悪戯な白1
かつて、遥か昔、誰の記憶にも、どんな記録にも残っていないとされるほど昔。
もちろん、こんな話が残っている時点でそんなことはないのだが、
しかし、そう伝えられるほどには昔の話。
何よりも無垢な意思がそこにあった。
それは物を知らなかった。
世の道理というものを知らなかった。
産まれてから、生み出されてから、純粋な願いだけを受けていたそれはただ自身の存在意義だけを全うしようと努力していた。
それもまた純粋だった。
それは無垢だった。
誰にも侵しがたい無垢だった。
逆説的に誰も侵すことが出来なかった。
何よりも無知な意思がそこにあった。
それはものを知ろうとしなかった。
世の道理というものを知る気がなかった。
産まれてから、生み出されてから、母の願いだけを受けていたそれはただ自身の存在意義だけを全うしようと努力していた。
それもまた子供だった。
それは無知だった。
何も知る必要がなかった。
逆説的に知ることが出来なかった。
何よりも無垢で無知なそれは正を知らず、悪を知らず、ただ戯れた。
誰も理解できない、そんな悪戯をした。
世の道理すら通用しない、常識や、知識や、心すら理解できない悪戯をした。
産まれてから、生み出されてから、人の願いだけを受けていたそれはただ自身の存在意義だけを全うしようと努力していた。
それもまた神と呼ばれるだけの力を持った人ならざる物だった。
ある人間は願った。
どうか忘れさせてくれと、自身の記憶に根付いた消したい過去を忘れさせてくれと。
真摯に、純粋に祈った。
意思は応えた、ならば消そう。
そんな過去のお前を消してやろう。
人間の過去は消えた。
誰ももうその人間の過去を知らない。
何せ消えた。なかったことになった。
その人間は、自分が誰だったかを思い出せない。
誰もその人間をしらない。
だってそれを証明する過去がないから。
だって、そいつは存在しなかったから。
母は祈った。
自分を生み出せと。
完璧な自分を生み出せと。
意思は応えた、母の願いを叶えようと。
自分と同じなものを作ろう。生み出そう。
だから消して、消して、沢山消そう。
その中で自分も消してしまおう。
そうすれば全てが無くなって真っ白になるだろうから。
意思は意思を消して、忘れて、本当の無を手にする。
無は白くなった無は白だけを残して、母の願いを人の願いを叶え続ける。
さぁ、黒いものよ、色づく者よ、積み重ね、この世に有りし者どもよ
私に祈り、無になるのです。
無邪気に無垢で無知な白は、今も悪戯を繰り返している。




