番外編 琢磨様のおしおき
初めて10,000PVを頂いたので、記念に番外編を書きました。
たくさんの方に読んで頂けたことを感謝してます。
少しでも楽しんでいただけますように!
「百合亜、これはどういうことかな?」
私に向けられる、とても素敵な琢磨様の笑顔。でも今は目が笑ってない! あれは絶対怒ってる……!!
そもそも私がこんなことをしてるのは琢磨様のせいなのだ。
た、たぶん。きっと。断じて私のせいではない、はず。
今朝、琢磨様はヒロインよりも私を選んでくれた。
その時の私は、琢磨様に好きだと言ってもらえたことが嬉しかった。琢磨様と一緒にいられるかもしれない。少なくとも、後一年は一緒にいられる!
私は琢磨様の傍にいられることをとても喜んだ。
その時の私は気持ちが通じあったことに舞い上がっていた。
なので、すっかり忘れていたのだ。琢磨様が、私に『おしおき』をすると言っていたことを……!!
帰りのホームルームが始まる頃『あれ?そういえば、さっき琢磨様が何か言っていたかもしれない』と、その事を思い出した私はとても焦っていた。
お父様に急いで電話をして、帰りの車を用意してもらった私は、その車の中でお父様に相談をしてしまった。
よりにもよって、お父様に……だ!
さすがに全部は言えなかったので、琢磨様から逃げたいんです。と言ったと思う。
繰り返し言うが、私は焦っていたのだ。
相談する人を間違えた、なんて気づくはずがなかった――と言い訳をしておきたい。
私を心配したお父様から提案されたのが、その名も『バリケード作戦』だ。
部屋の扉の前に、物をたくさん置いて外から開けられなくするこの作戦は、以前お父様と一緒に見たドラマで、主人公が使っていた方法なのだ。
この作戦だったら大丈夫かもしれない。そう思った私とお父様は、ハイタッチして喜んだ。
でも、私もお父様も失念していたのだ。
私の部屋の扉が引き戸だということを……。
さっき、お父様は部屋から出たときに気づいたはず!!
お、お父様……言ってくれればよかったのに……!!
そして今、琢磨様は難なく扉を開けて、私は絶体絶命といった状況なのだ。
「百合亜。一緒に片付けてあげるから、早くこっちへおいで」
琢磨様が笑って、私とお父様がぐちゃぐちゃに置いた本のタワーやらクッションやらを片付けてくれる。
あれ? もしかして、そんなに怒ってないのかも?
そう思った私は、笑顔の琢磨様にふらふらと近寄っていってしまった。
「百合亜……やっと来たね。一緒に帰ろうと思って百合亜を迎えに行ったのに、教室にいなかったから……心配したんだよ?」
「琢磨様……ご心配をおかけしてすみません……」
クラスが分かれてしまった私を、琢磨様は迎えに来てくれたようだった。悪かったなと思い、素直に謝った私を抱きしめて、琢磨様がにこにこと笑っている。
「大丈夫だよ。さあ、百合亜を捕まえたし始めようか?」
「え? 何をですか?」
「忘れちゃったの? おしおきだよ。百合亜が一緒に帰ってくれれば何もしなかったのに。先に帰った百合亜がいけないんだよ?」
う、嘘でしょ……。お父様への電話が裏目に出るなんて。
「そこへ座ろうか」
私を抱き上げて、琢磨様は近くのソファに座る。その体勢のまま琢磨様が座ると、私は琢磨様の膝に座るようになってしまう。
それはすごく恥ずかしい体勢だった。
琢磨様の顔がいつもよりも近くて胸が苦しい。綺麗な青い瞳で見つめられると、身体の芯が熱くなる。
「お仕置きは何にしようか?」
「そ、そんな……おしおきだなんて嫌です」
「でも、可愛い嫉妬をした罰と、先に帰った罰を与えないとね」
そう言って、琢磨様は私の顔に手を添えて親指で唇をなぞる。
「ねぇ、百合亜。百合亜の唇を食べてもいいかな?」
た、食べる!? 食べるなんてそんな……!!
初めてのキスもまだなのに……!?
い、いやいや! そんなの無理!
私がいやいやと首を振ると琢磨様は「冗談だよ。言ってみただけ」と、くすくす笑っている。
「百合亜のことが大好きだから、おしおきでキスなんてしないよ。だから、今はこれだけ」
そう言った、琢磨様の唇が私の首筋に触れる。その瞬間、軽い痛みが私を襲った。
一瞬戸惑ったが、何をされたか理解した私の身体が、徐々に熱くなっていく。
「百合亜が俺のものだっていう印、ね」
その言葉が恥ずかしくて、琢磨様をちらりとしか見られなかったけど、琢磨様の頬も耳も赤くなっていた気がする。
私も恥ずかしいけど、琢磨様も恥ずかしいのかもしれない。そう思うとちょっとだけ安心した。
「これからも二人の思い出を作っていこう。今までみたいに、これからもずっと」
「……はい、琢磨様」
こうして、心配していた琢磨様からの『おしおき』は、幸せに包まれて終わった。
琢磨様が帰った後、『琢磨様の印』を鏡で見た私が「こ、これが噂の!?」と一人で悶絶していたのは、誰にも言えない秘密である。
ハロウィンお祝いです(*'▽'*)
短いので内緒でアップしました。
☆☆☆
「百合亜、トリックオアトリート」
「え、琢磨様?」
「お菓子くれないと悪戯するよ?」
小首を傾げる琢磨様の悪戯顔に、私の顔が熱くなる。
ちょ、その顔反則です! 可愛すぎる!
顔が熱い。火が出そう。
いや、出る! もうすぐ出せる!
「百合亜、そんなに可愛い顔しないで。我慢できない」
「あ、琢磨様」
「お菓子がないなら、唇をもらおうか。前は食べさせてもらえなかったからね」
「だ、だめです。琢磨様」
「しー……。ほら、黙って?」
「んぅ」
琢磨様は飴を私の口に入れる。
「食べさせて? 百合亜……」
無理、無理無理! 絶対無理!
慌てて琢磨様から顔を逸らして、飴を飲み込む。
く、苦しい! 飴が! 飴が詰まった!!
涙目であわあわしてる私に琢磨様が水をくれる。
「……ありがとうございます、琢磨様」
「冗談なのに……百合亜は本当に可愛いね」
「ううぅ……」
「しょうがないな。また今度食べさせてもらうよ」
そう言って琢磨様は笑うのだった。




