ブラックサイン
ブラックサイン ― 影の研究所 ―
夜の大学キャンパスは、
祝祭の翌日のような静けさに包まれていた
ワールドシリーズの喧騒は遠く
いま、秋山教授の心に残るのは
観客の歓声ではなく、あの黒い視線
研究室の窓に映る影が揺れる
その揺れは、風ではない
記憶か、予感か
それとも――誰かの“意思”か?
Scene 1:静寂に落ちるノイズ
――NY Runaways Home Stadium/午後7時05分、試合開始7分前。
巨大スクリーンは光を沈め、観客席は異様な静けさに包まれていた。
満員のはずの球場。だが、声がない。息すら潜める、あの夜のような緊張。
ランナウェイズの主砲・黒瀬涼真は、バットを握りながらベンチの端に座っていた。
肌に張り付く冷気。目の前には、湿った夜のフィールド。
雨は降っていない――しかし空気は重く、嵐の前触れのようだ。
「お前、聞こえるか?」
隣で、捕手のハドソンが低く呟いた。
「……何がだ」
黒瀬は眉を寄せ、耳を澄ませる。
観客のざわめきの奥――
ザ……ザザ……ッ
微かな電気ノイズが漂っていた。機器の故障音でも、歓声の残響でもない。
まるで、見えない何かが誰かの鼓動を盗み聞いているような、不気味な気配。
「音響チェックは終わってる。だがな……何かがおかしい」
ハドソンは喉を鳴らした。「ウォールズは何を仕掛けてくる気だ?」
バハマ・ウォールズ――
鋭い守備、鋼鉄の投手陣、そして**“静寂戦術”**と囁かれる心理作戦。
相手ベンチをちらりと見ると、向こうは笑みすら浮かべず、ただ黒い帽子を深くかぶり、
沈黙の軍隊のように座り込んでいた。
黒瀬が立ち上がった。金属スパイクがコンクリートを叩く音が、冷たく響く。
――乾いた音。耳に刺さる。
「静かすぎるんだよ。戦場じゃねぇ」
ボールボーイが駆けてきて、第一球用のボールを差し出す。
だがその手は震えていた。まるで、見えない視線に怯えているかのように。
(このシリーズ……ただの野球じゃ終わらねぇ)
黒瀬は胸の奥で呟いた。
スタンドのモニターが再び光を取り戻し、アナウンスが割れるように響く。
> “World Series 第6戦――開始します”
叫ぶ声はない。波立つ歓声もない。
あるのは、不自然な沈黙と、ノイズだけ。
そして、投手マウンドで立つウォールズのエース、ガルシアがゆっくりと帽子を上げ――
無表情のまま、黒瀬に目を向けた。
ザ……ザザッ……
その瞬間、球場のライトが一瞬だけ揺らぎ、空気が震えた。
暗闇が忍び寄る。音が吸い込まれていく。
――試合開始のサインは、審判の声ではなかった。
それは、
世界が息を止めた音だった。
ブラックサイン ― 影の研究所 ―
夜の大学キャンパスは、
祝祭の翌日のような静けさに包まれていた
ワールドシリーズの喧騒は遠く
いま、秋山教授の心に残るのは
観客の歓声ではなく、あの黒い視線
研究室の窓に映る影が揺れる
その揺れは、風ではない
記憶か、予感か
それとも――誰かの“意思”か???




