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「えーと、お前らに悲しいお知らせがある。実は最近女子の体操服が盗まれている。今回で何回目だ。一体どんな理由があってこんな行動をしているのかは知らんが……そろそろ警察に相談することも学校側は考慮している」
担任が険しい顔で教室に入ってきたと思ったら、早速声色を変えて、俺たちへの説教を開始した。誰の体操服が盗まれたかは知らんが、俺の斜め前に座っている女子だろう。涙をボロボロ流して、手の甲で拭いているし。
「とりあえず何をしたいのかさっぱりだが、クラス内で問題を起こすのはやめろ。何か悩みがあるなら、先生が話を聞く。それでいいだろ。これ以上、クラスメイトに迷惑をかけないでくれ。頼む、オレと全員約束してくれ!!」
HRが終わるとすぐに、元気な声が聞こえてきた。
「寄道ー!? 一緒に帰ろー!!」
手をパタパタ振って、幼馴染みの朝日さやかが走ってきた。
肩まで伸びた長い茶髪が揺れ動き、柔らかそうなピンク色の唇は「ふぅふぅ」と可愛らしく息を切らしている。
「ちょっと走っただけで息切れって……どんだけ体力ないんだよ」
俺が独り言を呟いた瞬間。
さやかは足を挫いたのか、前へと倒れてしまう。
「あわわわわわわわわわわ!!」
どこにも段差とかないと思うんだが、ドジすぎるだろ。
そんな気持ちがあるものの、このままでは机と頭をゴッツンさせてしまい、怪我してしまう可能性がある。
空かさず手を差し伸ばして、俺はさやかを抱きしめる。
「ほら……大丈夫か?」
柔らかかった。
力を入れたら壊れてしまいそうなほどに華奢な身体だ。
「う……うん。あ、ありがとう。寄道」
照れているのか、妙に顔が赤い。
その姿は相変わらず愛らしかった。
柑橘系みたいな香りが漂ってくる。
「あの……そろそろ大丈夫だよ。手を離して……」
「あ……? わ、悪い……」
慌てて俺はさやかから手を除け、本題に入る。
「今日、俺の家に寄ってけよ。一緒に遊ぼうぜ」
◇◆◇◆◇◆
教室を出て下駄箱まで向かっていると。
さやかは「あ、そういえば」と呟いて。
「寄道はさ、最近LIMEの返事が遅い!」
「別にいいだろ。てか、お前は俺の彼女か!!」
「もしかして……カノジョとかできたの?」
訝しげな瞳が、俺を射抜いてくる。
「生憎なことに、俺の周りには全く女っ気はねぇーよ」
「でも、女子の間で寄道の話は結構出ててくるらしいよ」
「マジ……? その話を詳しく教えてもらおうか?」
詰め寄る俺に対して、さやかはとぼけた顔で言う。
「どうしようかなぁ〜。最近、寄道は付き合い悪いし」
「高校デビューしたばっかなんだよ。今が正念場なんだ」
俺——真夜中寄道は、数ヶ月前まで冴えない男子中学生であった。拗らせ限界オタクという種族であり、心の底から『二次元最高。三次元ゴミ』と思っていた。
しかし、本音では生身の女の子と少しでもお近づきしたいし、三次元の女の子とキャキャウフフな展開をしてみたい。その衝動だけは抑えることができず、頼りになる妹の力を借りて、無事に高校デビューを成功させるのであった。
「ふぅ〜ん。寄道は僕よりもあの人たちを取るんだ」
「お、怒らないでくれよ。頼むからさ」
「僕が怒るような真似を、寄道がするから悪いだけ」
だが、俺の幼馴染み——朝日さやかは、俺が高校デビューしたことを許せないらしい。
「……最近、寄道の周りに女の子が集まるようになってきたし。そっちを取るんだ?」