第56話 修行の成果
『ギギギギギギギギギギギギギンッ!』
巨大な岩壁に囲まれるだだっ広い空間。
【金剛龍ガンテツ】の住処である、“土の神殿”の深部。
3m程の金色に輝く岩のゴーレム。
その脇には8本の腕が伸びており、それぞれが強力な業物の剣を握り、目にも止まらぬ速さで斬りつけてくる。
対するはディール。
手に持つのは、紅の魔剣ホムラ。
だが、“熱纏”も“熱錬”も発動させていない。
生身の身体と、ホムラ自身の切れ味だけで金剛ゴーレム“岩ゴロー”と対峙しているのだ。
激しく火花を散らし、剣と剣を打ち合うディールと“岩ゴロー『ばぁじょんエイト』”
もう何度目の闘いか、分からない。
最初は無様にユウネの“星盾”ごと破られ、文字通り手も足も出なかった。
あれから半年。
ガンテツから与えられる地獄のような課題をこなし、身も心もボロボロにしながらも“最愛のユウネを守る力が欲しい”一心で鍛え上げていった。
凡そ人の手では不可能な鍛錬の数々。
ありとあらゆる鉱物を生み出し、そして魔物すら使役する最古の龍神【金剛龍ガンテツ】
彼だからこそ、その鍛錬が可能となったのだ。
それに耐え、乗り越えてきたディール。
“岩ゴロー”が斬りつける刃の嵐。
中にはフェイントも織り交ぜられる中、適切に、確実に、さばいていく。
そして。
『ズババババババンッ』
決して感情を持たないゴーレム。
正確に、確実に、命を狙ってくるだけの、魔導生命体。
それでも、隙が無いわけじゃない。
いや、あえて隙が出来るように剣と剣を打ち合ったのだ。
その隙をディールは逃さず、見事、8本の腕を切り裂いた。
宙を舞う“岩ゴロー”の腕と剣。
ディールは、キンッ、と音を立ててホムラを鞘に納めた。
瞬間、“岩ゴロー”は頭部から真っ二つに切り裂かれ、左右に倒れた。
「どうだ、師匠?」
ディールは平然と、ガンテツに尋ねる。
この戦いを満足そうに、笑顔で眺めていたディールとユウネの師匠こと、ガンテツ。
手を叩き、嬉しそうに言う。
「素晴らしいぞ、ディール殿。よくぞここまでたどり着いた!」
「いや、まだだ。」
ディールは少し目を伏せる。
「“岩ちゃん”の腕と剣を切ったつもりだったが、剣までは切れなかった。弾くのが精一杯だったよ。」
「何ともまぁ。」
“ちょっと、鍛え過ぎた”
そう思うガンテツであった。
『ドゴン!!』
ディールとガンテツの後ろから、轟音。
立ち込める煙の奥から、“星盾”を美しく纏うユウネが歩いてきた。
「やっと“巨星”をここまで制御することが出来ました。」
晴れた煙の奥。
地面の石畳にペチャンコになって潰れる“岩ゴロー『ばぁじょんナイン』”が見える。
ユウネが放ったのは【星の神子】の最強魔法である“極星魔法”の一つ、“巨星”
その名の通り、巨大な星の固まりを天から降らせるという、とてつもない魔法である。
だが、その発動までかかる時間と周囲を巻き込む凶悪な攻撃範囲。
それを小さく固めたものを、“無詠唱”かつ最小限の魔力で発動させ、容赦なく襲いかかる“岩ゴロー”を潰したのであった。
ちなみに、今現在のユウネのステータスはこのような状態だ。
■■■■■■■■■■
[名前] ユウネ・アースライト
[年齢] 15歳8か月
[加護] 星の神子
[戦闘力] 489
[魔法力] 56,800
[固有技能] 星 気配探知(大) 神子 危険察知(極大) 発動短縮(極大) 魔力消費減(大) 鑑定(中)
[所持魔法] 星魔法(星弾、星盾、星の息吹、星連弾、星大弾、星牢、地爆星、星連壁、星命息吹)、星天魔法(流星、彗星、恒星、星天回帰、[未収得1])、極星魔法(魔星、剣星、巨星、天星消爆、[未習得1])
[属性値] 火89 風0 雷0 土521 水720 光0 闇0 星5,022
[DEAR] 89,100
■■■■■■■■■■
「めっちゃくちゃ、ユウネ強くなったなぁ」
ユウネの作った卵とハムのサンドウィッチを食べながら感心してディールが言う。
その言葉に頬を赤らめて頷くユウネ。
「ディールこそ。見ていたよ、“岩ちゃん”の腕、全部斬っちゃったじゃない。」
「余裕あるなユウネ!オレなんて全然ユウネの方見る余裕なかったぞ!?」
真っ赤になって伏せるユウネ。
襲いかかる“岩ゴロー”を避けつつ、格好いいディールの有志を目に焼き付けたなんて、とても言えない。
実際、ユウネは強くなった。
魔法力が半年前と比べて10倍程に跳ね上がった。
また魔法も、“星魔法”は全て取得済み、“星天魔法”と“極星魔法”は、それぞれ残すところ後1つずつとなった。
最強魔法の“極星魔法”は、最近覚えた“天星消爆”以外は無詠唱で使える。
威力を最大限落とし、魔力消費も相当押さえて、使う。
それでも危険極まり無い魔法であるが。
“天星消爆”は、仮に使えるようになっても、『絶対使うな』、とガンテツに口を酸っぱくして約束させられた。
“龍神の住処”は、それぞれ龍神の魔力に満ちて半分異空間のような状態だ。
そのような状態でも“極星魔法”を放てば、“外”にも影響が出てしまう程の威力であるからこそ、威力と魔力を落として使うことが推奨されたのだ。
ガンテツ曰く『“天星消爆”はそういうレベルの魔法では無い』との事。
下手をすると、世界地図が変わる。
最も、発動は無詠唱では不可能、いわゆる“超々長文詠唱”が必要になるため、実戦向きでもないらしいが。
いずれにして、ユウネの実力はすでに『個人で戦略級大魔法を超える魔法を放てる非常識な魔導士』までたどり着いた。
最も、それが世界でどういう位置付けなのかはディールもユウネも知る由も無いが。
そしてディール。
【加護無し】であるからステータスが表示されず、今、自分がどのくらい強さを持つのか見当が付かない。
ステータスで力量が数値となり、目に見えて分かるユウネとは違って“自分は本当に強くなっているのか?”という疑問を毎日毎日思いながら、修行に明け暮れたのだ。
自分は、弱い。
落ちこぼれの烙印【加護無し】
そんな自分が、見違えるほど強くなったユウネを守る資格はあるのか?
自分は必要とされていないのではないか?
途中、そのように思い心が挫けそうになった。
だがそんなディールの気持ちを知ってか知らずか、難易度が日に日に上がるガンテツの“課題”
そのうち、そんな考えも過らないほど追い込まれるのであった。
それを、乗り越えたディール。
ステータスは分からない。
だが、確実に強くなったという実感だけはある。
そしてそれはユウネと同様。
ディール自身の力量が、今、世界でどういう位置付けであるか知る由も無い。
「良くここまでたどり着いた。」
サンドウィッチを大量にいただき、満足したガンテツが改めて二人に言う。
「師匠からそんな風に褒められるなんてな。」
「本当。どうしたんですか? お師匠様。」
怪訝そうな顔をするディールとユウネ。
脳裏に浮かぶのは『この次はどんな厳しい課題が与えられるのだろうか?』であった。
だが、ガンテツは笑って伝える。
「もう二人に教える事も無ければ、課題も無い。二人とも、卒業じゃ。」
その意外な言葉に、ディールもユウネも顔を見合わせ、そして
「よっしゃああああああああ!!!」
「やったぁああああああああ!!!」
大喜びで抱き合う、ディールとユウネ。
自然と目から涙が零れる。
本当に、本当に、辛く厳しかった修行の日々が、終わったのだ!
「うおっほん!」
『ゴホン!!』
人目も憚らず抱き合うディールとユウネに、ガンテツとホムラが咳払いをして諫める。
真っ赤になって離れる二人。
「儂の修行はこれで終わりだが、二人の目的は忘れては無いだろ? まだまだ旅は続く。今日はゆるりと休み、明日、出立しなさい。外にグリフォン殿を待たせよう。約束通り、次の目的地まで送ろう。」
ニコニコ笑って言うガンテツの言葉に、笑顔になるディールと、顔を青ざめるユウネ。
また、あの、空の旅が!?
『強くなったのに、それはめっきり弱いのねぇ、ユウネは!』
「もぉ!ホムラさん!!」
クククククと、笑って茶化すホムラに真っ赤になって怒るユウネ。
ホムラの封印、50番台も解けた。
その“力“は、魔剣としての強さの解放であった。
元々屈強で恐ろしい切れ味を誇ったホムラだが、封印解除後の切れ味や鋭さなどは、段違いとなった。
扱える魔力量も増えたことで、ホムラ自身の底上げにもなった。
ガンテツは言う。
『修行せずただただ解放しただけでは、ディール殿の命が危なかった』
あまりに強力になった魔剣ホムラ。
今まではリミッターが付いていた状態であったので、ただの人間であるディールにも扱えた。
だが、魔剣としてのリミッターが解除されたホムラ。
扱える魔力が増え、武器としての能力が爆発的に上昇したことで、吐き出される“能力”の前に、今までのディールの身体では付いていくことが出来ないというのだ。
例としてスイテンとの邂逅で微調整可能となった“熱錬”
ディール自身の能力の底上げの力であったが、ホムラが扱える全ての“力”が、あの状態になるという。
リミッターのおかげで特段ディールの身体に負荷は掛からなかったが、今後は扱う力が負荷となってディールに襲いかかるのだ。
そもそも、魔剣を扱う者の宿命であったりする。
自分の魔力を籠め、剣を魔剣へと昇華するのはこの世界では殆ど当たり前であった。
しかし、強靭すぎる魔力を籠めてしまうと、逆に自分自身でも扱えない魔剣となり、使うだけで見る見ると魔力を吸い取られてしまうような現象もあるとのこと。
その匙加減こそ、この世界で大切な“調整”であった。
“深淵”である【紅灼龍ホムラ】の、本来の魔剣としての姿。
ただの人間では、握るだけで体力・魔力を一瞬で枯渇させてしまう。
ガンテツが施したのは、ディール自身の強化であった。
魔力が乏しい(と思い込んでいる)ディールの魔力増強と、体力の底上げ。
それによって、今まで以上にホムラを振るえるようになったのだ。
“熱纏”などの能力を発しなくても、世界で最も硬い鉱物(以上の鉱物や金属)を切り裂けるほど、ディール自身の剣の腕も上がった。
それが、この世界でどういう位置付けか。
どういう意味を持つのか。
ディールとユウネが知るのは、もっと後のことである。
----
「問題発生です、ディール!」
食事とシャワーを終え、ディールの部屋で“緊急会議”と称してディールに真剣な表情で話す、ユウネ。
ベットに腰掛けるディールの隣に、ボフッと座る。
「ど、どうした?」
「アーカイブリングに収めてあった、あの大量の食材や食糧が、あとわずかです。」
「ええええっ!?」
“土の神殿”に入る前は、二人で消費するには1年+2ヶ月分もあった。
それが、残り1、2週間程の分量となったのだ。
「それってもしかして……」
「ディールもいっぱい食べたけど、犯人はお師匠様よ。」
そう。
食事の際は“たまに同伴させてくれ”と言っていたガンテツであったが、あまりにユウネの作る手料理が美味しかったため、気が付いたら毎食毎食一緒に食べることとなった。
その、食べる量と言ったら!!
さすが“龍神”である。
「出来ればの話だが……フォーミッドへ寄る前にどこか町へ寄らせてもらおう。」
「そうね。さすがに不味いよ、これは。」
逆に、ここで修行を終えることが出来てホッとする二人であった。
ふと、目と目が合うディールとユウネ。
今、ホムラとガンテツは、明日出立するとのことで、二人で色々と話をしている。
つまり、久々の二人きりの状況である。
顔を赤らめ、目を潤ませるユウネ。
ずっと修行でそんな余裕が無かった。
だけど、先ほど修行終了と共に抱き合って喜び合ったディールとユウネ。
久々に触れた、温かな感触。
自然と気持ちが高まる。
「ディール……大好き。」
「……オレも大好きだよ、ユウネ。」
目を閉じるユウネ。
ゴクリ、とディールは唾を飲み込む。
ディールはユウネの首筋を軽く触れて、そのまま唇を重ねた。
ずっと修行に明け暮れ、そんな余裕が無かった。
それを終えた今、“恋人”としての時間が戻った。
久々に唇と唇を重ねる二人。
一度離し、もう一度口付けをする。
舌と舌を絡ませる。
熱い吐息、早くなる鼓動。
ユウネもディールの首に両腕を回し、その唇を激しく貪る。
ディールもまた、ユウネの背中に手を回し、強く優しく抱きしめ、キスをしたままユウネをベッドに優しく押し倒す。
「ディール……。」
「ユウネ……。」
そこにあるのは、本能。
それに従い、二人はさらに互いを貪ろうとしたその時。
『バァンッ!』
「なぁに、やっとるんじゃーーー!?」
轟音と共に、ディールの部屋が豪快に開き、そこから赤髪ツインテールの美少女が青筋を立てて飛び込んできた!
「うわぁ!!」
「キャアア!!」
抱き合いながら盛大に驚くディールとユウネ。
心臓に悪い。
だが、それ以上に。
「…え? ホムラ!?」
「嘘、人の、姿に!?」
ハァハァ、と肩で息をして真っ赤になって青筋を立てるホムラ。
背は小さいながらも、真っ赤なフリフリの可愛らしいワンピースドレスを着た、ホムラ(実体)が立っていた。
「目を離すと! すぐこれだよアンタ達は!! もっとガンテツに痛めつけられれば良かっ」
『ガチャンッ』
―った! って、あーー! ダメだ元に戻ったー!!―
叫ぶホムラが一瞬で鞘に収まる魔剣へと姿を戻し、床に落ちた。
その後ろから笑いながらガンテツがやってきた。
「ふむふむ。およそ2分といったところじゃの。」
「師匠、ホムラは……!」
驚愕するディールに、笑顔で答えるガンテツ。
「ふむ。『紫』の封印のうち、77番まで解除に成功した。ちょこーと無理すれば、2分程度、実体を作り出すことが出来る。まぁ、一度やったらインターバルを数時間必要とするし、燃費も悪いの。残りの封印が解けるのを待つのが得策じゃな。」
―ぐぬぬぬぬ。なんてねちっこい封印なんだ…―
そう言い、フワリと半透明で上半身だけ現すホムラ。
「それにしても本当に仲睦まじいのぉ、お主ら! 龍神たる儂がお主らを祝福してやろう! さぁホムラ、儂らはあっちの部屋で別れを惜しもうぞ。」
ガンテツは浮かび上がるホムラの魔剣を掴み、外へ出ようとした。
『待て待てガンテツ! 待て! 私はここを食い止める使命がぁぁぁ!!』
「邪魔するでないぞ。人間は愛を重ねる尊き存在じゃ。我ら龍神が出歯亀することや邪魔するなど以ての外じゃわい。さぁ、ギリギリまで『紫』の封印について検討しようではないか。」
叫ぶホムラを抱えて部屋を出るガンテツ。
抱き合うような恰好で、それを呆然と見るディールとユウネ。
「……休もう、か。」
「……そう、ね。」
興醒めであった。
大人しく、自分の部屋へ戻るユウネであった。
そして、ガッカリするディール。
二人が愛を重ねる日は、果たして訪れるのだろうか。




