第49話 碧海龍からの提案
本日、本編と閑話(21時)の2話を掲載します。
「え、え!?お客さま!?」
水の神殿中心部。本殿。
そこにある“龍穴”に剣を刺した、仲睦まじいハンター二人。
それが、自分の目の前から消えたのだ!
周囲をキョロキョロ見渡す、ガイドの男。
こ、こ、これは!まさか!
伝え聞く選ばれし者だったのか!?
大変だっ!
と叫ぼうとした矢先。
「おっと!」
ハンター二人が、目の前に立っていた。
相変わらず、手を繋ぎ、仲睦まじいハンターの二人。
「え…え…?お客、さま?」
「…どうかしたか?」
消えたと思った、若いハンター二人は平然とそこに立っていた。
…自分は、幻か白昼夢でも見ていたのか?
「い、いえ…なんでもありません。」
ガイドの男は呆然としながら呟く。
ディールとユウネ、そしてホムラは“水の龍神”【碧海龍スイテン】の住処から戻ってきたのだった。
スイテンに会い、いくつか判明したことがある。
そして次の目的地は“土の龍神”こと【金剛龍ガンテツ】が住まう“土の神殿”だ。
今回、スイテンとの邂逅でホムラの封印もいくつか解けた。
何と、半分に当たる【49番】まで封印が解除されたのであった。
それによって思い出したのは、龍神達の名前。
土の龍神【金剛龍ガンテツ】
風の龍神【銀翔龍フウガ】
雷の龍神【紫電龍ライデン】
闇の龍神【黒冥龍アグロ】
龍神達の首魁である、光の龍神【白陽龍シロナ】
封印が解けた際に聞こえたあの女の声。
それが【白陽龍シロナ】の声であったのだ。
ホムラの封印は39番までは全員で、スイテン曰く適当に封印を施した(『適当に封印するな!』とホムラが憤慨したのは言うまでも無い)が、40番台からは、それぞれの龍神が封印を施したとのこと。
40番台は、スイテン。
50番台は、ガンテツ。
60番台は、フウガ。
70番台は、ライデン。
80番台は、アグロ。
そして、90番台が、シロナ。
40番台は、ホムラの持てる魔力そのものの封印であった。
急激に魔力を取り戻したホムラ。
どのくらいの魔力量というと、
『ムカつく話だけど、万全ならあの水のゴーレムも“熱纏”だけで一瞬で蒸発出来るよ』
と、スイテンの談。
だが、その力を十全に使えるようになるためには、まだまだ封印を解く必要があるとのこと。
またもう一つ、スイテンから情報を得られた。
かつて、ホムラが解除した封印【71番】
本来は【紫電龍ライデン】の担当であり、この70番台を全て解除すると、あの可憐なホムラの姿に、自在に変化出来るとのことであった!
だが、ライデンに会う前に、飛び越えて封印が解除された。
これについて大慌てでスイテンは【白陽龍シロナ】に尋ねたところ…。
『シロナ曰く、あの根暗のライデンはどうもホムラを封印することにビビッたらしく、適当な封印を施したようなのよね。』
封印の解除状況は、スイテンが把握する役目。
封印の質やホムラの現状については、シロナの役目。
シロナが調べたところ、30番台まで同様、何かしらの切っ掛けで封印が解けてしまう仕組みになってしまっているとのことであった。
まさに「適当」な仕事の所為であった。
『よほどホムラに会いたくないみたいなのよね、あの根暗野郎。あんた、本当に酷いわねぇ。』
『思い出せないのに、そんな事知るかっ!』
その事実を知らされたホムラは、頭を抱えたくなったのだ。
その証拠に…
―はぁ…昔の私は一体何をしたっていうのさぁ…―
剣に戻ったが、龍神達に寄って集って封印を施されたこと、特に【紫電龍ライデン】が明らかにホムラを恐れ、避けようとしているということに頭を痛めるのであった。
さらにスイテン曰く『ライデンが引きこもっているのは、だいたいあんたの所為』という真偽不明の情報の所為で、若干自己嫌悪にすら陥っているのだ。
「まぁいいじゃないか。そのうち思い出すだろう。」
―それで…私が本当に酷い事していたら…ディールもユウネも幻滅する?―
「内容によるな。」
ディールの答えに、またまた、はぁ、とため息をつく。
「もしかすると、以前、ホムラさんに恋をして玉砕したのが悲しくて引きこもっちゃっているとか?」
すっかり恋愛脳が芽生えたユウネが呟く。
その言葉に大慌てで否定する、ホムラ。
―そんな訳ないじゃない!―
「え、でも分かりませんよ?だってホムラさん、すっごく可愛かったし…」
そのユウネの言葉に、デヘヘと照れるホムラ。
単純なところは、相変わらずであった。
――――
「さて、2日で目的を達成してしまったが…残り2泊もある。どうするユウネ?」
高級宿に戻り、部屋で紅茶を飲みながら相談する二人。
せっかくの温泉郷、ゆっくりしたいと思うディールとユウネであるが…
―私は早く、ガンテツの糞じじぃのところに行って鉄拳制裁したいな!―
早々と封印を解きたいと考えるホムラ。
『ライデンに何をしたんだろう?』という恐怖と好奇心もあり、その気持ちが更に高まったのだ。
「私は…せっかくの温泉郷だし…もうちょっとゆっくりしたいなぁ…」
聞いたところによると、50種類の浴衣はどんどん着替えてもOKとの事。
気になる柄はまだまだあるし、色々試したいとも思うユウネであった。
そんな浴衣を着て、ディールと二人で町を練り歩くのもいいな…と顔を赤らめて考えるユウネ。
「そうだな…日帰り温泉もあるみたいだし、せっかくの機会だからオレもゆっくりしたいな。あの水ゴーレムに食らったダメージも癒したい。」
―ええー!それ、ユウネの魔法で完治したんじゃないの!?―
完治している。
だが、温泉郷に滞在したいディールはあえて冗談を言う。
「いやいや、あれだけ血を吐き出した攻撃だぞ。まだ全身痛むなぁ。これも全部ホムラのために…。」
グッ…と言葉を詰まらせるホムラ。
だが、冗談を冗談だと気付かない娘がもう一人いるのだ。
「ディ、ディール!?まだ痛むの!?もう一度魔法掛けるね!!」
真剣に、泣きそうな顔でディールに迫るユウネ。
流石にこれはバツが悪い!
「お、落ち着けユウネ!冗談だ冗談!」
ホッとするユウネだが…
―嘘なんかいっ!―
ホムラの突っ込みが盛大に響くのだった。
――――
「はぁ、気持ちいい~」
再度、高級宿の女湯。
昨日の寝不足に加え、スイテンとの邂逅と、色々あったため今日のところは宿でゆっくり休み、明日と明後日はヒルーガの街並みを探索しようという話となった。
結局、宿泊を続けることで決定したのだ。
決め手は、なんとスイテン本人からの申し出。
部屋でうんうん悩んでいたところ、何と、スイテンが部屋のかけ流し湯から現れたのだ!
真っ裸で、豊満な胸が風呂の淵からこぼれ落ちそうになりそうになりながら、
「楽しそうねぇ~」
と語りかけてきた。
あまりの突然のことに驚愕するディールとユウネとホムラ。
目の前の完璧美人のスイテンが、まさかの生まれたままの姿であったため、ユウネは大慌てでディールの顔に飛びついて目を隠すのであった。
「ちょ、ちょっと!スイテンさん!?どどどどどうして!?」
顔を真っ赤にして叫ぶユウネ。
「あら?昨日温泉で会ったじゃない。このヒルーガの温泉や水の中を伝って、私はどこでも移動できるわよ。それでたまにこっそりと温泉に入っているって」ー。」
ケラケラ笑うスイテン。
どうやら、そういう魔法のようだ。
―ちょっと!さっきあれだけ感動の別れを終えたというのに、台無しじゃない!―
叫ぶホムラに、ふふん、と笑うスイテン。
「ドッキリ、成功ってねー。ホムラったら柄にもなく、涙なんか流して…可愛かったー♪」
その言葉にホムラは爆発する。
―そうだった!あんた、そういうヤツだった!!性悪乳女め!―
「あはははは!まぁ、あのタイミングで別れないと、私の空間はちょっと異常な魔力と魔素に満ちているから、ディール君とユウネさんがあのまま居残っちゃうと身体が溶けちゃうかもだったからねー」
明らかになる、驚愕の事実。
「そ、そうなのか!?」
ユウネに顔を塞がれながら、ディールが叫ぶ。
「そうよー。だから割と無理矢理に打ち切ったのよ。あ、でも安心して。私のところだけだから。ガンテツやシロナのところはたぶん大丈夫よー。」
笑いながら告げるスイテン。
さてと、と本題に入る。
「ここに来たのは、ホムラを誘いに来たのよ。」
―え、私ぃ?―
「まぁまぁ、そんな嫌そうな声出さないで。シロナとの会話で、ライデンの根暗野郎が適当な封印をしたって話をしたでしょ?もしかすると、私でもいくつか解けると思って。」
まさかの提案。
ディールもユウネも驚愕する。
「え、それって、いいのか?」
「たぶんいいのよー。まぁ、全部は無理でも、自力で解除できる切っ掛けにはなるかもしれないしね。ホムラも早く身体を取り戻して、ディール君やユウネさんのように温泉に浸かったり美味しい物食べたり、可愛い服着たりしたいでしょ?」
―したい!!!―
ホムラの、心の底からの願望であった。
その言葉に満足そうに頷くスイテン。
「じゃあ、ちょっと私に付き合ってよ。1日、2日ってところでディール君に返すから。」
―分かった!よろしく、スイテン!―
「あら?そこは“麗しいスイテン様、この貧乳めをお導きくださいませ”じゃないの?」
―うっさいわっ!さっさと連れていけ乳女!!―
「それが人に物を頼む態度なのー!?」
相変わらず、ギャーギャーと騒ぐホムラとスイテンであった。
根本で仲が良いのは確かだろうが、顔を合わすと罵りあわずにはいられないのだろう。
「じゃ、ディール君、ユウネさん。ホムラ借りるね!」
そう言い、ザバッとお風呂から出るスイテン。
もちろん、全裸である。
その堂々としたスタイルに、ユウネは目を丸くして顔を真っ赤にする!
「え、え、ユウネ!?今どういう状況だ!?」
見たい!けど見せてくれない!
そんな男の性が、ユウネによって阻まれるのだった。
スイテンはニンマリと笑い、ユウネに耳打ちをする。
(しばらくディール君と二人きりになるんだから、積極的に、ね!)
ボフン!
頭から湯気を噴き出して真っ赤に染まるユウネ。
スイテンは、ディールの腰のホムラに触ると、シュン!と一瞬でホムラと共に消えた。
「ぶはぁ!!」
やっと解放されたディール。
辺りを見回すと、すでにスイテン(全裸)は居ない。
ちょっとガッカリするディールであった。
ふと見ると、隣には顔を真っ赤にさせるユウネ。
「ユウネ、大丈夫か?」
「う、うん…。」
スイテンに何を言われたのだろうか?
いずれにせよ、このヒルーガに滞在する理由が出来たディールとユウネであった。
そして、現在の女湯内。
口をお湯に漬け、ブクブクと泡を吐きだすユウネがいた。
心臓は、さっきからバクバクと大きな鼓動を立てている。
初めてだ。
初めて、本当の意味でディールと二人きりになったのだ。
部屋は、仕切りがあるとはいえ、一つ。
思い出される、サスマン市での宿での一件。
もしかすると、あの続きが…?
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!
興奮と胸の高鳴りが、収まる気配がない。
死んでしまうかもしれない!
どうしよう!!!
―――
「…どうしよう。」
男湯。
同じような考えを巡らせるディールであった。
いつも一緒だったホムラが手元にいない。
少し寂しく、心細い気もする。
しかしそれ以上に、心が騒ぐ。
今夜と明日、ユウネと二人きりだ。
サスマン市での一件。
あれは“失態”だった。
しかし、あの時の、ユウネの表情。
もしかすると、そういうことなのかもしれない。
不安と期待。
理性と、邪な欲求の狭間。
大きな鼓動は、止まる気配がない。
ディールもまた、悶え苦しむのであった。




