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ノートとフォトアルバム、または何かの資料がでてきた。するとムヅミが仏間にあったであろうメモ用紙に、鉛筆を走らせる。
『貴方はルシャと同じ魂を持っている。日仏村には貴方の母体となった石がある』
「え?!私が、い、石から生まれたのを知っているの?」
山伏式神は荒れ野にある自然物に宿り、やがて魔神と呼ばれ、しまいには原因とされた石に封じられていた。それがこの地域にある岩石であり、知らぬ人の知識では『秩父青石』と呼ばれたものだった。
『その資料を読めば、貴方の由来がわかるはず』
固唾を呑んで紙の束に手を伸ばそうとした。だが、迷いが生じた。
(魔が出生に縛られるの?神霊ならわかるけど、私は…)
暴食魔神と恐れられた、それだけの存在──だったら何も怖くない。
無知であるのはある意味、怖いもの知らずなのだった。ルールにも、何にも縛られない。何にも。
それは何より強く、傲慢でいられる。魔とはそんなモノである。
(私には荷が重い。ダメだわ)
タンスを閉じ、ムヅミを見た。
「ごめんなさい。知りたくない。私は今のままでいい」
信じられないと目を見開き、メモに走り書きをした。
『このままルシャに食べられて死んでもいいの?』
「それは嫌よ。私はね、越久夜町に帰るのだから。また何千年とあの場所で過ごして、たまに人を食う。いつか消えて、忘れられてオシマイ」




