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山伏式神は部屋に充満する闇を逆手に、鋭利な触手を生み出した。それをリスの喉に突きつける。
「私の邪魔をしないで」
「邪魔?」
「魔物の動向を妨げると酷い目にあうわよ。人間」
何十本もの刃が彼に向けられる。
「早く越久夜町に返しなさい」
「魔物ごときがえらい口を叩くなよ」
再び呪文を唱えると、体が動かなくなった。魔法使いなら簡単にできる技だ。──対象となる相手を知り尽くしていれば縛る事など。
「この期に及んで封じるなんて!卑怯者!」
「残念だよ。こんな弱小な魔を接待していたなんてね」
態度だけはでかいんだな、とリスは嘲笑う。
「ルシャ様にお出しするまでに、この魔物を清めておくように」
日照は頭を下げると、乱雑に山伏式神を牢獄に放り込んだ。
「日照。力加減に気をつけろ。くれぐれも殺めるなよ」
ずんぐりとした獣の肢体を動かし、リスは旅館から去っていった。
「貴方、日照って言ったわね。私の故郷まで送り届けてちょうだい!謝礼がお望みなら何でも叶えてあげる!」
巫女と思わしき女性はこちらの声を無視し、廊下を歩いて行った。「ちくしょう!なんて村なの!」
鉄格子を殴り、吐き捨てる。まじないでもかかっているのか、いくら傷つけようとしてもびくともしない。
「いいわよ、逃げてやるから」
牢獄の隅には餌食になった人間の所持品や、骨が散乱していた。老舗旅館の廊下に併設されている事から現役時代から生贄を捧げていたのだろう。
「何かいい物はないかしら…切断できる物とか…」
真珠のネックレスやブランド品のバッグ。靴。他には眼鏡などしかない。
「ナイフとか持ってないわけ?貧弱な…」
昔の人間は刀を所持していたのに。
「この際、人間どものまじないができたらいいのだけど」
備え付けられた知識には魔術は搭載されていなかった。どうやら知識の持ち主は魔法使いではないらしい。
「でも…この状況、ベタな展開ね…」




