閑話25 隠し事
グレバディス教国 大聖堂
「“弟を迎えに行きます” ねぇ。」
一枚の手紙を眺め、呟く灰色の髪の女性。
サラサラのストレートヘアに、黄色と銀糸で編み込まれたローブに白銀の胸当て。
最高位神官“四天王” その筆頭者である【雷の神子】 レナ・シャーマインであった。
「今までずっと我慢して修行されていたアデル様です~~。大目に見ましょう~~。」
そのレナに、おっとりと伝える細目、そして長い癖のある茶髪。
同じく白銀の胸当てを付けているが、その上からも分かるほどの、爆乳。
【土の神子】サリア・オレガノットであった。
「うーん。確かに大目に見るべきとは思うけど、これ以上の“延期” は不味いのよねぇ。」
「あ、間もなくでしたっけ? ソエリス帝国にいらっしゃる【風の神子】アメリア様がお越しになるのは~~。」
のんびりとした雰囲気の中、二人の女性が唸る。
「昨年、【風の神子】を授かったソエリス帝国のアメリア様が、急に教皇猊下の“祝福” を受けにいらっしゃるなんて。なんでこのタイミングでかしらねぇ。」
「それは、教義に感銘を受けられ、至高神【ルーナ】様や女神様達への感謝の気持ちの表れでは~~?」
おっとりと語るサリア。
「でも、その後“修行” はしないみたいなのよねぇ。【光の神子】や【闇の神子】のように。」
「そのお二人は~~。大国ラーグとバルバトーズの御令嬢ですから~~。しかも連合軍の大幹部さんですし、政略的にも対外的にも、他国グレバディスで“修行”は、些か無理がありますから~~。」
頷くレナ。
そしてその手には、もう一枚の紙。
ソエリス帝国から“【風の神子】への祝福について”の嘆願書だ。
「そのご令嬢の二人は、ねぇ。でも今回の“祝福”は【加護】を授かってから時間がかなり経過した後。しかも、この前の連合軍との衝突で、まだ舌の根も乾かない内だよ。何か企てているかもねぇ。」
ソエリス帝国からの書状を、『バチッ』という音と共に、電撃で消し炭にするレナ。
「その時は~~。その時ですよ~~。」
おっとりしたサリアの細目が、ギラリと見開く。
「何か企てているなら〜〜、潰すまでですよ〜〜。“十傑衆” ごとき、私達の敵じゃないですし〜〜。」
「その口調で言う台詞じゃないわねぇ。」
苦笑いのレナであった。
――――
「おーい、じじぃ。アデルはまだ帰ってこないってよー。」
ボサボサの赤髪と、肌蹴るローブを羽織る女性がぶっきらぼうに言う。
身に纏う白銀の胸当ても、若干汚れくすんでいる。
“四天王”【火の神子】 ティエナ・ミズナラが目の前の白と金の刺繍が施された法衣を纏う高齢の男性に声を掛ける。
「ふうむ。他の者がいる前では “教皇” と呼べと何度言えば学ぶのだ。その頭は飾りか、ティエナよ。」
「いいじゃん。ここには俺とメリティースしか居ないんだからよ。」
グレバディス教国大聖堂。
教皇の間。
その祭壇で神に祈りを捧げていた教皇アナタシス。
隣には、同じく祈りを捧げるアナタシスの孫娘であるメリティースが居た。
美しく輝くサラサラの赤茶髪。
その髪をなびかせながらメリティースはその青い大きな瞳を細め、ティエナを睨む。
「猊下に何たる言葉遣い。万死に値します。」
肩を竦め、呆れ声でティエナも言い返す。
「おいおい。俺は “四天王”。おめーは私の下の “高位神官長” だろ? おめーこそ、言葉遣い気を付けろよ?」
「貴女こそ。私が次の “教皇” になった暁には、貴女を異端者として裁いて差し上げましょうか。」
教皇をさておき、睨み合う2人の女性。
「お? やってみろよ。【神子】でもない、おめーがどこまで出来るか、見物だわな。」
「【神子】が何だと言うのですか? 御存知でしょ? 私の【加護】を。よろしければ今すぐにでも断罪をしてさしあげますわよ?」
「おもしれぇ。やってみろよ堅物女が!」
にらみ合い、一歩一歩と近寄る二人。
ゴゴンッ! とその二人の頭に、拳骨を食らわせる教皇。
「全く。お主らはどうしていつもいつも……。そもそもだな、ティエナよ。お主が悪いぞ? その言葉遣い。私は心の中でお主をもう3,000回は破門にしておるぞ?」
「そ、それってほぼ毎日じゃねぇか。」
頭を押さえながらティエナが苦々しく言う。
「それにメリティースよ。私がまだ健在なのに“次の教皇” など言うでない。私らしかおらぬが、もし別の者の耳にでも入ってみろ。ティエナを裁く前に、お前が異端者扱いだぞ?」
「……うう、申し訳ありません。お爺様。」
同じく頭を押さえながらメリティースが涙目で言う。
ふぅ、とため息をついてアナタシスは伝える。
「ティエナ、そしてメリティースよ。間もなく帝国から【風の神子】が巡礼に参る。加えて、その護衛に“十傑衆” の奴等が4人も付いてくるぞ。どう思うか、言ってみろ。」
「あー、間違いなく“事” を起こすつもりじゃね?」
ティエナが呆れるように言う。
青ざめるメリティース。
「この和平と神の象徴であるグレバディス教国で“事” を仕出かすなど、狂っておるとしか思えぬがの。だが、先の戦争と言い、私らの言葉を無下にする態度と言い、今代皇帝オズノートは厄介だの。」
頭を掻きながらアナタシスが言う。
「先代皇帝オフェリア様は話のわかる方でしたが。弟君のオズノート様は……。」
メリティースが震えながら言う。
ふうむ、とアナタシスは呟く。
「彼は【聖王】の加護を得たが、いまいち、その真価に気付いておらぬ。【風の神子】と合わせ “皇帝として大成なさるよう祝福を与えよう” と進言したが、来るかどうかわからぬな。来れば、多少は変化があったろうが。」
ティエナは「ケッ」と短く言う。
苦々しくティエナを睨む、メリティース。
「まあ、仮によからぬ事を企てているなら……【神子】以外は異端者として裁けば良い。それに【覚醒の儀】を扱う者を全て担う我らに害するなどと言語道断。喉元に刃が付き出されているのはどちからか、と教えてやるのも一興だろう。」
「事が起きれば起きたで、俺たちなら問題ないだろ。むしろ “十傑衆” たった4人で俺たちを何とか出来るって思っていたら、本当に馬鹿としか言いようがないがな。」
睨むアナタシス。
「驕りはよくないぞ、ティエナよ。」
「驕ってねえよ、じじぃ。事実だ。……それよりも、じじぃ。俺たちにまだ “隠し事” があるだろ?」
睨み返すティエナ。
「はて?」と首を傾げるアナタシス。
「……まあいい。アデルが帰ってきたら問い詰めてやるからな!」
そう言い、教皇の間を出る【火の神子】ティエナ。
「全く。ティエナ様の物言い。許せませんわ。」
閉まる扉を睨むメリティース。
そんなメリティースの肩に、手を置くアナタシス。
「メリティース。お主に話がある。」
「はい。何でございましょう教皇猊下。」
アナタシスは、一呼吸おいて伝える。
「お主にこれから、教皇のみに口伝で伝えられる“伝承” と、【聖者】について全てを伝えよう。ティエナの言う “隠し事” も含めて、な。」
息を飲み込む、メリティース。
「一体、何故!? 急に……。」
「先ほどお主も言っただろ。“次の教皇” とな。」
慌てるメリティース。
「そ、それは言葉の綾と申しますか!」
「良いのだ。むしろ、良いタイミングだ。恐らく、私は近い内に、“死ぬ” かもしれぬ。」
凍り付くメリティース。
「どう、されたのですか? 教皇猊下……。」
「【聖者】とは、そういうモノだ。“教皇” になればお主も理解できよう。さぁ、あちらのテーブルに腰を掛けよう。旨い茶でも飲みながら、ゆるりと “受け継ぐ” がよい。」
――――
場所は変わって、ソエリス帝国。
帝国軍大将団 “十傑衆” の間。
円卓テーブルに腰を掛ける10人の将が一同揃った。
「なんじゃい。急な用件というから連合軍のひよっこ共との戦線から戻ってきたら……アメリア嬢のグレバディス教国訪問の件か。我など居らぬでも良かったものを。」
5位ゾルゲが腕組みをし、その巨体を椅子に預ける。
椅子がギシリと鈍い音を立てた。
「重要な事ですよ、ゾルゲ様。今回の件ですが、ただ“祝福” を受けるだけのものではありませんので。」
窘める2位アーシェ。
そのアーシェをギロリと睨むゾルゲ。
「本当のことなんだろうな? 教国が“四大公爵国” に与しているなどという、戯言。」
「本当ですよ。その証拠は掴んでいます。」
アーシェは一枚の紙を取り出した。
「ここ最近のグレバディス教国の動きです。御覧ください。」
全員、その紙に目を通す。
「……これが証拠だと申されるのですか? だとしたら笑止。」
6位ウルフェルがその細い眼光をさらに細め、アーシェに物言いする。
隣で頷く7位ジャッカル。
「最高位神官“四天王” の一人が、教皇の随行を放ったからしにして連合軍本部に入り浸っているっただけだろ? それが何だよ? あんま突くとグレバディスの連中、ヘソ曲げるぜ?」
ジャッカルの言葉がまさに核心だった。
中立国であり、世界中で信仰されているグレバディス教の総本山、グレバディス教国に盾突くなど愚の骨頂である。
国際問題でも起こし、“司祭の派遣停止” などの憂き目にあうと、国として終わりだ。
四大公爵国とは衝突を行っているが、それはあくまでも他国と他国の諍いで、中立国としてグレバディス教国が “双方、矛を収めよ” と通達あっても、相手がいる以上、無視してもさほど問題は無い。
だが、直接グレバディス教国に “中立の立場を崩し、四大公爵国に与している” などと非難するとなると、話が変わって来る。
ただし、それが事実ならば、その非難は正当性を持つ。
係争中の片方へ肩入れをするなど、中立国に有るまじき行為であり、それが世界中の信仰を集めるグレバディス教国であれば尚更。
下手をすると総本山の取り崩しにも繋がる。
グレバディス教国の教皇は、代々【聖者】がなる。
他の【聖】とは違い、必ず一時代に一人誕生する【聖者】
そして、500年前に【赤き悪魔】を退けた“5大英雄” の一人、【聖者】アナタシス・グレバディスの名を継承して、グレバディス教の最高指導者“教皇” となるのだ。
だが、そもそもグレバディス教国は初代【聖者】が建国したグレバディス教の総本山。
もともと世界中で信仰されているグレバディス教は、世界各地で様々な教義があり、統一がなされていなかった。
厳しい修行を課す教義の地もあれば、中には過激的な思想を持つ教義の地もあった。
それを【赤き悪魔】の出現による混乱を収めた初代【聖者】が、バラバラであったグレバディス教を統一し、今のグレバディス教国を総本山としたのだ。
これに、未だ異を唱える者や、地域が少なからずある。
特にグレバディス教の生みの親とされる、“預言者アシュリ”、つまり “女神アシュリ” が顕現したとされる地では、『こちらが正当なグレバディス教の総本山である』と、未だ声を高らかにしてグレバディス教国に対抗している。
世界中で信仰されるグレバディス教の総本山にとって、中立性や正当性の確保が揺らぐことは最も避けなければならない事なのだ。
「その入り浸っているという “四天王” が問題なのだ。」
十傑衆のリーダーである、1位カイゼルが低い声で告げる。
「その者は、【水の神子】 アデル・スカイハート」
その名を聞き、十傑衆の数人が驚愕する。
「スカイハートって……まさか、【剣聖】の!?」
「左様。我らが怨敵、十二将の一人の妹が“四天王” なのだ。」
凍り付く会議場。
「あー、聞いたことがあるわ。ガルランド公爵国の奇跡の何とかって村。【剣聖】と【神子】が生まれたってやつだね。どうせ四大公爵国の眉唾話しだと思っていたが、本当だったんだな。」
ジャッカルが呆れるように呟いた。
「そんな彼女が、連合軍本部に入り浸っているとなると、目的は一つですよね?」
「お兄ちゃんに会いに行っているってことか。あれ、でも【剣聖】ゴードンは怪我したんじゃなかったっけ?」
8位アクセラート、そして新たに十傑将入りをした4位ラムゼルがアーシェに尋ねる。
頷くアーシェ。
「ええ。前回の戦争で直接私が対峙しました。互いに怪我をしたため引いてしまいましたが……無事だったのでしょう。」
そう、前回の衝突で【剣聖】ゴードンと直接対峙したのは、当時4位だったアーシェであった。
彼女曰く“強い相手であったが、こちらも手傷を負わすことが出来た” という言葉が、十傑衆の認識だ。
だが。
本来の“アーシェ” の認識は違う。
“致命傷を負わせた”
“だが、死んだという話が入ってこない”
“それどころか十二将をはく奪されたという話しもない”
“ならば最大限利用して、精々踊ってもらおうか”
「アーシェさんと打ち合って無事なんて、流石は【剣聖】というところか。」
感嘆するラムゼルだが、アーシェは伏せる。
「私が不甲斐ないばかりに手傷程度です。ただ、そのおかげか動かぬ証拠として、彼の妹 “四天王” アデル様がお会いになっていると考えられます。先の衝突で、こちらもあちらも、それなりに被害を受けました。しかし、国際的には我が帝国の侵略戦争という認識が強いのも事実。正当性という意味では四大公爵国の肩を持つ可能性も高いと思います。」
沈黙する十傑衆。
「そこで、我らが敬愛する偉大なる皇帝オズノート様のお言葉だ。」
全員、カイゼルに目を向ける。
「グレバディス教皇、アナタシスを不浄な教皇とし、処分せよとのことだ。」
その言葉で、数人の十傑衆が立ち上がる。
「お待ちくださいカイゼル殿! そのような真似をすると、我が帝国の“儀式” が全て取りやめになります!」
「国としての死活問題ではありませんか!?」
3位ミロク、そしてアクセラートが叫ぶ。
何も言わないが、ゾルゲ、ウルフェル、そしてジャッカルも当然だと言わんばかり驚き、頷く。
「その点は心配ない。」
笑うカイゼル。
「お主ら、帝国の北東にある “アシュリボーン” という土地の事は知っているな?」
「“アシュリボーン”……。グレバディス教を興した “女神アシュリ” 様が降誕なされた地ですね。」
アクセラートが答える。
「そこに住まう、正当なグレバディス教徒の村がある。そこには伝わっているのだ、“秘伝” が。」
全員、目を丸くさせる。
「“秘伝”……。【覚醒の儀】を、執り行えるということですか!!」
「左様。“秘伝” は全てグレバディス教国で修行を経なければ教皇から与えられない門外不出のもの、というのが世界の認識だ。だが実際はそうでは無かった。むしろ、奴等が独占し、国々の首元を締め付ける“秘伝” こそ、不浄な物だと儂は認識する。」
ニヤニヤするカイゼルの隣で、アーシェが立ち上がり伝える。
「オズノート様、そしてカイゼル様のお考えに私も賛同いたします。【覚醒の儀】を独占することで、世界中の教徒と国、そして富を実効支配するグレバディス教国、その首魁である偽りの教皇……【聖者】の悪しき伝統を断ち切り、かつて “女神様” が望まれた本来の正統なグレバディス教のあり方を、この帝国が正すのです。」
アーシェの隣のミロクが、呟くように言う。
「……なるほど。【覚醒の儀】の憂いは無くなった。“四天王” が私人として、たまたま兄である【剣聖】に会いにいったという事実を突き出す中、アメリア様が祝福を受けるという建前の元で訪れ、そのうえで教皇を謀りグレバディス教国の実効支配を実質帝国が握る、そんなプランか。」
「あら? 中々酷い物言いですね、ミロク様? これは元々、皇帝陛下の素晴らしい御発想によるものですよ。それに異を唱えると申されるのですか?」
ニッコリと笑ってアーシェが口を挟む。
首を横に振る、ミロク。
「いや。私は陛下のご命令とあらば、その剣となり盾となる。むしろ、祝福を受けるという大役のあるアメリア様ご自身は、どう思われますか?」
ミロクは、ずっと黙って聞いていた10位アメリアに尋ねる。
「私は……陛下のご命令とあらば、その命に従うのみです。しかし、お姉様。」
「この場では“アーシェ” とお呼びください、アメリア様。」
アメリアの言葉をすかさず正すアーシェ。
たじろくアメリア。
「……アーシェ様、その“秘伝” の話が本当でなければ、私は賛成できません。」
「あら? 貴女は姉の言うことが信じられないのですか?」
先程、“姉と呼ぶな” と窘めた者の言葉とは思えない。
睨むアメリア。
「帝国の未来に関わる話ですよ!? 姉妹が何だ、十傑衆の順位が何だではありません! それを、この目で確認するまでは、私はグレバディス教国へは行きません!!」
何人か驚愕し、何人か頷く。
それを見て、にこやかに伝えるアーシェ。
「そうおっしゃると思いました。なのでこの場に “その村” の司祭をお呼びしました。丁度、この帝国城塞にある【覚醒の魔法陣】で、本日【覚醒の儀】を行う者がいます。試してみましょう。あぁ、グレバディス教国の司祭にはこの話は伏せてくださいね。」
驚愕する全員。
当のカイゼルも、驚いていた。
(この女……本当に優秀だな。あの “無能の小僧” を手籠めにする才に、ここまで読んでの準備。ますます手放しがたいな。)
カイゼルは、いずれ自慢の息子の伴侶になり、このまま手足として動いてもらう未来を想像した。
この“策略” は、また自らを“帝王” へと近づける礎の一つなのだ。
「では。こちらへお入りください。司祭 “セーラ” 様」
アーシェに呼ばれて入ってきたのは、金髪金眼の、少女に見える女。
年はまだ16~17の頃だろう。
司祭のローブを纏っているが、その下の青白い服の襟が、口元を隠している。
「この方が、“その村” の司祭で、“秘伝” を受け継ぐ方です。さぁ皆様、これより、目の前で【覚醒の儀】を執り行っていただきましょう。」
――――
「うまく行ったね、“アッちゃん”♪」
「ここまで予想通りに事が運ぶなんて、流石は “お母様” のプランねー。」
アーシェの私室。
アーシェの“能力” で誰も入れず、誰にも話しが聞かれないようにしている中、3人の “ディア” が顔を合わしている。
「もう、この服は脱いでいい? さすがに暑苦しい。」
そう言い、セーラは同意を得ずに“司祭のローブ” を脱いだ。
「ああ、ごめんごめん! 大役お疲れ様、“セッてぃ”!」
「すっごく司祭ぽかったよ、“セッてぃ”」
アーシェとパメラの二人に褒められるが、ジト目のセーラであった。
「……“セッてぃ” って呼ぶなし。“あの子” が見つかる前に下手に “真名” を口走ってみろ? あの “クソッタレの呪い” が発動して全部オジャンだぞ?」
頭を抱えるアーシェとパメラ。
「そうなんだよなー。早いところ“ゼッたん” 見つけてぇ!」
「そもそも“前回”、この“呪い” を解除してくれていれば問題なかったのに!」
その二人を見て、ため息をつくセーラ。
「そういう余裕が無かった、て “お母様” から聞いているでしょ? このくだらない “呪い” の解除なんて、プライオリティは低いんだから。」
「うぐぐぐぐ~~。不便だ。」
「でも流石は “アッちゃん” だよねー。さっきの会議。私には絶対無理だぁ。」
アーシェの頭を撫でるパメラ。
そんなパメラに「私の味方は “パッちん” だけー!」と騒いで抱き着く。
「はぁ~~。ま、とにかく今回の私の役割は完了よね。そろそろ戻るから、空間解除して。」
「もっとゆっくりしていけばいいのに?」
またもため息をつく、セーラ。
「あのねぇ。“時は金なり” って “お母様” がおっしゃっている事よ? 私たちの時間は無限のようで有限。やっとここまで準備を整えたんだから、失敗は許されないよ? ようやく私も“顕現” できたんだし、貴女達にばかり負担を強いたくない。何かあれば今日みたいに “お母様” 経由で連絡貰えれば行くから。しっかりしてよね。“お姉ちゃん” 達。」
その言葉でパァッと顔を明るくするアーシェとパメラ。
「やっぱり“セッてぃ” は良い子!」
「大好き“セッてぃ”!」
「“セッてぃ” 言うなし。あと早く出せ。」
--――
3位ミロクの私室。
「まさか“秘伝” が、この帝国の奥地に伝わっていたなんてなー。歴史どころか世界の構図が変わりますね。」
先程見た、グレバディス教国以外の司祭による、【覚醒の儀】を目の当たりにして驚嘆するラムゼル。
だが、目の前のミロクの表情は険しい。
「ミロクさん、まだ何か……。」
「出来過ぎている。まるで、何かに“誘導” されているようだ。」
ゾッ、とするラムゼル。
「でも……。アメリア様のグレバディス教国随行、ミロクさんも同行するんですよね?」
「あぁ。私自ら、名乗り上げました。」
【風の神子】 アメリアの、グレバディス教国教皇アナタシスによる、祝福の儀。
それに随行する十傑衆の4人のうち1人に、ミロクは名乗りでた。
「相手は“四天王”。もしこちらが教皇に害すると察すれば、恐ろしい【加護】がこちらに牙を向ける。それに教皇自身も伊達に“教皇” は名乗っていない。とても勝算があるとは思えないが……。」
「何か、絡め手でもあるのでは?」
腕を組む、ミロク。
「分からない。だが、時折思う。」
以前、アメリアが言っていた言葉。
“姉アーシェは、身体は姉でも、中身は別の ”何か“ である。”
その言葉を受け、アーシェを警戒してみるが、未だ尻尾を掴ませない。
彼女は頻繁に、皇帝オズノートや1位カイゼルと面会をしている。
しかし、その場に侵入してバレでもしたら死罪は免れない。
掴みどころのない、あの女。
オフェリアを裏切った、あの女。
皇帝オズノートと帝国軍最高権力者カイゼルから絶大な信頼を得る、あの女。
「あの女は、底が知れない。貴方も注意すべきだ。貴方も、お父上も。」
「親父は関係ない。ボクは、ボクの信念で帝国を守るだけですよ、ミロクさん。それに四大公爵国との関係についても、です。」
拳をつくる、ラムゼル。
「オフェリア様が目指した “和睦” への道。ボクは諦めていません。」
「ああ。血を流すことなく、四大公爵国と共に歩む道を、模索しよう。」
先代皇帝オフェリアの意志。
若き十傑衆の二人は、静かに、確実に、その想いを繋いでいるのであった。
「ところでミロクさん」
「何か?」
「……ボクやアメリア様に、何か “隠し事” があるのでは?」
少し顔を伏せるミロク。
「機が熟したら、お教えしましょう。」
「誰よりも貴方の事は信頼していますからね。頼みますよ、【氷の貴公子】」
ニヤリとするカイゼル。
薄々、ミロクの “隠し事” に心当たりがあるのだった。




