1 マツバラ
『A I A M」のサードシーズンです。
セカンドシーズンでR国のスパイに「存在」を確認されてしまったイオとウイル。
その情報はついにあのマツバラのもとにも届けられた。
その情報がもたらされた時、すっかり引退生活も身について好々爺然としていた松原の目に久しぶりに狂気を孕んだ野心の光が戻ってきた。
「生きていたのか——イオ。……私のアトム!」
松原の口が大きく三日月型に曲がって笑みを浮かべる。瞳の中に異様な光が宿りはじめた。
= Digital War = Aju
「もう一度、現場に戻ってはいただけませんか?」
片田舎で静かに引退生活を送っていた松原のもとに、ディクスンが訪ねてきたのは引退から1年半も経った頃だった。
「あのS国とL国の人質事件はご存知でしょう?」
ディクスンが松原に言う。
「ああ、ニュースでは見たよ」
松原が穏やかな顔でそうとだけ答えた。
「あれがS国とL国の全面戦争に発展しなかったのは幸いでした」
「ああ、そうだね」
膝に乗せたシーズーの頭を撫でる。
「その裏に、JBとイオの介入があったというのはご存知ないでしょう?」
松原の表情が変わった。
「なん……だと?」
あの事件は、表向きはS国の特殊部隊が人質奪還に成功したことと、『狼の牙』のハラヘラ師の殺害に成功したことでそれ以上の攻撃をS国のイーダ首相が自制したことになっている。
そのイーダ首相の判断を受け、もともと防空能力で劣るL国も一応口先の激しい非難だけはしたが、S国本土への攻撃を自制した。それが紛争拡大を防いだ——ということになっている。
表向きは。
しかしディクスンの話では、イオがJBに人質の位置情報を提供し、さらにS国、L国双方のミサイルシステムを無力化したというのだ。
「確かなのか?」
「S国、L国双方に入り込んでいる我が国のスパイが送ってきた情報です。双方のシステムが何者かに一瞬で乗っ取られ、戦闘能力を失ったというのです。」
「それがなぜイオだと? あれは死んだはずだ。イソザキの行方もわからないと言うではないか」
「R国のスパイが別の任務中にD国でイソザキとイオを目撃しているのです。R国内に潜入させてあった我が国のスパイからの情報です」
「生きていたのか、イオ……」
松原の顔に狂気とも狂喜ともいえない色が宿る。
「生きていたのか……」
死んだと偽装して生き延びていたのか。
あのタヌキ!
アカデミー賞ものの迫真の演技だったぞ、イソザキ!
長年人の裏を読み続けてきたベテランのスパイを4人も前にして——。
大したものだ。
マツバラの瞳に狂気の光が灯った。
「R国がすでにイオとイソザキを手に入れようと動き出しています。戻ってもらえませんか? マツバラさん。百戦錬磨のあなたの力が必要です。」
「ふ‥‥‥ふ、く、く、くく‥‥‥。生きて‥‥いたのか‥‥。ふはっ‥‥ほほほ! 私の、私のアトム!」
マツバラが膝の上に乗せていたシーズーを放り出すようにして立ち上がった。




