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閑話20 激怒

『ゴードン!!』


胸から血を大量に流し倒れ伏すゴードンを守った【戦場の死神】ディエザ。

ディエザはゴードンに顔を向け、男とも女とも分からない声で叫ぶ。


「ディ、エザ……」


辛うじて答えるゴードン。

だが、もはや虫の息。

再度、胸を貫かれ息も絶え絶えとなった。


助けが、来てくれた。

その安堵感と、敵を倒せなかった不甲斐なさからか、ゴードンの眼に涙が浮かぶ。


『待っていろ! 今、回復させる!』


ディエザは大鎌を構えたまま、左手をゴードンの胸の前に突き出して光の粒子を浴びせる。


「ちょっと待てや! 何勝手に助けようとしているんだよお前は! 邪魔をするなあぁ!!」


怒りで顔を歪めたアーシェが剣をかざし、消えるようにディエザを襲う。

しかし、回復魔法を掛けるディエザも消える。


そして。


『ガァアアアン!!』


「グハァッ!!」


再度の硬質音。

吹き飛ばされ、はるか後方で倒れるのはアーシェだった。


ディエザは先ほどと同じ体勢に戻り、ゴードンに回復魔法の続きを掛ける。


『邪魔なのは貴様だ! 大人しくそこに居ろ! 一瞬でも動いてみろ!? 次はその首を跳ねてやる!!』


普段、口数が少なく、冷静沈着な“死神”

そんなディエザが、感情丸出しで怒号を張り上げる。


震えながら立ち上がるアーシェ。


「な、何なのよアンタは……強すぎない? ……まさか、嘘、でしょ!?」


驚愕するアーシェ。


「生きて、いたの!? どうして!?」

『黙れ “ディア”の屑め! もう我慢の限界だ。“奴”を葬るまでその悪事に目を瞑ろうと思っていたが、もう止めだ! 今日、この場で、貴様を八つ裂きにしてやる!!』


震えながら声を挙げるアーシェに、怒声を上げるディエザ。


「ディ、ア……?」

『しゃべるなゴードン!! ……君は必ず助ける。その後は、ボクに任せてくれ。』


ディエザから漏れる、優しい口調。

声は、魔道具で変声されている。


だが、聞き間違うわけがない。

気付かないわけがない。


その口調を。

その大らかで優しい雰囲気を。



涙が溢れた。

助けに来てくれた。


その安堵感。



だが。

“助かるかも”

“助からないかも”


二つの背反する未来が交差する。

生か、死か。

ゴードンは、“助からない”未来を危惧した。


なら、今、告げよう。



「もし……オレが、死んだら……頼みが、ある……」


涙を流しながら告げるゴードン。


『言うなゴードン! 絶対、君は助かる!だから君の頼みなんて聞かないぞ!』


回復魔法の力を強めるディエザ。

その手を、そっと握るゴードン。


「……聞いて、くれ。頼、む。」


意識は朦朧とする。

“回復魔法では失った血は戻らない。”

すでに大量の血を失ったゴードン。

全身の喪失感と、倦怠感、そして極寒の地にいるような寒気。


目の前が、徐々に暗くなってきた。


『言うなゴードン! 君は絶対助かるんだ! ボクが絶対に助ける! 君は愛する人のもとへ帰るんだ! だから諦めるな!!』



「ありが、とう……。 アゼイド(・・・・)。」



その言葉に、ディエザは絶句する。


『どう、して……?』

「当然、だろ? オレと、お前は、親友……だか、ら。」


ゴードンは、震える手でポケットから、小さな箱を取り出してディエザの手に付ける。


「頼む。これを、テレ、ジに……。オ、オ、オレは、テレジを……永遠に、愛する、と……」

『待てゴードン!! 言うな!!』


回復魔法をさらに強めるディエザこと、アゼイド。


今がチャンス!

チャンス……なんだけど。


剣を握り斬りつけたいアーシェ。


動けない。

今、動いたら、殺される。


何度も繰り返し使ってしまった“因果律操作”

膨大な“力”を要し、また、身体に掛ける負担もバカに出来ない。

加えて【剣聖】ゴードンから受けた傷の数々。

それを修復するために、また無理して使ってしまった“力”


万全なら対処できたであろう。

しかし、今のコンディションでは、良くて五分。

仮に勝利出来たとしても、致命傷を受け、最悪は“作戦”そのものが失敗に終わってしまう。


そんなにもう、待てない。

今度こそ、確実に、成功させなければならない。


“お母様”のために。



アゼイドは持てる力を注ぎ、ゴードンの回復を試みる。

しかし、流した血は戻らない。

見る見る衰弱するゴードン。


諦めない。

諦めたくない。


シエラの親友テレジ。

その大切な人でもある、自分の親友。


世界の守護者たる【剣聖】だからなんて、関係ない。


友を、親友を、助けたい!!

この友には、幸せな未来が待っているんだ!!

絶対助ける!!



「アゼイド、ありが……とう。テレジと、おと、うと、ディールを……たの、む……」



ゴードンは、小さな箱をアゼイドの手に渡し意識を失った。


『ゴードン!?』



アゼイドは、震える声でゴードンに声を掛ける。

だが、応えてくれない。


傷は塞いだ。

だが、血を流し過ぎたのだ。

ゴードンの顔は真っ白であり、辛うじて”生”を繋いでいる状態だ。

一刻の猶予も無いように伺える。


『ゴードン!! テレジさんに言いたいことがあるなら自分で言え!!』


ゴードンの身体を抱きしめ、さらに回復魔法を強めるアゼイド。

そのアゼイドに向かって凄惨な笑みで笑い声をあげるアーシェ。


「あ、あは、あははははははは!! 死んだ!? 死んだの!? しぶとかった【剣聖】が、今、死んだの!? あははははははははははは!」


この隙に、逃げよう。

笑いながら、一歩下がる。


同時に感じる。

絶えず回復魔法を掛けるとは、別種の力。

膨大な、殺気と魔力の上昇を。


「…やっば~~い♪」


汗をダラダラ垂れ流し、笑顔を引きつらせながら後退するアーシェ。


【剣聖】の排除という、最大の目的が達成できたかどうか、出来れば確認したい。

殺せていたなら目的達成。

仮に殺せていなくても、また機会を作れば良い。


だが、今、目の前に居る“こいつ”

自分の、自分達の “天敵”


こんなところで出会ってしまうなんて!


“セーラ! 助けて! ”

心で念じるが、すでに彼女の気配はない。

仮に気付いてこちらに向かったとしても、間に合わないだろう。


そして彼女も言っていた。


“色々使った”


この場に来ても不味い。

ノコノコ殺されに来るバカでも無い。


絶体絶命だ!!



「ディエザ!?」


その声と共に、銀髪の女がその場に立った。

また、やばそうな奴が来たーーー!!!



シエラは驚愕する。

ディエザの強大な魔力と殺意の上昇を感じ、嫌な予感がして大慌てで辿り着いたら……。


夥しい血の池の上に、横たわるゴードンを抱える【戦場の死神】ディエザがいたのだ。


「嘘……。ねぇ、ゴードン君は!?」


震える声で尋ねる、シエラ。

だが、ディエザ(アゼイド)は答えない。


ふと、前を見ると…。

笑みを凍らせて、この場を去ろうとしている女がいた。


「お前が……ゴードン君を?」


シエラの全身から殺意が迸る。

ピシッ、ピシッ、と大地に亀裂が走る。


スッと、ゴードンを地面に横たわらせ、ディエザが立つ。


『シエラ……様。ゴードンを頼みます。』


その言葉と同時にゴードンの許へ走り、容体を確認するシエラ。

辛うじて息がある。

だが、危険な状態。


シエラは【天衣無縫】の能力、かつて見た回復魔法を模倣し、ゴードンに素早く掛ける。

目線は敵。そしてディエザに尋ねる。


「ディエザ、こいつなの!? こいつがゴードン君を……」

『アアアアアアアアア!!!!』


シエラの問いに答えず、消えるように動くディエザ。

狙いは、目の前の、アーシェだ!


「うわ!くそぉ!!」


『ガキン!ガキン!』


辛うじてディエザの大鎌を防ぐアーシェ。

そのまま押さえれるように、アーシェとディエザは撤退と前線維持で乱れる連合軍と帝国軍の戦線に飛び込んだ。


「うわぁ!!」

「な、なんだあ!?」


巻き込まれるように身体を吹き飛ばされる帝国軍の兵達。

それを小高い丘の上で呆然と眺めるシエラ。


「ディ、ディエザ……?」


あんなに激高しているディエザを、初めて見た。

会議でも、通路でばったり会っても、殆どしゃべらない気味の悪い死神。

人間味が無く、


“黒装束野郎”

“骸骨野郎”

“不気味野郎”


色んな言葉で、散々罵った。

それでも、平然と、気にする素振りすら見せなかった。

彼女シエラは、その態度がますます気に入らなかった。



そんな【戦場の死神】ディエザが、激怒に身を委ね敵を狙う。

初めてみる、死神の怒り。



「とにかく、まずはゴードン君!……死ぬんじゃないわよ!」


まだ、戦いは終わっていない。

自分は連合軍の総大将、十二将“主席”シエラ・マーキュリーだ。

その責任は、重い。


荒れる戦場を後目に、ゴードンを背負う。


「こんなの、もう勘弁してほしいわ。アゼイド君と結婚したら、絶対、辞めてやる!!」


ディエザとあの女の争い。

見ると近くにいる兵士達が巻き込まれている。


とにかくまずはゴードンを要塞へ届ける。

そしてすぐに戦場へ降り立ち、連合軍の死傷者を一人でも減らすのが、自分の役目!

戦火に巻き込まれる優秀な連合兵達を守りつつ、あの女をディエザと共に倒す!!


シエラはゴードンと共に駆けるのであった。



――――



「撤退せよ!早く、撤退せよ!」


叫ぶのは十傑衆6位ゾルゲ。

戦略級大魔法が消失し、聞くとカイゼルの大将陣地も壊滅したとのこと。

前線から転移魔法で離れてしまったため戦況を見極めるべく再度戦場に降り立ったところ、眼にも止まらぬ速さで、何かと何かが衝突を繰り返している。


巻き込まれる帝国兵が、その命を散らしている。


無差別かと思いきや、辛うじて見える黒い影が、もう一つの影を逃げ惑う帝国軍側へと押しやり、その被害は帝国兵のみ被る形となってしまっている。


“あれ”に巻き込まれたら、いくら“不死王”と謂われる自分も、命が無いだろう。


“不死王”の所以。

それは【加護】による自動回復の能力からだ。

どんなに斬られても、身体を穿つ穴が開こうとも、即座に回復される能力。

その力を、敵を屠るために底上げし、名付けられた二つ名が“不死王”だ。


だが、一瞬で絶命しそうな剣戟の嵐に突入しようものなら、回復する前に細切れだろう。

さすがに、死ぬ。

ならば、友軍の命を一人でも多く救うため、先導し逃がすのが将たる自分の役目!

ゾルゲは叫び、嵐を避けるように帝国軍を誘導するのであった。




剣戟の嵐を呆然と見る、十二将たちと連合軍。

すでに帝国軍は全軍撤退を始め、深追いをせず前線維持に注力したため、巻き込まれずに済んだのは僥倖であった。


「あれ、なんだよ?」

「恐らく、ディエザ殿ではないか?」


傷の手当を受けるマイスターの呟きに、ザインが答える。


「マジかよ。あのレベルかよ!? 洒落にならん……。」

「しかし、それと対峙しているのは一体…?ディエザ殿と打ち合えるような者など、それこそシエラ様か亡きゼクトくらいだぞ?」


ザインの言葉に、全員が沈黙する。

その時、全員の眼の前にゴードンを抱えたシエラが現れた。


「シ、シエラ様!」

「ゴードン!?」


糸の切れた人形のようにグッタリするゴードン。

顔は真っ白で、生気を感じない。


「回復兵! 早く造血ポーションと上級ポーションを投与! 急げ!!」


シエラが叫びながら指示を飛ばす。

英雄である【剣聖】ゴードンの惨状に思考が停止しそうになったが、シエラの一括で慌ててゴードンに緊急治療を施す。


「まさか、【剣聖】ゴードンが……。」

「嘘…。」


「言っている場合か!!」


シエラが叫ぶ。


「今、ゴードン君をここまでにした犯人くそったれを、ディエザが押さえている! あの嵐はその戦いよ! 非常に強力な敵であることは間違いないから私も出る。兵は全員撤退し、要塞内で防壁と結界の展開に全力を注いで!!」


「「「「「はっ!!」」」」」



その、次の瞬間だった。



『ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!』



剣戟の嵐の真ん中が、閃光と共に爆発した。


「ディエザ!?」


小規模な戦略級大魔法のような爆発。

数十秒後、煙が晴れた。


「マジかよ……」


平原に、巨大なクレーターが現れ、巻き込まれた数千人の帝国兵の亡骸が倒れていた。


「連合軍の被害は、無い、わよね?」

「ええ、すでに撤退は完了しておりますので、恐らくは大丈夫、かと……。」


シエラの呟きに、震えながらザインが答える。


すると、大要塞の城壁に黒い影が降り立った。

纏う黒装束をボロボロにし、白い鉄仮面も所々ひび割れ、その隙間から黒髪が出ている。


「ディエザ!!!」


【戦場の死神】ディエザが帰還した。


ディエザはシエラや十二将たちがいる場所へ、素早く降り立った。


「ディエザ、無事だったのね!……あいつは!?」

『……申し訳ありません、シエラ、様。奴を逃してしまいました。』


拳を震わせ、呟くディエザ。

その身体には、剣戟の嵐で傷付けられたのか、ところどころ血がにじんでいた。

そして爆発に巻き込まれたのか、焦げ跡もあった。


それでも無事に戻ってきたディエザ。

さすが“世界最強”と謂われるだけあるのだ。


ディエザは回復兵が大慌ての中、処置を施されるゴードンに目をやる。

そして、フラ付くようにゴードンの元へ足を運び、崩れるように膝を付けた。


「最悪の被害は抑えられたと考えましょう。援軍が到着次第、戦線人員を交代。ザインさんとシータは大変だけど、引き続き将として大要塞の指揮に当たってください。マイスターは傷を癒し次第、帰還すること。以上……。」


シエラもそれだけ伝え、部屋を出た。



大要塞内、シエラの私室。


ベッドに顔を埋め、叫ぶ。



「あああああああああ!!!嫌あああああああああああああああああ!!!!!」




最愛の人の親友である、ゴードン。

親友の恋人である、ゴードン。


もし、このまま失ってしまったら?

湧き上がる絶望感。


シエラの慟哭が響く。



「お願い……お願い……。ゴードン君を助けてください、女神様……。」


神に祈ることを嫌う彼女シエラの口から紡がれる、女神の名。


十二将主席という重責。

戦争に直面した、総大将としての役目。

親友テレジが愛する人の危機。


「助けて……、助けてよ……。アゼイド君。」


紡がれる、最愛の人の名。



彼女シエラは弱く、脆かった。


若干15歳で十二将となり、18歳で最高位の主席に抜擢された天才。

幼き頃から”天才” ”神童” と持て囃されてきた。


その華麗に映る出世街道は、言うならば彼女自身の胆力で乗り切っていたのだ。


だがここにきての戦争。

すでに先の戦争でも何人もの優秀な連合軍の兵や幹部たる十二将を失った。


“もう二度とこんな事はごめんだ” と自ら出張った今回。

そこで直面した、親友の最愛の人、また、最愛の人の親友であり、自分が心底信頼する部下である【剣聖】ゴードンの瀕死。


重責・重圧に押し潰されそうな精神に、結果、追い討ちをかけてしまった。


彼女の中の”何か”が壊れそうになっていた。

重責・重圧に、それは限界まで追い込まれてしまっているのだ。



『ドンドンドン!』


伏せるシエラの私室に、ノック音が響く。



『シエラ様! ザインです! 火急の報せです!』


第9席ザインであった。

涙を拭き、立ち上がりドアを開けるシエラ。


「どう…したの?」

「お休みのところ申し訳ありません! たった今、本部にいるエリス様より連絡が!!」


青ざめて叫ぶザイン。

嫌な予感しかしない。


「マルゼン総統閣下が……容体を急変させ、意識不明とのことです!!」

「なんですって!?」


もう一つ、恐れていたことが現実になった。

病床につく連合軍総統、マルゼン・フォン・ソリドール。

本来なら次の“総統”、娘であるマリィにその座を譲り、ソリドール公爵国へ戻り養生を勧めるところであったが、本人の強い希望による、先延ばしになっていた。


“いつか倒れてしまうのでは?”


それが、シエラの懸念であった。

その日がいつ訪れても良いように、色々と手を回していた。


だが、それでも早すぎる。

そしてこのタイミング。

シエラは愕然とした。


【剣聖】ゴードンの瀕死。

加えて、最高指導者である総統の容体悪化。



シエラは絶望の表情を浮かべ、口にする。



「アゼイド君………助けて…。」




連合軍最強の十二将主席シエラ。

その“心” は、壊れる寸前であった。

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