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偽聖女と追放された真の聖女ですが、規格外の魔力が開花して氷の王に溺愛されています〜祖国が滅んでも絶対に戻りません~  作者: 黒崎隼人


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エピローグ「永遠の誓い」

 西の山際に太陽が沈みかけ、空全体が燃えるような茜色と深い紫色のグラデーションに染まっている。

 グラシエール帝国の王城の最も高い場所にある展望バルコニーに立つと、視界の果てまで続く広大な国土が一望できた。

 かつては灰色の氷と荒れ果てた岩肌しか見えなかったその大地は、今や豊かな緑に覆われ、夕陽を反射して黄金色に輝く麦畑が波のように揺れている。

 風が吹き抜けるたびに、土の香りと熟した果実の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、遠くの街からは夕食の準備を知らせる鐘の音が微かに響いてくる。

 リアナはバルコニーの冷たい石の手すりに両手を添え、その美しい光景を静かに見下ろしていた。

 風に煽られて銀色の髪が頬を打つが、その感触さえも今は心地よい。

 彼女の胸の奥には、広大な大地と同じように、豊かで静かな水面のような感情が広がっている。

 ふと、南の方角に視線を向ける。

 山脈の向こう側、かつて彼女が生まれ、理不尽に虐げられ、そして完全に決別したソルスティス王国がある場所。

 風の噂によれば、かの国は完全に砂漠と化し、王族は離散し、国という形そのものが歴史の砂の中に消え去ったという。

 だが、その事実を聞いても、リアナの心には悲哀も同情も、あるいは復讐を遂げたという昏い喜びすらも湧き上がることはなかった。

 過去の記憶は、ただ古い本のページのように色褪せ、今の彼女の人生において何の重みも持たないただの風景の一部になっていた。

 彼女の魂を削っていた古傷は、今ではすっかり痛みのない滑らかな痕へと変わり、彼女をこの国へと導くための必然だったのだと、静かに受け入れることができていた。


「風が冷たくなってきたな」


 背後から石畳を踏む静かな足音が近づき、アルヴィドの深く落ち着いた声が耳元に届いた。

 リアナが振り返るよりも早く、厚手の毛皮の外套が彼女の肩にふわりと掛けられ、そのまま背中から大きな腕に包み込まれる。

 彼の胸板の硬い感触と、規則正しい心臓の鼓動が、リアナの背中越しに確かに伝わってきた。

 アルヴィドの顎がリアナの頭頂部にそっと乗せられ、彼の深い吐息が彼女の髪を揺らす。

 リアナは自分の腹部に回された彼の手首にそっと両手を重ね、その脈打つ命の熱を指先で確かめた。


「景色を見ていたのです。この国の大地が、こんなにも力強く呼吸していることを、肌で感じたくて」


 リアナの言葉に、アルヴィドは彼女の背中を抱く腕の力をわずかに強めた。


「すべては、お前がこの国に来てくれたからだ。お前が流した光が、凍りついていた私の心と、この国の土を同時に溶かしてくれた」


 彼の言葉には、国王としての誇り以上に、リアナという一人の女性を愛し抜く男としての純粋な真実が込められていた。

 リアナは体を反転させ、アルヴィドの胸の中にすっぽりと収まりながら彼を見上げた。

 茜色の夕陽を背にした彼の顔は、影になって表情が読み取りにくかったが、その瞳の奥にある青い光だけは、夜空の星のように揺るぎなく彼女を捉えていた。

 足元では、ルティが銀色の巨狼の姿となり、二人の背後を護るように静かに座っている。

 その美しい毛並みが夕陽を受けて淡い桃色に染まり、吐く息が白い霧となって空気中に溶けていく。


「私は、あなたに出会うために、あの暗い森を歩いていたのだと思います」


 リアナの指先が、アルヴィドの胸元のシャツのしわを優しくなぞる。


「私の力も、私の命も、すべてはこの美しく優しい大地と、あなたと共に生きるためにあったのだと」


 アルヴィドは言葉の代わりに、リアナの頬を大きな掌で包み込み、彼女の唇に静かに、そして深く自分の唇を重ねた。

 夕暮れの風が二人の間を吹き抜けていくが、重なり合った体温と、互いの存在を確かめ合うように密着した肌の熱が、あらゆる寒さを完全に遮断している。

 彼の口づけには、焦りも暴力的な欲求もなく、ただ永遠の時間をかけて彼女を慈しむという誓いだけが込められていた。

 やがて唇が離れると、西の空から完全に太陽が姿を消し、深い藍色の夜空に最初の星が瞬き始めた。

 街の灯りが一つ、また一つと点灯し、大地の上に星空を写し取ったような暖かな光の海を作り出していく。

 リアナはアルヴィドの腕の中で夜風に目を細め、静かに呼吸を繰り返した。

 大地から伝わる力強い生命の脈動と、愛する人の確かな鼓動。

 過去の因果は完全に断ち切られ、偽物と蔑まれた少女は、今、自らの意思と真実の愛で満たされた世界の中心に立っている。

 リアナはアルヴィドの手をきつく握り返し、どこまでも続く星空の下、彼と共に歩む永遠の未来へ向けて、静かで揺るぎない祈りを捧げた。

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