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「山伏式神。知っているはずだ。人外は執念深いぞ」
暗闇がおおっている。なのに、視線を感ずる。この闇自体が瞳のような──。
(童子式神は…アイツは、そんなヤツだったっけ?)
自分より小さな、弱小な魔だったはずだ。式神になり特殊な行動はするものの、彼はそんじょそこらの魔となんら変わりない。
それだけの存在だった。
荒れ野に来て、騒いで帰っていくだけの。
「私は、どうしたらいい…?濃い霧の中にいるみたいだわ…でも、こんな気持ちは初めて」
「ねえ、童子式神…私は命を渡すのが惜しい…どうしたらいい…?」
すると彼は少し笑った気がした。あの嘘くさい笑みでは無い。おぞましい、小馬鹿にした笑い。
「おめえの──」
ハッと目を覚まし、夜中になっているのを確認した。何か騒がしい気がして耳を澄ます。
たくさんの足音がする。人の足音だ。
(夜行性なの?ここの村人?)
靴でアスファルトを踏みしめる数多くの足音。祭りだろうか?
祭りにしてはひどく静かで、声も、お囃子も聞こえない。あるのは人の動く気配──服がすれる音と、ザリザリと足を引きずって歩く、人では無い何か。
「わ!びっくりした。まだいるのお?」
ムヅミが不安そうな顔で外を指さしていた。「外に行きたいわけ?」
頷くと彼女は歩き出した。やはり合成されたように、夜闇の中、不自然に浮かび上がっている。この世界では無いもう一つの、未知の世界。彼女はそこにいながら異界で山伏式神に干渉している。
(そう思うと相当な力を持ったヤツよね。逆らえば食われるかもしれないわ)
人ならざる者の理は、食うか食われるか。弱肉強食の道理がまかり通っている。
か弱い姿をして正体が獰猛な奴はたくさんいる。相手を油断させ、捕食する。魔の常套手段だった。
きっと眼前にいるムヅミという輩もそうなのだろう。
「ムヅミ、だっけ?貴方、随分土地勘あるじゃない」
するとムヅミはシイッとジェスチャーをした。
「バレちゃいけないの?まさか、探検?」
探検は好きだ。幼稚な遊びではあるがたまに獲物にありつける。