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襲撃(アリス視点)

 流れる血にパニックを起こし、周りに大変な迷惑を掛けてしまいました。今回はグリム様もお怒りのご様子で、わたしは尚のこと泣きたい気持ちで一杯となったのです。


 ただ、幸いな事にグレーテルさんはいつも通り、笑顔で面倒を見てくれました。その笑みにより、わたしは落ち着きを取り戻す事が出来たのです。


「お姉ちゃん、ありがとう御座います。いつも助けて頂いて」


「良いって、良いって! 私も好きでやってる事だからさ!」


 わたしは十歳で兎人の里を追われ、親と離れ離れになりました。それもあって、初潮が来た際の対処がわかりませんでした。


 けれど、グレーテルさんはテキパキと処置をし、今後の対応についても教えてくれました。本当にカッコ良くて、頼りになるお姉ちゃんです。


「ただ、今回は私のを分けたけどさ。今後を考えると、その辺りの道具も揃えておかないとね~」


「は、はい、そうですね! わたしも揃えておけると助かります!」


 わたしはポケットに手を添える。そこには財布が入っており、グリム様から頂いたお金もあります。


 こういう時にこそ、自分で買いに行くべきなのでしょう。これ以上お手を煩わせて、グリム様を怒らせる訳にはいかないのですから。


「それで、道具の揃え方も教えて頂けませんか?」


「うん、それじゃあ今から、買いに行こうか~!」


 グレーテルさんはわたしの手をそっと握る。そして、手を引いて私と共に店を出ます。


 わたしは握られた手に安堵し、グレーテルさんと並んで街を歩きます。その手の温もりのお陰で、私は街の人の好奇の視線も気になりませんでした。


 着ているメイド服のお陰もあるかもしれません。既にこの街では知れ渡っていますからね。メイド服の兎人奴隷は、グリム様の持ち物なんだって。



 ――ゾクリ……。



 わたしは唐突な悪寒に足を止めます。そして、ピクピクと兎耳を動かし、周囲に対して警戒します。


 こんな街中では聞く事が無い足音。獲物を追い詰める、狩人の如き多数の気配が感じられたのです。


「アリスちゃん? どうかした?」


「嫌な感じです……。グリム様の元に――」


 わたしが元来た道へ戻ろうとすると、人混みの中から多数の人影が飛び出しました。灰色のマントとフードで身を包んだ人達が、わたし達へと迫って来たのです。


「グレーテルさん! 失礼します!」


「ええっ! ア、アリスちゃん……?!」


 腕輪の魔道具で腕力を上げ、わたしはグレーテルさんを抱き上げます。そして、ブーツの補助を使って空高く跳ねます。


 囲みを飛びぬけ、人気の無い場所へと着地。しかし、彼等は小さな球をこちらの足元へと投げつけて来ました。



 ――ぼわんっ……!!!



 足元から立ち上がる白い煙。突然の事態にわたしは目を丸くします。


「こ、これは何なんでしょ――」


 しかし、わたしは気付きます。グレーテルさんの胸元が光っているのです。


 服の下にですが、そこにはペンダントがあります。グリム様がグレーテルさんに送った、解毒のペンダントが……。


「こ、これは毒……?!」


 わたしは再び空高く跳ねます。そして、包まれる煙から脱出しました。


 けれど、わたしは少し煙を吸ってしまいました。その影響により、急激な眠気が襲って来ます。


 少し不味いです。グレーテルさんは大丈夫でしょうが、わたしは解毒の魔道具を持っていません。


「使いたくないけど、仕方がありません……」


 私は下腹部の魔力を活性化させます。これを使うと副作用もありますが、興奮状態になるので眠気は飛ぶはずです。


 そして、わたしは魔力をブーツへと注ぎます。より高く、より速く飛べる様にと、魔法の効果を高めるように……。


「きゃっ……!」


「――っ……?!」


 腕の中のグレーテルさんが急に叫びました。わたしは苦痛に歪む顔に驚き、そしてスカートに広がる赤い染みに気付きます。


 グレーテルさんの太ももに刺さる小さなナイフ。それを投げたであろう人物が、わたしに対して大声で叫びました。


「動くな白兎! その娘を助けたければな!」


 その人物は褐色の肌を持つ女性でした。そして、その手には小さな瓶が握られています。


 まさかと思ってグレーテルさんを確認します。その顔色は見る見る蒼くなり、体はガクガクと震え始めています。


「そんなっ! ペンダントがあるのに……!」


 しかし、わたしは思い出します。グリム様は大抵の毒は無効化出来る。ただし、『即死する程の毒は無理だ』と言っていた事を……。


「お願いします! グレーテルさんを助けて下さい!」


「ならばこちらへ来い! お前の身柄と薬の交換だ!」


 意識が朦朧とし、浅い呼吸を繰り返すグレーテルさん。わたしには選択の余地何てありませんでした。


 わたしは急いで彼女の元へと向かいます。幸いな事に彼女は、約束を守ってグレーテルさんの手当てを行ってくれました。


「――あっ……」


 しかし、彼女の仲間が私の口に布を押し当てます。それに毒が含まれていたらしく、わたしは抵抗する間もなく、深い眠りへと落ちてしまいました。

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