Scene 5:Black Signの足跡
踏み出す
Scene 5:Black Signの足跡
――大学心理学棟・教授研究室/深夜
秋山教授の研究室には、古い書籍と紅茶の香り、そして静かな緊迫が満ちていた。
机の上には大量の心理学論文、ノイズ解析レポート、そして恐怖反応パターンの波形が並んでいる。
助手
「……“Black Sign”は、脳波を操作する?
さっきのノイズ、明らかに“誘導型”でした」
教授
「恐怖は、最も原始的な感情だ。
意志を奪うには、まずそれを揺らす」
教授は紅茶を淹れながら、
静かに、しかし鋭い声で続ける。
教授
「だが、恐怖を操る者は、必ず痕跡を残す。
心に触れたものは、触れ返される」
助手
「痕跡……」
その時、机の端に置かれた封筒に助手の視線が止まる。
助手
「教授、この封筒……いつ届いたんですか?」
秋山教授は動じずに返事をした。
教授
「地下棟へ向かう前に、ドアの隙間に差し込まれていた」
封筒には黒い封蝋。
中央には黒い逆三角形の刻印――Black Signの象徴。
助手
「開けても……?」
教授
「開けるなと言うと、君はどうする?」
助手
「開けます」
教授
「良い判断だ」
助手は震える手で封を切った。
中には一枚の薄いカード。
真ん中に――波形。
心拍か、脳波か、どちらとも取れる黒い線。
だが、そこには小さな文字が刻まれていた。
――YOU ARE NOT THE HUNTER
――NOT YET
助手
「“あなたは狩人ではない……まだ”?」
教授
「挑発だな。
だが、こういう手紙を送る者は、必ず“観察”している」
助手
「つまり、まだ近くに……」
教授
「見られている。
そして――試されている」
教授はカードを光に透かした。
黒い波形の裏に、淡く浮かび上がる別の曲線。
その瞬間、秋山教授の表情に僅かな変化が走る。
教授
「これは……救難信号だ」
助手
「救難……? Black Signに囚われた誰かが?」
教授
「可能性はある。
彼らは権力で縛らない。
精神で繋ぐ。
だが、その鎖は脆い」
助手
「……教授は、助けるつもりなんですね」
教授
「心は、道具ではない。
奪うものでもない」
教授は立ち上がり、コートを手に取る。
教授
「行くぞ。次の痕跡が動き出す前に」
助手
「どこへ?」
教授
「“Black Sign”が恐れる場所へ。
――自由がまだ息をしている場所だ」
夜の廊下に足音が消えていく。
そして、薄闇の中で、教授の声が静かに響く。
「心の自由を奪おうとする者は、
必ず自らの影に怯える」
秋山亮一、心の戦場へ踏み出す。
秋山




