第38話 怒り/絶望
アリサの目の前に現れたゴブリンは自身の親友でもある紫雲の背に乗り現れた。
「アリ、ザァァだず、ゲッ!?」
「ギギ・・・ウル・・・サイ・・・ノリモノガ・・・シャベルナ・・・」
「ギギ・・・アトデ・・・オシオキ・・・」
「紫雲!!」
一匹のゴブリンに顔を叩かれた、紫雲は鼻から大量の血を流しながらゴブリン達に土下座をして許しを必死にこいでいた。
「ごべ・・・ごべんばざい!ゆるじべ、もゔやるじべぇ」
「し、うん・・・?」
自分が見たあり得ざる光景に目を疑ったアリサだったが、紫雲はアリサやカイルを無視して必死にゴブリン達に土下座をして必死に許しを漕いで泣き喚いていた。
ゴブリン達はそれを見て薄寒い笑みを浮かべ紫雲を見下していた。
「お前達が!・・・お前達が足蹴にしてもいい人じゃないその足をどけろ!!!」
アリサは剣を勢いよく抜き、光の速さでゴブリン達に近づき一瞬の内に斬りつけた。
ゴブリン達を殺したアリサは直ぐに紫雲を抱え、カイルの元へと戻った。
「紫雲!紫雲!聞こえる!?紫雲!」
「あ、、あり、さ、、ありさぁぁぁ」
アリサの服を握る紫雲の腕は弱々しく今にも崩れ落ちそうだった。整っていた顔つきはパンパンに腫れ、歯もほとんど抜け落ち、髪の毛は引きちぎられたのか殆ど無くなっており、剣を華麗に扱い敵を斬り裂いてきた両手両足は切断され、女としても剣士としても再起は不可能な状態となっていた。
「ごべん・・・もうやあもうやぁぁ」
「紫雲ごめん。ごめんね」
「二人ともとりあえず今は一旦ここから離れよう」
「ですが!」
「頭冷やして、紫雲の安全の方を先決して」
アリサは持った剣を血が出るほど握り締めて撤退しようとしたが、ゴブリン達の不適な笑みが気になり足を止めた。
「何してるんだいアリサ!」
「ギギ・・・タダシイ・・・カシコイ」
「何かある」
「ギギ・・・ソイツ・・・コノドウクツ・・・カラデタラ・・・シヌ」
ゴブリンが指差したのは紫雲だった。
紫雲自身もそれを知らなかったのか茫然としていた。しかし直ぐに恐怖の色が戻ってきて、再び大きく取り乱し始めた。
「い、いや!死にたぐない死にだぐない死にだぐない死にだくないぃぃぃぃ!!!」
「紫雲落ち着いて!紫雲!」
「ギギ・・・ソイツ・・・モウダメカ」
「ま、待って!まっでくまだざい!戻る戻るがらぁ!いやぁぁぁグゥぅバッ!?」
「し、うん・・・?ねぇ、紫雲?紫雲!!!」
紫雲は叫びながらアリサの手の中で顔を破裂させて死亡した。
アリサは紫雲の名前を何度も何度も叫びながら泣き叫んだ。
「許さない、絶対許さない!!!」
アリサは剣を構えてゴブリン達の前に一瞬で移動して切り刻んでゴブリン達を細切れにして瞬殺した。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「・・・落ち着いたかい?アリサ?何処へ行く気だい?」
アリサはカイルの呼びかけに応じることはなくそのまま洞窟の奥深くに足を運んだ。
カイルは突き進んでいくアリサの手を掴みその動きを止めさせた。
「待つんだアリサ」
「・・・何ですか」
「冷静になるんだ君らしくない。悪いが今の君の精神状態を鑑みると僕達、聖光の守護者は今回の作戦を降りる事も視野に入れる気でいるよ」
「邪魔です」
カイルの説得の言葉にすら耳を貸すことなくアリサは掴んだ手を振り解き前に進んで行った。
「まったく・・・」
それを見たカイルもため息を吐きながら進んでいくアリサについていった。
ーー
洞窟の奥深く、このゴブリンの住処の主にして上位種の一人であるキングゴブリン直属の配下でもある存在、ジェネラルゴブリンの元に乱暴に扱われながら一人のローブを羽織った少女が連れてこられた。
「ギギ・・・オマタセ・・・シマシタ」
「パ、パパ、な、んのつ、もりなの?」
「ワガサイアイノムスメヨ。アァオマエトノヒビハイマデモメヲツブレバオモイダス」
ジェネラルゴブリンは目を瞑り涙を流しながらローブの少女の前まで歩いて来た。
そしてローブの少女の顔を持ち上げた。
「ダガ、オマエハオナジオトコニサンドモハイボクシタ」
ローブの少女の顔を持つ手の力を強めながらジェネラルゴブリンは話を続けた。
「オマエハワタシガウエニイクタメニヒツヨウナソンザイダッタ!シカシオマエハハイボクシタ」
「ご、めんなさ、い。で、でも次は必ず!」
「オマエニハモウセンシトシテノカチハナイ」
「え?」
唐突に告げられた言葉はローブの少女を絶望に落とすのに十分すぎる言葉だった。
物心ついた頃からゴブリンによって戦士として育てられ、それ以外の価値は自分にはないとまで考えていた少女には耐えられない一言だった。
更に続けてジェネラルゴブリンはローブの少女でさえ知らない真実を口にした。
「オマエハササゲモノトシテソダテタ。ナノニハイボクシタ。ヨワイササゲモノニカチナイ」
「さ、さげ、もの?」
「オマエハワガアルジデアルキングゴブリンサマニササゲルタメニソダテテキタ」
「どう、いうこ、と?」
「オマエハササゲモノダッタノダ。ダガオマエイジョウ二フサワシイウツワミツケタオマエハモウイラナイ」
「まっ!?」
首を鷲掴みにされそのままゴブリン達がいる方に放り投げられた少女は叫びながら育ての親だあるジェネラルゴブリンを呼び続けていたが、それを無視しながら別の入口から奥へと進んでいった。
「やだ!やだやだぁ!!」
洞窟にこだまする叫び声を聞きながら進んでいると道の途中に二人の影を見つけ足を止めた。
「オマエタチカ、ナンノヨウダ」
「宜しかったのですか?」
「ナニガダ」
「彼女を捨てても」
「カマワンコウホハホカニミツケタ。オマエタチニモハタライテモラウゾ」
「任せて私もそろそろ暴れたい気分なのよぉ〜」
ーー
洞窟の先をユウ達と白銀の狼は迫り来るゴブリン達を倒しながら先に進んでいた。
少し進んだ頃だった、ユウ達の耳に誰かの叫び声が聞こえユウは振り返った。
「今声しましたよ!」
「あぁそうだな、だがそれがどうした。任務が始まる前に言った筈だろ?今回はそれぞれのクランのことはそれぞれで責任取るってな」
「で、でも!」
「今は任務中だ!俺達がもし任務が失敗してみろ王都はゴブリン共に滅ぼされて終わるんだぞ!」
レオンさんの言っていることは最もだ。今回の任務が王都の命運を分ける戦いであることは明白だ。
だけど今手を伸ばせば助かるかもしれない命を見捨てる事が正しいんだろうか。
僕には分からない。分からないけど後悔したくないと思った。そしたらいつの間にか足が動いていた。
「!?、おい!何やってるんだ!」
「何や何や!?」
「すみません!やっぱり無視できないです!」
「あ、おい!たっく、お前が連れてきた奴らと来たら」
「あ、あははは・・・すんません」
声がした方に走っているとそこには三人のゴブリンが誰かを襲っていた。
「助けないと!汝・逃れる道を閉ざし・自由を封じよ!・この鎖は決して解けず!・怨敵を縛り続ける鎖となろう!束縛する鎖!」
詠唱を終えるとゴブリン達の周りに魔法陣が現れそこから鎖が三本現れゴブリン達を拘束した。
突然、縛られたゴブリン達は何が起きたのか分からず混乱してしまい、その隙をついてユウは襲われていた誰かを助け出した。
「き、君大丈夫!?」
「ひぐっ、えぐっ、お、お前は・・・?」
「え?き、君は!?」
助け出した人は僕とカケルさんと三度も相対しカケルさんによって撃退され続けたローブの少女だった。




