3 ターニングポイント①
「分かったよ。今日は遊ぶの中止でいい」
渋々と言った感じで、さやかは唇を尖らせる。
「あー悪い。ということで、また明日な!」
さやかを先に帰らせようとするのだが。
「ん? 僕も一緒に居るよ? 寄道と」
昼匙さんと二人っきりだと思ってたのに。
「昼匙さん。僕もその話聞いていいよね?」
「えっと……そ、それはちょっと」
戸惑いの表情を浮かべ、昼匙さんは言葉を失っている。
さやかが割り込んでくるとは思ってもなかったのだろう。
「ふーん。僕には聞かせられないの? 何それ? イジワルは嫌いだなー。そんな真似していいのかな? 先生に言おうかなー?」
仲間外れにされるのは、あまり良い気持ちにならないのは分かるけどさ。少しは空気を読めよ、さやか。俺も似たようなことをされたことがあるから、十分理解できるけど。
兎に角、この微妙な空気を変えてくれ。
「ごめんごめん……嘘だよ、嘘。今のは軽い冗談だから。えへへ、可愛い昼匙さんに、ちょっとだけイジワルしたくなっただけだからさ。僕のことは気にせずに、楽しく寄道とすればいいよ。うん、僕は埋め合わせしてもらうつもりだからさ」
「埋め合わせって誰がするんだ?」
「寄道だよ? ドタキャンしたし」
はぁ〜。
ドタキャンしたことに変わりはない。
「……分かったよ。また明日な!」
◇◆◇◆◇◆
「で、話ってのは何?」
立ち話をするのも苦である。
なので、俺と昼匙さんは近場の公園に行き、適当なベンチに座ることにした。他の生徒たちから見られる心配はない。
「あのさ、寄道くんって好きなひといる?」
キタコレ!
マジでキタ!!
恋愛展開だよね??
昼匙さんが俺のことを好きなパターン??
「まぁーな。好きなひとはいるよ」
今、俺の目の前に居る君だよ、昼匙さん!
いつも教室で君のことを追いかけちゃう。
「……好きなひと居るんだ。やっぱり」
あれれ?
口調が確信に満ちているんだが。
ていうか、ここはもう少し深掘りするべきでは。どんな女の子が好きか訊ねるだろ。
あっさり引きすぎだって。
女の子だからさ、言い辛いのは分かるけども。ここは勇気を振り絞って、さあ!!
「好きなひとは傷付けられないよね?」
ん? 何だ、この質問は。
戸惑いがあるんだけど。
「それはまぁーな。傷付けたくないよ」
呟きつつ、俺は少しだけキメ顔して。
「好きなひとが誰かに傷付けられるんだったら、俺は容赦無く立ち向かうと思うよ」
言い切ったぜ。俺は言ったよ、昼匙さん。
これが勇気を出した結果だよ。
非モテな俺は十分頑張ったよ。
もうある意味、告白だよ。
「あの……これはとっても言い辛いことなんだけど」
次は昼匙さん。君が勇気を出す番だ。
ほらっ、ドンっと来い。君の気持ちを!!
「寄道くんは朝日くんと付き合ってるの?」
「はあああああああああああああああああああああ??」
俺は絶叫した。
付き合っているはずがない。ただ仲がいいだけだ。
それに俺たちは——。
「いやいやいや、俺とさやかは男同士だよ? 正真正銘の」
朝日さやかは可愛い。それは間違いない。
夜のおかずを決めるとき、女優の顔で選ぶ俺が言うのだから、その信憑性は滅茶苦茶高いはずだ。
正直、容姿だけを見れば、俺は抜けるかもしれない。
勿論、親友なので実際に試したことはないがな。
時々、どうしてコイツが男なのだと思ったまである。
あークソが。
神様はどうして俺に美少女幼馴染みを与えてくれなかったんだ?
いや、別段、さやかが美少年でもいいんだけどさ。でもあまりにも可愛いのだ。可愛すぎるのである、俺の親友は。
「違うの? 朝日くんといつもベッタリしてるじゃない?」
俺とさやかは、ベッタリしているのだろうか。
小学生の頃からずっと一緒だからあんまり気にしたことがなかったが。
「他の奴等に比べたら、俺とさやかはベッタリしてるかもしれんが……かと言って、俺たちの間には恋愛感情ってのはないぞ? マジで」
「そうなの……?」
「そうだよ。当たり前じゃないか! 男同士で付き合うとかマジでないって!」
「わたしは二人の関係を別にバカにしたりしないよ。ていうか、尊重するよ!」
しなくていいしなくていい。んなもん、尊重しても何の意味もないぞ。
「それよりも……他に何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」
俺とさやかの関係が疑われているだけは、マジで勘弁してくれ。
他に聞きたいことがあるんだよな。そう言ってくれ、昼匙さん。
「察しがいいんだね。寄道くんは」
そう呟き、昼匙さんは表情を一段とシリアスモードへと豹変させて。
「……最近女子の体操服が盗まれているの知ってるよね?」
知っている。
数ヶ月前から断続して、女子の体操服が盗まれているのだ。
と言っても、後日見つかるのだが。
カッターナイフか何かで傷を付けられた状態で。
「それがどうしたんだよ?」
「実はね、あの犯人が朝日くんじゃないかって噂があるの」