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第40話 初めて

国境町メイスに到着して二日目の朝。

貴族御用達の豪華な宿で久々にゆっくり休むことが出来たディールとユウネ達。


高価な調度品が溢れる寝室。

絵物語でしか見聞きしない、獅子の顔から贅沢にお湯が流れ出る巨大風呂。


風呂の外には湯休め処もあり、果実酒が振舞われた。

そして夕食は普段食べるような干し肉とは比べ物にならないほど分厚く柔らかな牛肉に、宝石のようなサラダなど、贅を尽くしたような一夜だった。


そんな真夜中。

時々、ホムラが


-あー…うるさい…この声はセイリーンね…何、苦しそうにウェルターの名前叫んでるのよ-


-なによ…サティとピピンっていつの間に…うわぁ、今、チューした…-


-ちゃっかり嫁を呼んでるんじゃないよガザンのハゲ親父…-


と呟いていたが、ディールはとりあえず無視をした。


封印がいくつも開放され能力が向上したホムラ。

ある一定の範囲内なら、誰が、何をしているのか察知ができるようになったのだ。

そのせいで、要らない情報がディールに伝わるのだ。




「あまり眠れなかったの、ディール?」


心配そうに尋ねるユウネ。


「いや…途中から爆睡できたから大丈夫。」

「途中から?」

「何でもない…」


「?」という顔をして首を傾げるユウネ。

その表情、艶のある唇、豊かに実る胸元。

思わず目線を晒すディール。


もしユウネと同室だったら…!

一瞬、邪な考えがよぎったがすぐ霧散させるディールであった。


朝食を摂るためダイニングに行くと、ソマリと御者ベッツ、”銀の絆”のウェルター妹、メイリが座って食事を摂っていた。

ソマリの後ろには執事バゼットが立ち、あれこれとソマリの世話をしていた。


「おはようございます。」

「おはようございます、ディール様、ユウネ様」


ユウネが真っ先に挨拶をすると、バゼットが返事を返し、ぱらぱらと各々が挨拶をする。


「他の皆さんは?」


ユウネが尋ねると、メイリはハハッと半笑いで答える。


「ユウネちゃんやソマリお嬢様には刺激が強いかもだけどー…」

「おやめなさい、メイリ殿」


バゼットがピシャリとメイリを止める。

「はいはい」とメイリは言うのを止めて、食事に戻る。


「え、何??」


ユウネは再度首を傾げるが、ソマリは顔を真っ赤にさせてプルプルと震える。


「はしたない、です。」

「お嬢様、お食事の最中です。」


ソマリの呟きを、これまたバゼットが諌める。

ゴホン、と一つ咳払いしてディールはユウネの肩をポンと叩く。


「気にするな。とりあえずオレ達もいただこう。」


そう言って、ディールは席を引いてユウネに座るように促す。


「あ、ありがとう、ディール。」


顔を赤らめて座るユウネ。

その隣に座る、ディール。



「皆さんは今日は何をなさるです?」


食事を摂りながら、ソマリが尋ねてくる。

真っ先に答えたのは、メイリ。


「私は色々とムカついているから、ギルドのメイス支部に行って若い男を引っ掛けてくるわ。」


ブボッと噴出しそうになる、ディール。

彼女も年頃の女性である。

ピピンの気持ちには気付いてなかったが、パーティーの中で独り身は彼女だけになってしまったのだ。


「メイリ殿!」

「大丈夫よバゼットさん、一夜限りだから明日には帰ってくるし、ね!」


何も大丈夫ではない。

真っ赤になって俯くソマリ。

ワナワナ震えるバゼット。


「え、どういうこと…?」


相変わらず理解していないユウネ。


「ディ、ディール様とユウネ様はいかがなさいますか?」

「う、うーん…何も考えていないな。」


バゼットの問いに、空気を換えようとディールが答える。

正直、何も考えてはいない。

ストレージバックやアーカイブリング内へ食糧や食材を追加したり、ボロボロになった衣服類を新調するくらいか?とディールは考えた。

そこに茶々を入れる、メイリ。


「何も考えていないの?良い男が、せっかく良い女を連れているんだ。初めてなんだろこの町は。だったら探索と買出しついでに、デートでもしてきなよ!」


デート。

まさかの提案に、ディールもユウネも顔を真っ赤にする。


「だからオレ達はそういう関係じゃないって!」

「いやいや?別にそういう関係だろうと無かろうと、二人はパーティーなんだろ?旅の仕度品の購入や追加はパーティーの役目だし、それに初めての町ならどこになにがあるか分からないだろ?バラバラで闇雲に動くより一緒に動いたほうがいいだろ。」


メイリの言う事も一理ある。

さらに…と続けるメイリ。


「この町はラーカル町より小さな町だが、人通りも多く貴族もよく訪れる。そのため貴族御用達の店も多い。その中には旨いケーキと紅茶を出す店があるんだが…」

「ケーキと…紅茶!」


メイリの言葉にユウネが反応する。

この宿に泊まり、生まれて初めて食べる豪華なケーキと貴族御用達の紅茶にすっかり夢中になったユウネである。

今まで、贅沢など殆どしたことが無く、お金の使い方もシビアなユウネであるが、初めて興味を引く物が出来たのだ。


「そうだなー。二人がそんなハンターの格好じゃなく、ソマリお嬢様みたいな可愛い格好やそれをエスコートする殿方の格好で町に繰り出すって言うなら…教えてやらんこともないな。」


ニヤニヤ笑うメイリ。


「お召し物なら、すぐにご用意いたしましょう。」


即座に反応するバゼット。

その二人の言葉に顔を真っ赤にしてアワワワワと慌てるユウネ。

追い討ちをかけるように、今まで黙っていた御者ベッツも口を開く。


「メイリ殿がおっしゃるケーキのお店ってあの有名店ですな。あそこのフルーツタルトは確かに絶品ですね。私の妻もあの味に惚れ込んで、メジック家のパティシエとして日夜あの味の再現に心血を注いでおりますよ。」


貴族家に仕えるパティシエが惚れ込むフルーツタルト。

その事実に、もはや、ユウネの答えは一つだった。


「ソマリお嬢様、バゼットさん、よろしくお願いします!メイリさん、ベッツさん、そのお店、教えてください!!」

「まだ半分よー。ディール君はどうするのー?」


ギラリ!

眼が輝きを放ちながらディールを見るユウネ。


もう、言葉は一つしかない。


「はい…。お願いします、皆さん。」


ディールとユウネのデートが決定した瞬間であった。


----


「うおっ!!何だその格好は、ディール!」


朝食を終えて、宿のロビー。

ようやく起きてきたウェルターと、ウェルターと腕を組むセイリーンに目撃された。


ディールは、バゼットが見繕った『貴族の娘をエスコートしてもおかしくない服装』に着替え終わり、ユウネを待っていたのだ。

ムスッとした顔のディール。


「何か…悪いかよ…」


黒と白のジャケットに、皺一つない黒のスラックス。

白のシャツには金色の刺繍が施されている。

傍から見ると、完全に貴族の青年である。


「いや…見違えたわ…。お前さん、ホント良い男だと思っていたけど…。悔しいけど似合うな。」

「本当!すっごく格好いいですよ、ディール君。これからユウネちゃんとデート?」


セイリーンの言葉に「うぐっ」と言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にするディール。

ははぁ…とニヤける、ウェルターとセイリーン。


「いいじゃないー。ユウネちゃんも素敵なお召し物をしてくるのかしら?楽しみですね!」

「いいから!早く食事に行けよ!」


真っ赤になって二人をダイニングに押しやろうとした、その時。


「お、お待たせ…ディール…」


奥の部屋から、ユウネが来た。

ユウネを見るや否や、全員、言葉を無くした。


薄茶の長い髪は、華の形に施された銀の髪留めで上品に纏め上げ、薄紅のワンピースドレスはふわりと柔らかな膝下スカート、豊かな胸元が強調されないよう白のカーディガンを纏い、上品な白のヒールを履いている。

ユウネの顔は薄く化粧が乗り、ふっくらとした唇には淡いピンクの紅が塗られている。

青い大きな瞳とのコントラストが、絶妙にマッチしてた。


「ど、どうかな?」


恥ずかしそうに、上目遣いでディールに尋ねるユウネ。

ディールは顔を真っ赤にして「あ、ああ。似合っているんじゃない?」と答えるのに精一杯だった。


「どうです!綺麗です!レリック家の名に懸けて一生懸命やったです!」


無い胸を張り、エヘン!と言うソマリ。

それに歓喜の声を上げるセイリーン。


「凄い凄い!凄い綺麗ですよ、ユウネさん!さすがソマリお嬢様ですね!」


キャーキャー言ってソマリと一緒にユウネのあちこちを見まくる、セイリーン。


そんな女性陣を呆然と見る、ディールとウェルター。

ふいに、ウェルターがディールの頭を軽く叩いた。


「いてっ!何するウェルター!?」

「いや、何となく…爆発しろこの野郎。」

「何となくで結構酷いな!?ウェルターにもセイリーンがいるだろ!」


ふいに思い起こされる、昨夜のホムラの呟き。

顔を真っ赤にして伏すディール。


そんなディールの目の前に、ちょこんと立つユウネ。


「え、えへへ。こんな格好初めてだよ。」

「あ、ああ…オレもだ…」


照れあう二人。

目を逸らし、ユウネは顔を伏せて言う。


「ディ、ディールも…その…。す、す、凄くカッコいいよ…」

「あ、ありがとう…ユウネもその、可愛いよ。」


ボンッ!という音がするんじゃないかというくらい、真っ赤になる二人。

それをニヤニヤと笑いながら見守る面々。


「さぁ、早く町に繰り出すです!」

「楽しんできてくださいねー。」


ソマリとセイリーンに押し出され、外に出るディールとユウネ。

そんな二人に、ウェルターが大声で告げる。


「おい、ディール!ユウネ!」

「な、なんだよ!」


ウェルターはグッとサムズアップする。


「今夜、帰ってこなくていいからな!」

「うるさいわ!!」


----


国境町メイス。

町の規模はラーカル町の三分の二といったところだが、ガルランド公爵国とラーグ公爵国との境とのこともあり、物流の基点地でもあるため町には活気があり、また珍しい物も多く扱われている。

まだ朝早いが、人通りも多く、店も多く開いており、旅人やハンター、傭兵や商人が物色している姿が見られる。


そんな中。


「お、おい見ろよ!あの子…どこのお嬢様だ?」

「すっげぇ…美人…」

「一緒にいる方も素敵…どこの貴族様かしら…」

「絵に描いたような美男美女…いいわぁ」


着飾ったディールとユウネは町行く人々の格好の見世物となっていた。

ユウネに見とれ、壁や人にぶつかる男が多数。

それに憤慨した女性に蹴られる男も、多数。

キャッキャッと言いながら遠巻きからディールの後を付ける、女がちらほら。


要するに、目立っていたのだ。


「人が増えてきたな…」

「う、うん…」


二人ははぐれないように傍で歩いている。

だが、傍からみるとぎこちなく初々しさ全開であり、それも相俟って人々の暖かい目線を貰うのであった。


-あー、あー、いいな二人は!私も人間ならめっちゃ美人だろうに!-


ホムラが不満満載という声で告げる。


「で、でもホムラさんはいつも綺麗だし、その、鞘も赤いお花とか細工が凄く可愛くて、いつも羨ましいですよ!」


-ふーんだ!今のユウネに言われても嬉しくないよーだ!-


「拗ねてるな…」


-拗ねてなんかないし!-


呆れるディール。

ユウネは、思い切って聞いてみた。


「ねぇホムラさん、今日の私…どうでしょうか。」


黙るホムラ。

なにやら唸っているようだ。


「おい、ホムラ…」

「ホムラさん…」


-あー!もうー!めっちゃムカつくけど!今日のユウネ、綺麗よ!素敵よ!可愛いわよ!-


初めて、観念した魔剣であった。

ふふふ、とユウネは笑って答える。


「ありがとう、ホムラさん。大好き!」


-ユウネになんか好かれたって、嬉しくなんて無いんだからね!-



しばらく二人は歩いた。

さすが物流の交差点。

日が昇るにつれて人の流れが激しくなってきた。


「おっと、失礼!」

「きゃ、ごめんなさい!」


大通りで人とぶつかることもしばしば。

このままでは、逸れる可能性もある。


そんな二人に、ホムラは嫌々しく、呟いた。


-手、繋ぎなさいよ。あんた達-


その言葉に顔を真っ赤にさせるディールとユウネ。

ディールはユウネの目を見つめるも、躊躇する。

ユウネも顔を赤らめ俯くが…、顔を上げ、手を差し出す。


「ディール…よ、よろしくね…」


心が跳ね上がる。

こういう時、どうしたら良いのか!?

ディールは一瞬の迷いの中、意を決した。


「離れるなよ、ユウネ。」


少し微笑み、ユウネの手を取るディール。



二人は顔を赤くしながら、手を繋いで歩く。

格好は貴族っぽいが、どこか初々しく、ぎこちない二人。

道行く人も、にこやかに二人を見送る。




『離れるなよ、ユウネ。』


その言葉が、ユウネの脳裏に焼きついた。


思わず、握る手をギュッとする。

すると、ディールも同じように手を握り返してくれる。


チラリとディールを見る。

ディールは真っ直ぐ前を見て歩く。


「うん。ずっと…ずっと、離さないでね。」


ユウネの呟き。

ディールには聞こえていないのか。

ただ、ずっと真っ直ぐ前を見ている。



温かで、大きなディールの手に包まれるユウネの手。

高鳴る心臓の音は、この手を通して聞こえていないでしょうか。



この日、はっきりしました。



村長。

司祭様。

村の皆。



私ね、初めて、

好きな人が出来ました。

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