性はそれ以上は口を開かず、すっと部屋から去って行きます。最後に私にだけ見える様に、小さく口元を綻ばせながら。


 女性が去ると、男性は急いで扉を閉めました。そして、扉に鍵を掛けると、小さくこう呟きました。


「暗殺集団『グリムリーパー』か……。薄気味悪い奴等だぜ……」


 暗殺集団と言う事は、女性の名前では無いのでしょう。恐らくは、灰色マントを纏った人達の団体名なのだと思います。


 暗殺集団と聞くと恐ろしいけれど、あの女性に恐怖は感じませんでした。それは同じ人間に見下される種族だからか、あの女性が纏う雰囲気なのか……。


「チッ、興が削がれた! こっちへ来い獣人!」


「いたっ……!」


 男性がわたしの兎耳を握って引っ張ります。その乱暴な扱いに過去を思い出し、わたしは引かれるままに後へと続きます。


 この先に対する不安。そして何より、グリム様への申し訳なさで、わたしの心は沈んで行きます……。

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