第1話 うちの弟、チート級なんですっ!…私と違って。
※幸せの条件 -あなたと、生きていくために- の続編です。
※前作があまりにも暗くて救いがなさ過ぎたので、今作は明るい文体を目指します。
※前作を読んでいなくても大丈夫です。
弟のタイチの入学前から、アカデミーは既にタイチの噂で持ちきりだった。
<とにかく、レベチで強い攻撃者らしいぞ。何でも、9歳で既に特殊任務にも同行してるとか…>
<えっ!?やば…それ、もはやアカデミー入学する意味あんの???>
<技術的なことっていうよりは、一般常識でも学ぶんじゃない?アザイ家次期当主なんでしょ?>
<え?次期当主って、サチなんじゃないの?>
<ばっかお前、アザイ家当主は代々男だろ。ってか性別以前に、サチじゃ当主は無理だろ…>
ぷしゅっ。
「……悪かったわねぇ。どーせ私は、落ちこぼれですよ…。」
サチは、手にしていた紙パックのジュースをわなわなと握りつぶしていた。中身がストローから噴水のように飛び出す。
「さ、サチ。落ち着けって…」
同級生のアラタが宥める。
「そ、そうそう!アザイ家の当主なんて、メチャ大変そうじゃんっ!!弟に体よく押し付けちゃった方がいいって!」
もう1人の同級生、マリもサチを励ます。
ここは、国立能力開発アカデミーの第3学年の教室。
世の中の0.0002%の人間だけが持つ、通常のヒトの能力を超えた特殊能力。古には妖や魔法、呪術と称された類の力であり、現代でもわずかながらその力を発現する者が存在する(いわゆる、超能力者と呼ばれている者達だ)。稀少な存在であり、しかも国家の軍事力に直結するため、それらの能力者は国から厳重に秘匿され、保護され、管理されている。
そしてここ、本州のちょうど真ん中あたりに、人目を憚るようにひっそりと佇む国立能力開発アカデミーには、9歳から18歳までの特殊能力を持った子供達が在籍している。
1学年多くても3-4人程度、全体で30人程度の、ごく小規模な全寮制の学校。学校と言うよりは、『国の士官養成学校』の方が近い。ただしその存在は、一般には全く知られていない。能力者以外では存在を知る者はごく一部に限られ、国家権力の中枢がアカデミーを直接管轄・統制していた。
生徒それぞれの能力に応じて、指導教官が個別に訓練を行い能力を引き上げ、卒業後にはその能力を活かして国の安全保障に関するあらゆる特殊任務に派遣される。具体的には、大規模災害や凶悪犯罪、テロ、他国からの攻撃、暗号解読や危機予知など。危険な仕事ゆえ、給料もそれなりに高い。
アカデミーの校長は、サチの祖父のゲンドウだ。アザイ家の前当主で、齢60歳を超えているが見た目は若々しく、今だに現役。ただ、若かった時よりは流石に、アタッカーとしての力は衰えているらしい(サチから見れば、それでも十分強すぎだが)。
今のアザイ家当主は、サチの父親のタケルだ。タケルは現在、国家公安警察の特殊部隊のトップを勤めており、超多忙を極めている。サチがアカデミーに入学してからは、父親と顔を合わせるのは年に両手で数えられる程だった。
ちなみにアタッカーとは、自身の生命エネルギーの一部を具現化させて物理的攻撃を可能にさせ、それを自在に操って攻撃を繰り出す前衛タイプ。戦闘における、いわゆる花形だ。ゲンドウ、タケル、タイチと、アザイ家の本家筋の男子は、みんなこの能力者だった。
「だってさぁ、アザイ家って、ガチのスーパーエリート一族じゃん。その当主って言ったら、超厳しい人じゃなきゃみんな言うこと聞かなくない?…もっとも、サチ見てると、アザイ家とは??ってなるけど…(ぼそっ)」
「マリ。最後の一言、余計だから…。てか、当主だからって別にすごい厳しい人って訳じゃないよ。お父さんは、優しいもん。」
「ええ?サチのお父さんって、国家公安の幹部のタケル・アザイだろ?すげー強いって噂の…。」
「いや、実際すげー強いのよ、お父さんは。でも普段は、私達には優しい。…いっつも、疲れた顔してるけど。」
サチは、今年の正月休みに帰省した際に顔を合わせた父親の表情を思い出しながら、言った。
「私、サチのパパ1回見かけたことある!前何かの用事で、校長先生に会いにアカデミーに来たことあったよね。噂通り、超絶イケメン!!だった!!」
マリは両手を頬に当てて、うっとりと言った。
「マリ。ちなみに1つ言っとくとね…
弟のタイチは、お父さんそっくりです。外見も能力も。」
「……まじ?」
こくり、と、神妙な顔つきでサチが頷く。
「ねぇ、サチ。…私達、友達だよね?
タイチ君に、年上の女性はアリかどうか、聞いてきてくれるかな?」
「……私、マリのお義姉さんには、なりたくないんデスが。」
第3学年のサチ、アラタ、マリの3人は、入学からずっと変わらないメンバーで、妙に気が合い日々和気藹々と過ごしていた。
マリは代々『超感覚的知覚』の能力者を輩出するタケモト家の長女で、マリ自身は『念動力者』だ。黒髪ストレートのボブで、ミーハーな性格。5歳年上に兄がいて、同じくアカデミーの第8学年に所属している。タケモト家もそこそこ有名な一族だが、「アザイ家に比べたらウチなんて…!」といつも謙遜している。
アラタはこのアカデミーでは珍しく、非能力者の両親から産まれた突然変異で、『念視』の能力を持つ。7歳頃から能力が発現し、報告を受けたゲンドウがスカウトしてきて、サチ達と同じタイミングで入学した。くしゃくしゃの天然パーマで、最近成長期に入ったらしく、サチやマリより頭1つ背が高い。
サチは、先程からいじられている通り、スーパーエリート異能一族のアザイ家本家筋の長女でありながら、その片鱗が全く見えない"落ちこぼれ"だった。能力は『予知能力』だが、そもそもアザイ家には予知能力者はほとんどいないらしく、その点でもサチは異端だった。見た目も父親とはあまり似ておらず、ずっと母親似だと評されてきた。少し赤みがかった、肩まで伸びたくせ毛の髪を、いつも無造作に後ろで1つにくくっている。
サチは、タイチが初めてアタッカーの能力を発現した時のことを、今でもよく覚えている。
あれは、タイチが2歳の時。
その日は大雪が降って、庭に雪が積もっていた。
サチとタイチは2人で雪合戦を始めた。徐々にエスカレートしていって、タイチが容赦なく大きな雪玉を投げつけてきたので、サチも対抗して大きな雪玉をタイチに向かって投げた。
と。
興奮したタイチの手から、雪玉ではない、野球ボールくらいの大きさのエネルギー弾が出現した。
あれ、お父さんが出すやつに似てるなぁ、とサチがぼんやり思った次の瞬間、タイチがそのエネルギー弾をサチ目がけて投げつけてきた。(本人は、雪玉を投げたつもりだったらしい。後日談。)
何にせよ、無防備な状態でいきなりエネルギー弾を喰らったサチは、その場倒れて気を失ってしまった。
目が覚めたサチに、タイチは泣きながら『おねえちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい』と何度も謝った。タイチは突然発現した能力に戸惑っていた。
当たり前だ、たった2歳なんだから。
もちろんサチは、1も2もなくタイチを許した。
2歳で孫がアタッカーに目覚めたと聞いて、ゲンドウは手放しで大喜びしたが、そのそばでタケルがなぜか複雑な表情を浮かべていた。
それから、その隣にいたのは…
ああ、そうだ、
あの時はまだ、
お母さんの心が、生きていたんだった。




