第39話 驚くべき一言
ユウは困惑していた。
自分が今助けたローブの少女は確かにゴブリン側で敵対してたはずだ。
それなのに今はどうだ。自分の腕の中で泣き叫びながら腕を離さない。
「一体どうなって・・・?いや、まさか本当にカケルさんが言ってた通りなのか?」
「ギギ!」
「うわっ!?くそっ!」
背後から奇襲をかけてきたゴブリンをなんとか避け、ローブの少女を抱えてユウは逃げた。
やはり、簡単に魔法は解かれてしまう。何とか助けを呼びたいが勝手に抜け出した自分達を助けに来る人はいないだろう。
「ギギ!」
「くっ!」
ゴブリン達の棍棒での猛攻を折れた剣で凌ぎ、この場を抜け切る方法を考えていた。
しかし、ユウの目の前にはさらなる絶望が姿を現した。
「ハァ…ハァ…嘘でしょ・・・いき・・・止まりって」
「ギギ・・・ソイツ・・・ヨコセ」
「ひっ!!」
「き、君たち仲間じゃなかったの!?」
「ギギ・・・ソイツハ・・・ハジメカラ・・・クモツ・・・ト・・・シテソダテラレタ」
「・・・本当にそうだったのか」
ーー
それはとある魔法の練習中のことだった。
「なぁゴブリンって人を育てることあんのか?」
「くっ!こ、今度こそ!」
「おーい、ユウ聞けよー」
「くっ!え、はい?何ですかぁ!!?」
ベンチに横たわりながら声をかけてきたカケルに反応したユウだったが、そこで意識を途切らせてしまった為に空へと大きく吹いた風によって飛んでいく。
「・・・あ、わり」
「ぃ、いや、だ、だいじょ、ぶぅ」
「でよ、ゴブリンって」
「ちょ、ちょっと待ってもらえますかぁ・・・」
少し経ってからベンチに座り一息ついた後、改めてゴブリンについての話を始めた。
「ふぅ、すみません。なんでしたっけ?」
「だから、ゴブリンは人を育てんのかって」
「えっとそれは・・・」
カケルの疑問はユウも当然抱いていた。本来、ゴブリンは人を繁殖用の家畜としか考えていないはず。
女性に関しては特にそれが顕著だ。
「た、確かに・・・今までのゴブリンには見られない習性ではあります」
「ふーん。じゃあよ、あれだなあのガキは生贄か何かにする為に育ててるってことだな」
ーー
「ギギ・・・ヨコセ・・・」
「くっ、」
剣を握る手が強くなる。
一体、何の供物なのかは分からないが、仮にも今まで育て、自分達の為に人を襲わせていた少女をこうも簡単に切り捨てるなんて許せない。
そしてそんな相手にすら太刀打ちできない無力な自分にユウは腹が立っていた。
「ギギぃ!」
一体のゴブリンが棍棒を振りかぶりながらユウを襲う。
ギリギリそれを交わすユウだったが、次々と襲いくる棍棒を交わしきれなくなり、遂には頭に一撃をもらい壁に叩きつけられた。
「っぅ、!」
「ギギ・・・クモツ」
「い、いやだ!いやぁ!」
意識がぐにゃりと揺らぐ、立つことすらままならなく、冷たい地面に膝をつく。
視界の先には、ゴブリン達にローブを破られ、髪を無理やり引っ張られながら、連れていかれようとしている少女が映る。
「・・・」
この状況、カケルさんならどうやって切り抜けるのかな。
そんな事を未だ定まらない意識の中で考えていたユウはある一つの策が頭をよぎった。
「・・・僕だけなら、あいつらに勝てない・・・なら!」
気合いで揺らぐ意識の中、立ち上がりローブを被った少女とゴブリン達に向かって走り出す。
「こ、こんな時くらい、上手く発動させろよ僕!!風よ・光刺す・道となれ!"俊風"」
才能がない中でも必死に覚えようとし、結局失敗した魔法の一つをこの土壇場で発動させる。
俊風。その魔法は単純明快な効果。
「ギギ!?ギッ!?」
「ギガッ!?」
一直線上にただ真っ直ぐな強い風を吹かせ、相手にとっしんするだけの魔法。
ただ真っ直ぐに風を吹かせる。それすらユウにとっては至難の業であり、何度も違う方向へ飛ばされた魔法だ。
「だ、大丈夫!?」
「えぐっ・・・」
だが、ここは洞窟。
どんなに風を吹かせても真っ直ぐにしか進まない。折れた剣で少女を捕まえるゴブリンの右目を突き刺す。
苦悶の声を上げたゴブリンからそのまま少女を奪い取り、そのまま反対方向へ全速力で走る。
「ギギ、オエ!」
「な、なんで・・・」
抱えられた少女は、必死になって走るユウを見て目を丸くする。
自分は今まで何人もの人間を襲い、ゴブリンの餌としてきた。
「ハァ…ハァ…、くそっ、頭痛い・・・」
そんな自分が今襲ってきた人間の一人に助けられている。
血を流してまで助けてくれている。
「ギギ!」
「うっくそっ!?速いぃ!?」
障害物を諸共せず、洞窟内を走り追いかけてくるゴブリン達に対し、人一人を傷を負った状態で抱えて逃げるユウでは当然すぐに追いつかれてしまう。
「ねぇき、君!」
「ッ!な、何?」
抱えられていた少女は突然、声をかけられビクッと全身が震えた。
恐らく、このままでは二人ともゴブリンに捕まる。だから、お荷物となっている自分を下ろそうとしている。
当然だ。そもそも助ける義理すらない。
「あ、」
震える声で何かを言いかけた瞬間だった。
抱えて走るユウから出た次の言葉に少女は目を丸くした。
「ごめん!僕と一緒に戦ってくれない!?」
「・・・え?」




