夏休みになったら、温の恋も熱くたぎった
本当に久しぶりの投稿になってしまいました。読者さんは戻ってきてくれるのでしょうか。病気だったわけでなく、ゲームにどハマりしてました。本当に申し訳ありませんでした。
季節は夏になり、学校は夏休みになった。郁はバイトに精を出し、温は予備校の夏期講習に通い始めた。週末はそれぞれの基地でトレーニングだ。郁は空中戦でブラウリヒトを取り回せるようになった。温は射撃の腕が上がり、空中戦でも敵を撃破できるようになった。そんな忙しい日々を過ごしていたのでなかなかデートができない。温は自覚していなかったが、彼氏に会えないストレスが確実にたまっていった。自覚してはいなかったが、英語力が上がったので、弾き語りしている歌詞がストレートに温の感情に刺さって涙が出てしまった。アヴリル・ラヴィーンの“ Wish You Were Here“だ。不覚にもサビの“Damn, damn, damn! What I'd do to have you here, here, here? I wish you were here. Damn, damn, damn! What I'd do to have you near, near, near? I wish you were here."で横隔膜が脈打ち、両眼から涙が溢れ、歌い続けることができなくなって慟哭した。会いたい、郁さん、今すぐ!
温は自転車に飛び乗ると、郁がバイトしている多摩センターの丸善に向かって全力でこぎ始めた。真夏の太陽が照りつける。麦わら帽子をかぶってくるべきだった。水筒を持参して給水しながらこぐべきだった。途中で自販機を見つけたので、温はスポーツドリンクを一気飲みした。丸善に着いた。郁はレジにいるだろう。何と声をかけるべきだろう。そうだ!参考書を買いに来たことにしよう。そしてどれが良いか相談すれば、バイトの職務を邪魔することなく合法的に郁と言葉が交わせる。
「郁さん!」
「あ、温ちゃん、久しぶり。汗だくで顔が真っ赤だけど大丈夫?」
「自転車こいできたからね。郁さんに会いたくて、じゃなくて、会って参考書のアドバイスが欲しくて...」
「何の参考書?」
「世界史。この夏休みから世界史にも手を付けようと思って。」
「世界史か。俺も受験は世界史だったなあ。よし、参考書コーナーへ行こうか。」
「よろしくお願いしまーす。」
「受験の世界史はね、教科書準拠というルールがあるんだ。だから出題者は必ず教科書を熟読する。逸脱したり教科書と別の歴史解釈を示すと出題ミスになるからね。学校で使ってる教科書はどこの出版社のものなの?」
「**出版社です。」
「だったら、これ。同じ出版社だから。」
「アドバイスを聞けて良かった。出題のルールから判断するなんて専門家ムーブじゃないですか。」
「大学に入ってから知った知識なので自分には役に立たなかったけどね。」
「来て良かった。久しぶりに郁さんの声が聴けた。」
「声で良いなら電話してくれれば良いじゃん。」
「して良いの?」
「当たり前だろ。俺たち、付き合ってるんだから。」
「うれしい...(うう、無性にキスしたくなってきた)。」
「久しぶりに今度どこかへ遊びに行こう。あとでLINE送るから、デートのこと考えておいて。」
「OKです、郁さん、心の底からOKです。」
家に戻ってエアコンを全開にして、部屋が冷えるまで浴室で水シャワーを浴びて、温はようやく人心地がついた。号泣からの爆走、爆走からの心のオアシス、そしてニヤニヤ笑いの帰路。今日の温の感情はジェットコースターだった。
「さて、久しぶりのデートだから、断食のあとの食事みたいなものね。感動で満腹にしなくっちゃ。何が良いかな? ………… どうだ!夏といえば水着回じゃないですか。そしてその次は縁日で浴衣回、これが夏アニメのルールです。………… はっ!私、スクール水着しか持っていない。何と罪深い女なのでしょう?女子高生の夏は3回しかなくて、もうすでに1回はスクール水着で終わっちゃっていて、残りは2回しかないのに。良し、水着を買いに行こう。多摩センターに行くと郁さんの磁力に引き込まれそうになるから、聖蹟桜ヶ丘の京王デパートで買おう。」
自転車をこぎながら温は考えた。夏期講習に出てるのでバイトにあまりシフトを入れてない。なので収入が減った。なのに、水着だ浴衣だと出費が増える。金策をせねば。ゲームならなあ...稼げる狩場でサクッと金策できるのに...
「なんか夜のバイトないかな?夜のっていっても、女子高生が合法的に働けるバイト。家から近いやつで検索してみようかな。」
京王デパートのベンチで、温はバイトの検索を始めた。時給が高いのはやはり飲食のホールだ。高校生のバイトは10時までと決まっているので、18~22時の4時間。
「良いのないかな?……お、ピザ主体のイタリアンがある。聖蹟桜ヶ丘で時給1300円。よし、帰りに寄っていこう。」
水着は眩しい白ビキニにした。もうキスまでした大人の女だからここは攻めるしかない。浴衣はバイト代が入ってからにしよう。水着代の支出で口座の残高はかなり減った。今は耐えるしかない。給水は家から持参の水筒オンリーだ。
「こんにちは。ネットでバイトの募集を見てきました。」
「おお、いいねえ、うちの店にピッタリだよ。いままで接客業の経験は?」
「書店のバイトしかしたことがありません。」
「ふむ、じゃあ若干口角上げめでてきぱき接客しようか。じゃ言ってみて。“Buona Sera!“」
「ボナ・セーラー!」
「良いね、その笑顔で言うと映えるね。これはイタリア語で“こんばんは”だけど、まあ“いらっしゃいませ”ということだね。うちは夜の時間帯はこの挨拶って決まってるんだ。もうほとんど採用する気になっているけど、いちおう決まりだから接客のテストをしよう。テストは簡単。ぼくがお客やるから、“Buona Sera! ご注文がお決まりになりましたらそのタブレットでお願いします”って言うのと、商品をお出しするときに確認するため、“お待たせしました。ピッツァ・マルガリータ”お持ちいたしました“と商品名を言うこと。できるかな?」
温はつつがなくテストをクリアして正式に採用が決まった。採用書類を書いていると、店長はバックヤードから制服を持ってきた。
「これ、2着あるから、バイトを終えて帰宅したら洗濯して、翌日のバイトにはもう1着を持ってくること。交替して着るんだよ。飲食店だから清潔が何よりなんだ。良いね?」
「はい、大丈夫です。」
「サイズは合ってると思うけど、ちょっと更衣室で着替えてきてくれるかな?」
「了解しました。」
「おお、ピッタリじゃないか。とても似合ってるよ。お客さんが増えたらボーナス出すから、笑顔の接客頑張ってくれ。」
「頑張ります。」
夏休みになったら金欠になる。バイトをしないとそうなりますね。温のウェイトレス姿、似合ってますね。店は絶対に繁盛しそう。




