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第48話 碧海龍スイテン

「温泉の、お姉さん……」

「まさか、お嬢さんが “資格者” の恋人で【星の神子】とは夢にも思わなかったわ……」


驚愕するユウネと、胸元がガッツリ開いた麗しい女性。


そう、宿の女湯で出会ったあの “完璧美人” が、まさかの【碧海龍スイテン】だったのだ。


「全然気が付かなかった……」

「たまの湯あみ、それも色んな場所を転々としているんだけど……こんな偶然もあるのねぇ」


そんな二人のやり取りに、呆然とするディール。


「おいおい、顔見知りなのか?」

「ディール、このお姉さんが、のぼせた私を助けてくれた人なの。」


半分信じられないという顔でディールに伝えるユウネだった。

なるほど、ユウネ曰く「すっごい美人さん」がスイテンだったのか、と、とりあえず納得するディール。


「しかしお嬢さんが【星の神子】なんて!!無理無理!資格者一人ならともかく【星の神子】まで居たら勝てっこないじゃん!危うく、“魔星” ぶっ放されるところだったし!」


汗を垂れ流し大声をあげるスイテン。


「“魔星” ?」


確かそれは、ユウネのステータスに刻まれた “極星魔法” だ。

魔力が足りず、使えなかったはずだが。


「そう。極星魔法の “魔星”。あんな長文詠唱で半端ない魔力を込めた “魔星” なんて放たれたら、水の神殿どころかヒルーガが更地になっていたわよ?さすがの私も……無理無理!死ぬって!流石に死ぬって!!」


ゾッとするディールとユウネ。

ユウネはディールを守る一心で、脳裏に焼き付いた詠唱を述べただけだ。

“これを紡げば、この苦境を打破できる” という確信をもとに。

まさか、そんな凶悪な魔法だったとは夢にも思わなかったのだ。


「まぁ……そこまで追い込んだ私が全部悪いんだけどね。」


―そうよ!!この凶悪性悪乳女!あんたが全部悪い!!―


スイテンの言葉に、ホムラが絶叫しながら罵る。

その言葉に顔を真っ赤にさせてスイテンが反論する。


「う、うるさいっ!まさかこんな状況になるなんて思うか!だいたいあんたも何よ!こんな良い男に抜かれるなんて!資格者を顔判定させる機能なんて無かったはずよ!貧乳小娘!」


―だ、誰が貧乳小娘だ!誰が!―


ギャーギャー騒ぐ、ホムラとスイテン。


唖然とするディールとユウネ。


「とりあえずこれで……」

「目的は、達成??」


釈然としない、二人であった。



――――



「改めまして。私がこの場を治める【碧海龍スイテン】です。」


空間の中心に水で出来た椅子とテーブルを作り、そこに腰を掛けるディールとユウネ、対面にはスイテンが座り、その横にホムラが置かれている。

水で出来ているが、一切濡れない。

フワフワとした座り心地。

高価なソファのような感触である。


「そう言えば自己紹介がまだだったな。オレはディール。」

「わ、私はユウネです。」

「資格者のディール君に、【星の神子】ユウネさんね。よろしくお願いします。」


ニコッと笑うスイテンに、少し見惚れるディール。

ムッとしてディールの腕を抓むユウネ。


「いっ……!な、なんだ、ユウネ?」

「別にっ!」


そんな二人のやり取りを見てスイテンがクククと笑う。


「ユウネさん、言ったじゃない。貴女の想い人を奪う真似はしませんよ。」

「お、想い……違いますっ!」


真っ赤になって否定するユウネ。

そんなユウネを見て益々笑顔を綻ばせるスイテン。


「あら、違うの?なら、私がディール君を誘惑してもいいのかしら?』

「え……よ、良くありません!!」


クククと笑いながらユウネを揶揄うスイテンに、


―うぜぇ……―


と心底嫌悪感丸出しで呟くホムラ。


「う、うぜぇとは何よ小娘!」

―言葉通りよ、乳女!―


青筋を立てるスイテンに、剣であるため表情は分からないが、心底嫌そうなホムラ。

はぁ、とため息をついてスイテンは呟く。


「そこまで言うなら、ちょっと貴女の正体を明かしましょうか。そのくらいならOKでしょ?」


そう言い、スイテンはホムラの前に手を掲げる。

すると、椅子の上に置かれたホムラがボォと赤く光り輝き。


『え!?』


そこに、うっすらと半透明の一人の少女が姿を現した。


真っ赤な髪をツインテールに結び、その先端はクルクルと上品に巻かれている。

燃えるような紅い大きな瞳と、その反面、小ぶりながらも整った鼻筋と小さなピンク色の唇がより幼さを際立たせていた。

光沢のある真っ赤なベアトップのワンピースはスカート部分がワイングラスのように花開き、ひらひらのレースが丁寧に織り込まれている。


辺りと、自分の身体をキョロキョロと驚きながら確認する、可愛らしい少女がそこに居た。


「はい、紹介します。ホムラちゃんです。」


スイテンは悪戯が成功したような笑みを浮かべて告げる。

驚愕のあまり口を開く、ディールとユウネ。


「こ、これが、ホムラ!?」

「か、可愛い!!」


ディールは驚きのあまり口をポカーンと開けるが、ユウネはホムラの可憐さに笑顔となる。


『え、これが……私??』


ホムラは自分の身体をキョロキョロと見まわす。


「そうよー。これがホムラの本当の姿。いずれ封印を解いていくと自在にこの姿になれるわよ。貧乳だけど、可愛いのは確かよねぇ。」


厭味ったらしく言うスイテンに、ホムラは青筋を浮かべ叫ぶ。


『何よ!本当は立派な胸があるにも関わらずあえて胸を小さく見せているんでしょ!?栄養が全部おっぱいに行って頭がスッカラカンな性悪スイテンの考えそうなことだことっ!』

「なんだってー!!記憶無くなっているのに相変わらず五月蠅い小娘だな!その姿は、間違いなくあんたの姿形そのもの!!残念だけど貧乳小娘ですよー!」


ギャーギャーとお互いを罵り合うホムラとスイテン。


「話が進まないんだが……。スイテン、あんたに色々聞きたいことがある。」


頭を抱えてディールが呟く。


「はいはいー。私が今教えられることなら、何でも教えちゃうわよー♪」


笑顔でディールに向き合うスイテン。

ぐぃっと寄せる胸の谷間が強調され、ディールは目を逸らす。

そのスイテンの仕草にイライラするホムラとユウネであった。


「まず、何でホムラを封印したんだ?」

「それは秘密です。」


「…ホムラを封印した龍神たちの目的は?」

「秘密です。」


「……“資格者” って一体なんだ?」

「秘密です。」


流石のディールも、額に青筋が立つ。


『全く何の約にも立たないー!意味ないじゃんこの乳女!』


ディールが文句を言う前にホムラが叫ぶ。


「失礼なこと言うな!貧乳!!」

「話が進まないから二人で勝手に会話するのは止めてくれ。」


ディールがホムラとスイテンに釘を刺す。

ショボンとする二人。


「……ホムラも、龍神か?」


核心めいた質問。

薄々、そのような気がしていた。

スイテンは薄く笑い、呟くように答える。


「……正解。」


驚愕するユウネとホムラ。


『私が、龍神!?』

「ディール君は確信しているみたいね。そうよ。あなたは“火の龍神”。その名も【紅灼龍ホムラ】よ」



火の龍神。


その存在は、世界で確認されていない。

伝承で伝え聞くのは、水の龍神、土の龍神、風の龍神、そして光と闇の龍神の5柱。

7属性にそれぞれ龍神が居ると考えるなら、あとは“雷”と“火”が存在することになる。


このうち“雷の龍神”は、神殿は無いが“紫電霊峰”に住んでいるという伝説がある。


残りは“火の龍神”

伝承も、伝説もない謎の龍神。

実在するかどうか?

それが【赤き悪魔】同様、この世界の謎の一つであった。


それがまさか、今まで共にしていたホムラだったとは!



「本当かよ……。」

「ホムラさんが、火の龍神、様」

『ふ、ふふん!そうよ!二人共!私を敬いなさい!』


ホムラが薄い胸板を前に突き出して言う。

その姿にプッと笑うスイテン。


『何が可笑しい!』

「いやだって、その胸……」

「はい、ストップ。」


喧嘩になる前に止めるディール。


“どうして同じ龍神を封じたのか?” という疑問が湧くが、先程の質問を答えなかったことから、教えてはくれないだろう。

ならば、別の質問だ。


「質問を変える。龍神は、全員、魔剣なのか?」

「……それは “違う” と言っておくわね。」

「つまり、魔剣にもなれるということか。」


ニッコリとほほ笑むスイテン。

その笑顔が、全てを物語っている。


「ホムラを魔剣の姿のままで封印したということは、いずれホムラの封印を解いていけば分かるということだな?」

「ええ、そうね。加えて……貴方達、人間が知りたがっているような事も知ることが出来るかもね。」


人間が知りたがっていること。

それに対する心当たりは一つだ。


「……【黒白の剣聖セナ】が持っていた “深淵”、【白の魔剣】と【黒の魔剣】は、光と闇の龍神ってことか。」

「中々聡い子ね。その通りよ。」


ディールの全身に鳥肌が立つ。

伝説の “深淵” は、龍神そのものだったのだ。


「加えて私たち全員、500年前に【聖】の加護を持つ彼らに、力を貸して “奴” を倒したのよ。」


それは、つまり。


「【赤き悪魔】!!」


目の前の女性は、【赤き悪魔】と実際に対峙したと言うのである。


「教えてくれ!!【赤き悪魔】のことを!!」


それは世界最大の謎。

『任侠道』ですらはっきりと分からなかった、世界の敵。


だが、スイテンの目は冷たい。

ため息を一つつき、伝える。


「それも、秘密ね。」

「なぜ……!?」


スイテンはディールの口を手で塞ぎ、あたりを見回す。

そして、ため息をもう一つして、手を離す。


「ディール君、この話はそれ以上踏み込んではいけない事よ?」


真っ直ぐ、真面目にスイテンは伝える。


「なぜ?」

「言えない。けど、これだけは言っておく。知ったら最悪は、“殺される” かもよ?」


誰に? と言おうとしたが、スイテンのあまりに冷たい空気に押され、言葉を失うディールとユウネ。


「……いずれ知ることになるかもよ。ただ、その時はすでに時遅しだけど、ね。」


少し俯いて答えるスイテン。

その身体は震えているようだ。

恐怖? 怒り?


怒り、だ。


「……では、どうしてスイテンさんは “それ” を知っているのに、無事なのですか?」


ユウネが変わって質問をする。

そうだ、知っているなら、スイテンは殺される側ではないのか?


「……詳しくは言えないけど、私たちはいわゆる “例外” だからよ。ただ、もし誰かに教えたり漏らしたりしたら……例え龍神たる私ですら、抗うことすら出来ず消されるわね。」


龍神すら消される、存在。

そんな存在は……。


「ダメよディール君。この話はおしまいよ。」


考えを巡らせる前に、スイテンに窘められた。

詳しく聞きたいが、恐らく、これ以上は口を割らないだろう。

気を取り直して質問を変えるディール。


「さっき、オレの事を“資格者”と言っていたな。ホムラが封印されていた魔窟の部屋の扉、アレにも “資格を確認” とか言われたが、資格とは一体何のことだ?」


【加護無し】である、自分に一体なんの資格があるのか。

何故、自分はホムラを抜けて、その声が聞こえるのか。

仮に自分はホムラの所有者である。

ユウネは、どうしてホムラの声が聞こえるのか。


「資格者だから、ホムラが抜けた……では答えになっていないよね?」


スイテンは相変わらず妖艶な笑顔で話しかける。

少しドキッとするが、隣のユウネとホムラ(本体?)のジト目が怖い。


「そうだな。それは答えになっていない。」

「ディール君、君は ”より……” いえ、【加護無し】でしょ?」


目を見開くディール。

まさか、それが資格なのか?


「【加護無し】が、資格者だというのか?」

「ちょっと違うわね。これは……話してもいいのかな?」


先ほどから会話の節々に、スイテンは言葉を選んでいる様子が伺える。

“話してはいけない話” は、はっきりしているのだろう。

しかし、“話して良いこと” は、“どこまで話すのか” が問題なのだろう。


「【加護無し】って希少レアでしょ?」


世界から、落ちこぼれの烙印の象徴である【加護無し】を希少レア呼ばわりするなんて…と呆れ顔になるディール。

それを察したか、スイテンはニンマリと笑顔を作る。


「実はね【加護無し】はある仕組みがあるの。その仕組みに基いているんだけど……詳しい事は言えないわね。」

「答えに、なってないぞ!」


思わず声を荒げるディール。

この【加護無し】で、ディールは村を追われ、魔窟を文字通り命懸けで脱出したのだ。

結果的には、今、こうしてユウネと出会いこの場に居ることが出来ているが、ほんの些細なタイミングで、簡単に命を散らしていたはずだったのだ。


それを “仕組み” などと、言われたくなかった。


困り顔のスイテン。

言っていいものか、どうなのか、悩んでいるようだ。


「そうね。貴方がそれでどんな目に遭ったか私には想像つかない。だけど、その世界の仕組みと【加護無し】や【加護】の仕組みは、全然別物よ。そもそもこう聞かされているんじゃない? “加護は女神から賜ったものだ” と。」

「ああ。そして【加護無し】は魔神や魔神の眷属だと言う者達に、オレは命を狙われた。」


その言葉にキョトンとするスイテン。


「何それ? 今、そんな事言われているの?」


だが、次の瞬間には、目を見開いて驚きの表情をするスイテンだった。


「なるほど……。そう来たかー。」

「何を一人で納得しているんだ。」


だが、スイテンはブツブツと何かを呟く。

そして、チラッとユウネを見る。


「後でシロナに怒られるかもしれないけど、これだけははっきり伝えておくね。」


スイテンは改めて、ディールとユウネを見つめる。


「“資格者“ とは、男の【加護無し】の事よ。本来、【加護無し】は女性しか生まれないように ”出来ている“ のよ。」


その言葉に、絶句するディールとユウネ。

【加護無し】が、女性だけ…?


「何だその話は? 聞いた事がないぞ。」

「それもそうでしょ。【加護無し】は希少レアで、そんなポンポン生まれても困るからね。」


ただ、と続けるスイテン。


「“資格者” とは、男の【加護無し】である。これは間違いない。もしかすると、この理由もホムラの封印を解いていけば分かるかもね。……【加護無し】は、女からしか生まれない理由も。」


その言葉で少し伏せるスイテン。

ため息を一つつくディール。


「隠し事ばかりで殆ど分からないことだらけだが……。本来ならあり得ない男の【加護無し】が運良く生き残り、ホムラに出会ったのは天文学的奇跡だっていうのは分かった。」


そして、ユウネに出会えたことも。

確かに【加護無し】となり、落ちこぼれた自分は絶望の底に叩きつけられた。

だが、ホムラと出会い、ユウネと出会った。


先の見えない暗闇の中で、光を掴んだのだ。


それを、奇跡と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。


「どの道、あんたに会っただけじゃホムラの封印は全部解けないんだろ?」

「ええ、そうよ。他の連中に会うのも必要だけど……最終的には【黒白の神殿】だね。そこに居る『白』がホムラ封印の首謀者よ。」


ニヤリと笑って告げる、スイテン。

半透明のホムラが立ち上がって告げる。


『とりあえず封印解除が先ね。その『白』とやらをぶっ飛ばして全部元に戻したら、真っ先にアンタのそのけしからん乳をもぎ取りにここへ来てやる!』


その言葉に大笑いするスイテン。


「記憶は無くしても、私のこの素晴らしい胸に対する嫉妬心はそのままだったのね!あー、面白い!」

『なんだとー!この乳女ぁ!!』


「待っているわよ。」


急に、優しい眼差しを向けるスイテン。

うっ……とたじろくホムラ。


「私はここで待っている。ううん。いずれまた会える。その時は……また昔みたいに、いっぱい喧嘩して、いっぱい笑おうね、ホムラ。」


スイテンの目には、涙が溜まる。

そのスイテンの表情を見て、魔法で映し出されているホムラの目にも、涙が。


『え……なによ、これ。何なのよ!きゅ、急に、優しく、言わないでよ!』

「あーあ。これじゃあガンテツの言う通りじゃない。」


ポロポロと涙を零し、笑顔で告げるスイテン。


「次はガンテツのところに行きなさい。あの糞じじぃ、私とアンタが、仲良く姦しいなんて言いやがったからね!ぶっ飛ばしてきてよ!」

『あー、何かそれ、ムカつく!分かったわ、スイテン!』



涙を流しながら、笑顔で約束する二人。

お互い、毛嫌いしているようで、仲の良い親友なのだ。



この二人の間に、いや、龍神達の間に何が起こり、ホムラを封印せざるを得なくなったのか。

それは今はまだ、計り知れない。


だが、仲睦まじく言い争い、涙を流しながら笑顔で罵りあう二人を見て、この場に来られて本当に良かったと実感するディールとユウネであった。

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