金貨5枚
ヴェイリンの街中、僕は鋭く風を切り素早く走っていた、後ろからは冒険者が大きな声を出して追いかけてきているがそれでも逃げるように走り続ける。
「はぁはぁ、どこまで追いかけてくるんだ、うぅ苦しい」
僕は息を荒く走り続けるも疲労から少しずつスピードは落ちていくが、それとは違い冒険者まだまだ体力が余っているのか涼しい顔をしていた、化け物かよどんだけ走ったと思ってるんだよ!心の中で叫びを上げながらも必死に逃げる途中路地に入りそのまま駆け抜けようとすると路地の前方に冒険者が現れて道を塞ぐように立ち塞がる。
「さぁ、追い詰めたぜ!同じ冒険者としては申し訳ないけど金貨5枚のためだ!恨むなら酒場の店主を恨めよ!」
急いで立ち止まるも後ろから走ってくる冒険者に目をやるとすぐそこまでやってきていた、あれ?これって絶体絶命じゃないか?そんな立ち尽くしていた僕の目の前にロープが一本垂れてきた、上に目をやると軽装の顔を布で隠した女性が登ってこいと手招きをする、僕はロープを掴み急いで登ろうとすると女性が勢いよくロープを上に引っ張ると僕は建物の屋根まで大きく飛び上がった。
「あっ、逃げたぞ!追いかけろ!」
下に取り残された冒険者達が壁を登ろうとするも壁に塗られていた液体が冒険者の手足を絡みとりうまく登れないでいた、僕がその光景を見ながら息を整えていると女性は僕の方を見ているのに気づいた。
「あ、ありがとうございました、助かりました」
僕が笑顔で例を言うと女性は布で覆われた口を開く。
「私はエイ、ある人の依頼であなたを助けにきたわ、私についてきて」
彼女は自己紹介を簡潔に済ませ、後ろをくるりと向き手招きする、一応僕も名乗っておこう。
「僕は、エア…」
「大丈夫、あなたのことは依頼主から聞いているわ、エアル・ブランドでしょ?」
彼女は僕の言葉を遮るように話し始めた、声に心がこもっていないようなそんな冷たい声だった、僕は彼女の後を追いかけるようについて行く、さっき僕のことを建物の屋根まで持ち上げたのを思い出して彼女の後ろ姿を見るが到底そんな力技が出来るような風には思えないほど華奢な体をしていた、背もそこまで高くはないのでどうやったのか、どんなカラクリを使ったのか気になって見ていると視線に気づいたのか彼女は前を向きながら忠告してくる。
「あなた見過ぎよ、変な気は起こさないで、私はいつでもあなたを始末できるのだから」
「あっ、いや、すみません」
気づかれてたのか、動揺で吃ってしまって恥ずかしくなるがそれでも気になったので聞いて見ることにした。
「あの、どうやって僕を屋上に引き上げたのですか?体も細いし不思議だなと思って」
僕が疑問を投げかけるとエイさんはチラリと僕の顔を見たような気がしたが前を向きながら冷たい声で答える。
「企業秘密よ」
「えぇ〜」
そっけなく返事をされて僕はがっかりするものエイさんに連れられ目的地に到着した、そこは冒険者ギルドの2階のベランダに当たる位置だった、エイさんは窓を2回ノックすると中から誰かが近づいてくる音が聞こえる。
「着いたわ、お疲れ様、私は他にも用事があるから」
僕にそう言うとエイさんは立ち去ろうとするが僕はお礼を言おうとエイさんを呼び止める。
「待ってください、さっきはありがとうございました!もうダメかと腹を括ってたところです、また会った時はちゃんとお礼させてください!」
僕の言葉に布越しだがエイさんが少し笑ったように感じたが気のせいだろう、僕の言葉を聞き終わるとエイさんは颯爽と消えてしまった。
ベランダへの窓が開くとそこには透き通るような綺麗な水色の髪と同じ色をした目をこちらに向けている男性が立っていた、顔立ちは良く僕を見るなり笑顔になり話しかけてくる。
「やぁ、君がエアルくん?いやぁ、本当に子供なんだねぇ!」
いきなり笑顔で訳のわからないことを言っている男性を見て僕はただ呆然として立ち尽くしていると男性の後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「支部長、エアルくん困ってるじゃないですか取り敢えず中に入れてあげてくださいよ」
声の方を見るとそこにはレインさんが立っていた、僕はレインさんの顔を見ると少し安心して男性の方に向き直り質問する。
「あの、支部長って言ってましたけど本当なんですか?」
「うん、そうだよ、俺結構偉いんだよね!」
何故か嬉しそうにいう男性の後ろで恥ずかしそうに頭を抱えているレインさんの姿が映る。
僕は中に入れてもらい席に座るように促されて座ると対面にレインさんと支部長さんが座ると紅茶の入ったカップを飲み、質問をしてくる。
「どうして、指名手配なんかされてるのさ、人でもやっちゃった?」
陽気な感じで質問する支部長さんを少しつねりながらレインさんが再度質問をしてくる。
「ごめんね、この人バカなの、それよりもどうしてエアルくんはみんなに追われてるのか教えてくれないかな?もしかしたら力になれるかもしれないしさ」
そんな心配をしてくれているレインさんに、これ以上は隠せないだろうと思いあった事を1から伝える事にした。
「って言う事がありまして、それで次の日たまたま通りかかったら、金貨5枚の賞金がかけられてまして」
「「金貨五枚!?」」
僕の説明を聞いた後に2人が声を合わせて驚きの声を上げる、そして何かを考える決めたように頷き支部長さんが真剣な顔で僕を見て言う。
「よし、その酒場に突き出そう!それでマジックアイテム漁りに行こう!」
そんな事を言い出した支部長さんにレインさんが頭を叩き否定する。
「バカなんですか!?そんなことしませんよ、それにエアルくんは未来有望な大事な冒険者ですよ?守るに決まってるじゃないですか!」
叩かれた箇所をさすりながら支部長は何かぶつぶつ言っていたが僕には聞こえなかった。
僕が苦笑いしながら見ていると支部長さんは真剣な顔になって言う。
「でも実際、一度会ってエアルくんを探している理由を聞いて見るべきなんじゃない?」
それも確かにそうだ、店を騒つかせてテーブルやイスを壊したのも事実だし怒られるなら素直に謝ろう、僕は覚悟を決めて酒場に向かう事を決めたので立ち上がり言う。
「わかりました、一度会って謝ってきます」
僕が2人の顔を見て言うと支部長さんがニヤリと笑い窓の方に顔を向けて声を張る。
「エイちゃん、入っていいよ〜店主さんと話をしたいんだってさ〜」
「「えっ?」」
レインさんと僕の驚きの声が揃い窓の方を見る、窓が開くとそこには騒動を起こした酒場の店主さんとその後ろにエイさんが立っていた。
ヴィルヘルは立ち上がり酒場の店主さん元へ近づき横に並び肩を両手で掴むとニコニコしながら言う。
「ジャジャーン、店主のゲイルさんでーす、連れてきてもらっちゃった」
レインさんと僕が口を開いたまま見ているとヴィルヘルさんはゲイルさんを僕の正面に座らせて僕の隣に座った、僕たちはもちろん、ゲイルさんも困惑しているようだったので多分支部長さんがレインさんにも内緒で勝手に動いた事なのだろうと察する。
僕は困惑したままだがそれでもゲイルさんに何故自分を探していたのかを聞く事にした。
「げ、ゲイルさん、なんで賞金をかけてまで僕を探していたんですか?」
僕が聞くと状況が飲み込めてないであろうゲイルさんも周りを見渡していたが、僕の顔をしっかり見てやっと気づきハッとなり立ち上がる。
「おぉ、あんたあん時のチンピラをのしてくれた子かい?いやぁ、あん時は助かったよ!ありがとな」
「え?怒ってないんですか?」
ゲイルさんのお礼の言葉に僕は首を傾げて聞き返す、ゲイルさんも僕の言葉を聞いて少し首を傾げ説明してくれた。
「いやいや、なんで怒るんだよぉ、例を言いたいと思ってなあの後君のことを探したんだけど何見つからなくてなぁ、それで賞金をかけてまで探してたってわけさ」
笑いながら話しているゲイルさんに僕は苦笑いをしながらもあることが気になったので聞いてみた。
「経緯はわかったんですが、なんで金貨5枚なんて大金かけてまで探してたんですか?」
僕の質問にゲイルさんは周りを見渡して仕方ないと言わんばかりに肩を窄めて話始める。
「うーん、こうなったら仕方ないか、実は俺が村を出る時に村のよく当たる占い師にこう言われてな、村を出て4年経った時、其方を助ける者が現れればその者はかの英雄″エル・ト・アール”様のように世界を平和へと導かん、と」
ゲイルさんは体を動かして手振りをしながら説明してくれたが内容が内容だったので全く頭に入ってこなかった、エル・ト・アールって確か人魔戦争の時代に活躍したすごい魔法使いと言うことしか知らない、僕は困惑しながらも聞き返す事にした。
「いろいろ聞きたいですけどそもそも僕はそんなに大層な人間じゃないですし、そもそも魔物はいれど世界は平和じゃないです…か」
そう言いながらも僕は村を魔界へと追いやられているはずの魔族に焼き払われた事を思い出して言葉が詰まる、確かにあの村だけでなく他の村もあんな被害に遭っていると考えたら平和な世の中とは言えないかもしれない、言葉に詰まるぼくを見て静かに聞いていた支部長さんが立ち上がって手を叩く。
「まぁ、お互い気になることはあるかもしれないけど、疲れたろうし今日のところはお開きにしようか、今回のことはこれで一件落着ってことで!」
話すヴィルヘルをみんなが見つめるがヴィルヘルは、そのままゲイルの方を向いて話を続ける。
「ゲイルさん、今日はありがとうね、ちゃんと賞金は貰いに行くからね、エイちゃん送ってあげて!」
「でもまだ話の途中じゃ?」
そう言いかけたゲイルさんに笑顔で手を振るヴィルヘルに、レインは何故ゲイルを呼んでいたのか理由を理解して頭を抱える、そんな彼女を無視したままゲイルに別れの挨拶をして無理やりエイに連れられて部屋を出て行ってしまった、賞金は取り消してくれるようなので一安心といったところだった。
みんなでゲイルを見届けてまた座り直すと支部長とレインさんは僕の対面に座り直すと僕を見て言う。
「お疲れ、エアルくん、君も今日は疲れたんじゃないか?宿に戻って休むと良いよ」
暗い顔をしている僕を気遣ってくれているのか優しく話してくれる支部長に、何かあったのかくらいは話しておこうかを悩み俯いたまま聞く。
「ありがとうございました……支部長さん…聞かないんですか?」
元気のない声で聞くエアルにヴィルヘルは微笑みを浮かべてカップを手に取り穏やかな声で優しく伝える。
「また、君が話したくなった時にでも、話してくれたら良いよ、それにさ、誰にだって他人に知られたくない過去の1つや2つあるもんだぜ、な?レインちゃん」
「な!なんで私に振るんですか!?」
カップに注がれた紅茶を手にレインの方に視線を向け啜る、僕も目を向けるとレインさんは少し動揺した様子だった、何かあったんだろうか?気にはなるが僕は支部長さん達の気遣いを見習って聞かない事にした。
僕が前を向いて立ち上がると支部長さん達は僕の顔を見て少しニヤッと笑っていた。
「支部長さん、レインさん!今日は色々ありがとうございました!また絶対僕の過去について話しますね!じゃあまた」
僕が頭を下げて立ち去ろうとすると支部長さんに後ろから声をかけられて立ち止まる。
「そうだ、エアルくん、俺の名前はヴィルヘルって言うんだよね、支部長は距離感じるから名前で呼んでよ」
そんな唐突な提案に僕は戸惑うがそれでも感謝の念を込めて呼ばせてもらう事にした。
「わかりました、ヴィルヘルさん!じゃあまた今後もよろしくお願いしますね!」
2人は笑顔で僕のことを見送ってくれたのを見て本当に優しい環境なのだろうと心から思うがどこか寂しさも感じてしまった、今日は色々あってかなり疲れたのでもう宿に戻って眠るとしようと思い僕は冒険者ギルドを後にした。