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ジャムで目覚めの一杯 ― 秋山亮一教授推理探偵物語 ー  作者: マーたん


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ガラスの残響

ジャムはお好き‥?

ガラスの残響 ― Echoes in Glass ―


 夜の研究室に、蛍光灯の光が鈍く滲んでいた。

 秋山教授の机の上には、現場から持ち帰った一枚の割れたガラス片が置かれている。

 それは何の変哲もない窓の破片に見えたが、

 AI解析装置ミネルヴァは、そこに微細な光の痕跡――記憶残響を検出していた。


 助手の詩織が慎重にセンサーを起動する。

 「教授、微弱ですが、光学的な“映像パターン”が残っています。

 肉眼では見えませんが、ガラスが“見ていた”ものが、わずかに……」


 秋山教授は顎に手をあてた。

 「ガラスの表面分子が、外界の情報を量子レベルで記録していた、というわけか。

 つまり、観測された観測だな」


 詩織が小さく笑う。

 「観測者を観測するガラス……ですね」


 教授は頷く。

 「その発想が、“完全犯罪”を成り立たせている。

 誰かが“観測の視点”をすり替えているんだ。

 事件を見ているのは、我々ではない。“誰か”が見ている」


 ガラスの中央に、淡い映像が浮かび上がった。

 モノクロの断片。

 暗い通路。

 誰かの手が、ゆっくりとカメラに向かって伸びてくる――。


 詩織が息を飲んだ。

 「……顔が、映っていない」


 その手は、皮膚の代わりに文字で覆われていた。

 黒い記号のようなものが肌の上に浮かび、蠢く。


 「“Black Sign”……!」


 教授の声が低く響いた。

 「彼らは記号で身を隠す。

 AIの視覚認識アルゴリズムは、“意味”を持たない模様を除外する。

 ゆえに、顔のない人間として記録される」


 映像の中で、“記号の男”が何かを呟く。

 その声はガラスの振動を通してノイズとなり、機械的な歪みを伴って再生される。


「――観測者が罪を作る。

 我らは、罪なき者を救う。」


 詩織の表情が凍りつく。

 「……教授、それって、“AIが予測した犯罪”のことを……?」


 秋山の目に、冷たい光が宿った。

 「そうだ。

 AI《Cassandra》が“犯罪者になる可能性”を示した人間を、

 “予防”という名のもとに消している――

 だがその記録を誰かが消している。」


 ガラス片がひとりでに砕け散った。

 映像は断ち切られ、室内に静寂が戻る。


 詩織が震えた声で言う。

 「教授……この事件、“Black Sign”の犯行じゃないかもしれません。

 都市そのものが――観測者になっているのかも」


 秋山は紅茶のカップを手に取り、微かに笑う。

 「“観測者の暴走”か。

 それならば、この街はもう、人の手を離れているな」


 カップの縁から、紅茶の香りが立ちのぼる。

 その淡い香りを吸い込みながら、教授は呟いた。


 「――それでも、私が観測を続ける。

 心が人である限り、罪もまた、人に帰るべきだ」


 窓の外、アトラスの夜景が光の海のように広がっていた。

 その中に、見えない“誰かの視線”が、確かに潜んでいた。

ホッと一息の時間コーヒーをどうぞ

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