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ジャムで目覚めの一杯 ― 秋山亮一教授推理探偵物語 ー  作者: マーたん


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Scene 2:地下棟の扉

 …

Scene 2:地下棟の扉


――某大学・旧心理試験棟/午後7時12分


 教授と助手は、鍵の外れた鉄扉を押し開け、地下へと降りていった。

 かつて研究が盛んだった頃の名残――薬品の匂い、剥がれた安全ポスター、

 壁に刺さったままの画鋲。


 階段を下りきると、薄暗い廊下が伸びていた。

 蛍光灯は半分が死んでおり、残る灯りは病んだように明滅する。


 ここは既に廃棟。

 旧・心理試験施設。

 閉鎖の理由は、公式には「安全性の問題」。

 だが教授は知っている。

 本当の理由は証明できない何かが、この場所に取り憑いたからだ。


 歩みを進めると、放置された機材が影を落とす。

 VR実験用ゴーグル、心拍センサー、電極パネル、記録装置。

 埃をかぶったままの椅子は、まるで誰かがまだ座っているように沈んでいた。


 教授が立ち止まる。廊下の空気が変わった。


「感じるか?」


 助手は喉を鳴らし、言葉を搾り出す。


「……空気が、濃いです。

 まるで、何かの『余韻』みたいに」


「これは“心の残響”だ」

 教授の声は低いが確信に満ちていた。


「強い意志、執念、後悔――

 そういうものは、空間に痕跡を残す。

 ここは、かつて人の心を揺さぶる研究をしていた」


「……つまり、ここに“想念”が?」


「残っている。消えきらず、漂い続けている」


 前方で、金属が擦れる音が突然響いた。

 助手は身を強張らせる。


 人の足音には遅すぎる。

 しかし、機械の動作音にしては生々しすぎる。 


 コ……ン……コ……ン……


 微かな反響が、廊下の奥で波紋のように広がる。


 助手が震える声で呟く。


「教授……誰かいます」


 教授は目を細め、静かに答えた。


「いや。『何か』だ」


 その瞬間、廊下の奥の自動ドアが、

 誰も触れていないのに、ゆっくりと開いた。


 冷たい風が流れ込む。

 それは空調の風ではなかった。


 感情の風だ。

 ここに未だ残る“想い”が、二人を歓迎し、試している。


「――行こう」

 教授の眼鏡に、青白い蛍光灯の光がかすかに揺れる。


 床に落ちた案内板には、薄く読める文字があった。


『認知共鳴実験室』


 扉の向こうから、再び音がした――

 今度は人の囁きのように。


……まだ……ここに……いる……


助手の喉がひきつる。

教授は一歩前へ踏み出し、口元に微かな笑みを浮かべた。


「心の残響を辿るには――

 一度、沈む必要がある」


 とても人間の研究施設とは思えない静寂の中で、

 扉は二人を飲み込んだ。

 …



  …

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