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白の魔法少女  作者: 流瑠々


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22/35

第22話 開幕

――掃討戦当日。




要塞の最深部にある鋼鉄の大扉の前に、


部隊は整列していた。


息を呑む音すら許されない静寂。



ただ、武器を握る手の汗と、胸を打つ鼓動だけが


全員に「これが本物の戦場だ」と告げていた。



先頭に立つリサが、背中越しに仲間たちを見渡す。


その鋭い眼光には、迷いも恐れもなかった。



「――開門!」



号令と共に、巨大な扉が重々しく軋みを上げる。


冷気と共に濁った瘴気が流れ込み、


部隊全体の背筋が粟立つ。



リサが大剣を背に担ぎ、声を張り上げた。



「行くぞ! 作戦開始だ!」




鋼鉄の扉の向こうへ――


人類と災厄の境界線を越えて、


部隊は動き出した。




装甲輸送車の中。

しずく、アヤメ、ミカ、ソラは揺れる座席に体を預けながら進軍していた。




(……初めての出撃のときも、こうやって車に揺られてたっけ……)




あの時の光景が脳裏に浮かぶ。


アオイちゃん、ナギちゃん、


そして――セレスさん。


仲間の悲鳴。崩れ落ちる背中。


もう二度と味わいたくない記憶。



しずくは拳を握りしめた。




(……私は、あの時の私じゃない。

 絶対に、同じことは繰り返さない。

 今度こそ――守り抜く!)




胸に固い決意を刻む。



耳元の通信機から、鋭い声が響いた。




《十二時方向、マガツを確認! 数二、距離三百!》




「全員、降車準備!」



「了解!」




扉が開かれ、しずくたちは一斉に外へ飛び出した。


冷たい風と瘴気が頬を打ち、足元の土を踏みしめる。




「散開! 射線を確保!」



「遮蔽物利用! 前へ!」




エクリプスの兵士たちが素早く展開し、


隊列を組む。




その中央で、しずくも盾を構えた。




「アヤメちゃん! 右をお願い!」



「了解しました!」




「ソラちゃんは後衛! 援護を!」



「はいっ!」




「ミカちゃん! 一気に動きを止めます!」



「まっかせなさーい!」




四人が息を合わせ、即座に陣形を整えた。




前方に現れるのは二体のマガツ。



甲殻に覆われた巨躯が、


咆哮と共に突進してくる。




「撃てぇぇ!」




号令と共に、エクリプスの重火器が火を噴いた。



魔素を帯びた弾丸がマガツの脚部を穿ち、



その動きを鈍らせる。




「今だ! 止めを刺す!」




リサが地を蹴った。




大剣を振りかざし、


疾風のごとく間合いを詰める。


その一閃は、雷光のようだった。




――轟音。




マガツの巨体が一刀両断され、


血煙と共に崩れ落ちる。




仲間の声が響く。




「一体、撃破!」



「残り一体!」




しずくは振り向きざま、


残りの一体に目を向けた。


そこでは先輩の魔法少女が奮闘していた。



「――《焔弾フレア・バレット》!」




紅蓮の火弾が夜気を裂く。


だが、マガツの分厚い甲殻に阻まれ、


爆ぜても大きな傷には至らない。



もう一人の魔法少女が手を地に突き立てる。



両手を地面へ押し当て、力を込めた。



「――沈め!」



稲妻が地を走り、黒石の舗装がぐずりと溶け崩れていく。



沼のような泥が足元を絡め取り、マガツの巨体が沈み込んでいった。



「グアアアアッ!」



咆哮と共に身をよじるも、地面が絡めとって動きを奪う。



「――今です!」



鉄扇を手にした別の魔法少女が疾駆し、


扇を大きく開いた。



刃のように鋭い風が奔り、マガツの首筋を一閃――。



巨体が絶叫を上げ、沈んだまま崩れ落ちた。



「リサ様! こちらも問題ありません!」



報告の声が響く。




リサは振り返らずに大剣を振り下ろし、血を払うように鋼を鳴らす。




「よし! このまま前進する! ――他の隊の状況も確認しろ!」




力強い号令が広がり、部隊は再び進撃を開始した。




「――リサ様。他のナンバーズ部隊、異常なしとの報告です」



アヤメが冷静に伝える。




「よし、このまま前進開始!」

リサが大剣を担ぎ、重々しい声で号令を飛ばす。




部隊は整然と動き出した。


装甲輸送車が後方を進み、


兵士と魔法少女たちは地を踏みしめながら、


ゆっくりと森の境界へと歩を進める。



その横で、しずくは歩きながら小声でアヤメへ問う。



「ねぇ、アヤメちゃん。

他の部隊って、どうなってるの?」




アヤメは視線を巡らせつつ、淡々と答える。



「それぞれ別方向から出撃しています。いずれも大きな抵抗はなく、順調に掃討しているようです。

 私たちの左翼にはギルベルト様、右翼にはカレン様の隊が配置されています」




「……カレンさんが……」




しずくは歩きながら、右手に広がる森を見やった。


深い緑の向こう、今まさに彼女が戦っているのだ。




(……気になる……でも、今は――)




しずくは首を振り、息を吐く。

「……集中しなきゃ」




その直後、前方から鋭い報告が飛んだ。



「十二時の方向――マガツを発見!」




「作戦通り動け!」


リサの号令が一斉に響く。



「了解!」




エクリプスたちが即座に布陣を取り、武器を構える。


しずくも盾を握り直し、駆け足で前へと走り出した。




部隊は順調に進行を続け、


瓦礫と草に覆われた廃墟へと辿り着いた。



石造りの建物は半ば崩れ落ち、柱は折れ、

窓は吹き飛ばされている。

風が抜けるたび、

古い鉄の匂いと土埃が鼻をついた。




「よし、ここで一旦休憩に入る! 

警戒は怠るな!」




リサの声が響き、


部隊は散開しながらそれぞれの持ち場に就く。



兵士たちは無線を確認し、


魔法少女たちは周囲に感覚を広げていった。


「……ふぅ」


しずくは肩で息を吐き、腰を下ろした。




「しずく様、お疲れ様です」



アヤメが小さく微笑んで声をかける。



「うん。ありがとう、アヤメちゃん」



「ミカちゃんとソラちゃんは?」



「二人は警戒に回っていますよ」




「そっか……順調だね」



しずくは頷き、水筒の水を口に含んだ。


冷たい水が喉を潤す。



ふと、崩れた廃墟の奥に目が留まる。



瓦礫の隙間に何か光るものが見えた。



「ちょっと、見てくる」



しずくは立ち上がり、廃墟の奥へと歩を進めた。



「しずく様、危険です。私も行きます」



アヤメも慌てて後を追う。



壊れた建物の中は、

まだ人が暮らしていた名残が残っていた。

棚は倒れ、食器は粉々に砕け、

壁には黒い焦げ跡が走る。



その中で、しずくの視線が一点に止まった。

埃をかぶった写真立て。中の写真は破れ、

色も褪せていたが――

家族と思しき笑顔がかすかに残っていた。



「……ここにも、住んでた人がいたんだよね」


しずくはそれをそっと手に取り、つぶやいた。



「そうですね……」


アヤメの声もまた、静かに揺れていた。



しずくは小さく笑みを浮かべる。


「アヤメちゃん……がんばろうね」



「もちろんです! 

世界を取り戻しましょう、必ず!」


アヤメの声は強く、揺るがなかった。



「お前ら、こんなとこで何やってんだ?」



突然、低い声が背後から響いた。



「わぁっ!」


しずくが飛び上がるように振り向く。



そこに立っていたのは、腕を組んだリサだった。



「な、なんだ……リサさんか……!」


しずくは胸を押さえ、頬を赤らめる。


「おどろきすぎだろ……」


リサは呆れたように息を吐く。



「す、すいません……えへへ」


しずくは気まずそうに笑った。



「……で、何だそれ」


リサの視線が、

しずくの手の中の写真立てに落ちた。



しずくはそれを見せながら口を開く。


「……この写真を見ていたんです。ここに住んでた人たち……どこに行ったんだろうって」



リサは少し黙り込み、やがて低く答えた。


「……行くとこなんか、ねぇよ。マガツに飲まれて、死ぬか……逃げ出しても、別の街で飢え死にするかだ」



その言葉に、しずくの指がわずかに震える。


「……そんな……」



リサはしばらく黙り込み、少し視線を外す。


「……俺もな、子どもの頃にマガツに襲われて……孤児になったんだ」



「えっ……」


しずくとアヤメが同時に目を見開く。



「そこで出会ったのが、エリナだった。

……あいつと二人で『絶対に魔法少女になろう』なんて言い合ってな」



リサの声には、どこか懐かしむ響きがあった。


「そうだったんですか……」


しずくは胸に熱いものが広がるのを感じた。


「でも……つらかったでしょうね」


アヤメが静かに添える。


リサは小さく笑って、肩をすくめる。


「まぁな。でも、あのときの約束があったから今がある。

……エリナがいなきゃ、俺はとっくにくたばってた」



その横顔には、強さと同じくらいの弱さが混じっていた。



しずくは小さく、ぎゅっと写真立てを抱きしめる。



「……だから、私も……守りたいです。誰かが、同じ思いをしなくていいように」



リサは少し目を細めた。



「……そうか」


短い沈黙。



風が吹き抜け、瓦礫の上の砂をさらった。




やがてリサは大剣の柄を軽く叩き、口を開いた。


「……まぁ、俺の昔話なんかどうでもいい。

――さぁ、そろそろ戻るぞ」



「はい!」


しずくとアヤメは慌てて写真を戻し、リサの背を追った。



三人の足音が瓦礫を踏みしめ、


やがて再び部隊のもとへと戻っていった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。








流瑠々と申します。








もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、








ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。
















次回  硝子の災厄は笑う お願いします。






流瑠々でした。

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