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彼女は何かを口走って、外を指さした。しかしその声音は耳に届かず、この地域で話されている日本語という言語の動きでもなかった。
困惑しつつも、山伏式神は戸を通過していったムヅミについていく。
帰るのなら帰りたい。テリトリーでまた数百年過ごせるのならダラダラしていたい。
静かに戸を開け、夜風にあたる。最悪な臭いさえしなければ霧のかかった木々の匂いがするはずだ。
あるはずのない知識が、村をうろついている者どもはゾンビだと告げる。ゾンビとは何だ?
(ゾンビ、映画ってヤツに出てくるのね?てか…映画って何?)
魂のない、肉塊。動いてはいるが知性はなく、人を襲う。
人ならざる者ではないが、それに近い存在。
フィクションである異形がなぜ村にいるのだろうか?
(分からない…ていうか、フィクションって…一体誰の知識なのぉ?これえ?)
とりあえずこれは絵空事に近いと自覚する。
ムヅミは雑踏をぬって、ズカズカと進んで行ってしまった。慌てて後をつけるが『ゾンビ』たちはこちらにきづいていないようだ。
「何だか、胃がムカムカするわね…」
ため息をつき、温泉街を往く。昼間には気にしなかったが、温泉まんじゅうやラーメン、おでんなどが売られているが、もはや廃墟と化しているせいで、ゾンビらも見向きもしない。
「おいしいのかな…」
生まれてこの方、人の食べ物は口にした事がない。温泉まんじゅうがおいしいのならば、食べてみたいと羨んだ。
相変わらず合成画像のような少女は村の外れにある、小さめの民家の前にたどり着くや手招きした。
「…何をするつもり?私を食うの?」
首を横にふり、また頭を下げる。
「仲間がいる?」
否定すると彼女は玄関ドアに吸い込まれてしまった。「ちょっと!説明しなさいよ!」




