#78 戯粋局 I
"戯粋局"──仮拠点、円卓。
筆頭局長──霧縫アルム。組織の長として規則や方針を定め、統率および対外折衝を執り仕切る。別途、裏の役回りとして、魔導を利用した資材の調達などを兼任。
副長・本草方──葉フェイジン。組織のNo.2として立案や運営をおこない、また錬金術師見習いとして薬学をはじめとした研究部門を担う。
総長・監察方──霧縫ノエ。組織の調整役として人事を取りまとめる。加えて、忍びの技として練磨された霧縫流を活かした探索任務などを並行する。
参謀・医学方──与羽村リンドウ。特別顧問として、組織運営に関わる様々な支援をする。さらに別世界の医療を学問として伝える。
副長助勤・勘定方──阿佐木リュウト。副長の直接的な補助、および組織の経理・財務や内外の取引を担当する。
無役──御幌メイ、特に無し。
「……さて、自己紹介も終わったところで今後の方針だが──」
円卓──という名の机の脚が長いちゃぶ台──を囲んでいる面子を見据えながら、アルムはそう言った。
「ちょっと待ったァ!」
「っんだよ、メイ」
「なんであたしだけ地べたなん!?」
一人だけ床に正座させられる形で、御幌メイは食って掛かる。
「そんなのお前が役立たずだからに決まってら。円卓の席に座れるのはな、役付きの幹部だけだ」
「はぁァァアアア!? あたしにもなんか役職をよこせ!! だいたい円卓ってなにさ!?」
「大陸にある王国ではな、"円卓の魔術士"っつー領地まで与えられた武闘派がいるんだよ、それに倣った。まぁ前線で闘れんのは俺とノエとリンドウさんくらいだから、その条件は外したがな。【極東】より広い国土でたった十二席──いや一席は双子だったから十三人いたりもする」
アルムは遠く"片割れ星"にいる──かつて"円卓の魔術士"第十席だった、"双術士"アデリン・アンプ本人から聞いたことを思い出しながら言い直す。
「どーでもいいわ! あたしにも役をちょーだい!!」
「うるせぇなぁ、じゃぁお前は"局長助勤"にしてやろう。俺の直属の補佐だ」
「ほんと!? やった!! 長の補佐ってことは、偉いわけね!!」
「いやぁ……? 俺の夜の世話をしてもらうだけだ」
「ふざけ──むごっぐ」
局長席から消えて失せたアルムは、メイの背後からその口を力任せに抑え込むと、そのままズルズルと引きずって席まで戻るのだった。
「話が進まんからこのままいこう」
「にゃっはは……メイちゃん、ちょっと静かにしてよーねー」
敬愛するノエにたしなめられて、メイは円卓の下──アルムの股ぐらの間で──正座したまま肩を落とす。
「本当ならなー、荒事を専門的に扱う実働部隊みたいなのが欲しいんだよなぁ……一番隊を率いる組長とか」
「私とアルムだけじゃ足りない?」
「俺たちがいつでも動けるわけじゃぁねえし、個人で名を売りすぎても諸々の支障が出る。"戯粋局"に逆らったら、あいつらが出てくるぞ! みたいなのが要るんだ」
「そうですね──表の商売ならともかく、特に裏において暴力という後ろ盾はとかく重要ですから」
商売人として、阿佐木リュウトがアルムの言葉に同意する。
物理的な暴力のみならず、己の立場を保証するに足るものが無ければ、対等な取引にもならないことはままあること。
逆に人脈や経済力、権威でも相手より優位な立場に身を置けるのならば、都合の良い取引や交渉が可能なのだ。
「武侠である葉家でも稼ぎの一つだなあ。なにがしかの庇護がなきゃ、相手に足元を見られるだけだ」
「軍事力の無い国家の末路は……悲惨なものだよ。それは敗北にしても同様だ。何かしらの逃げ道や次善策も用意しておくべきだろうな」
フェイジンに加え、年長者である与羽村リンドウのやたら実感の込められた言葉に、他の全員はわずかに気を引き締められる。
ひとたび国交や情勢不安となれば──外圧に容易く左右され、生殺与奪を握られ蹂躙される。
「ゲンジ……──"白尾トオル"なら適任だったんだけどなぁ。リンドウさんからも頼んでくれません?」
"人斬り"の異名を持つ"河村ゲンジロウ"──改め、同世界転生者である"ヴィクトル"──改め、白尾トオルをアルムは戯粋局に誘ってはみたが……すげなく断られている。
「申し訳ないが以前にも言った通り、自分の立場から彼を勧誘するつもりはないよ」
リンドウは幼少期の白尾トオルの命を救って介抱した為、恩義から半ば一方的に忠節を示されている。
そういった立場をリンドウは利用する気はさらさら無かった。
「は~~~しゃーなし。しばらくは……傭兵とか外部に委託するっきゃねえかねぇ」
「そういう形であれば、彼も受けてくれるかもしれないな」
「ならいいんすけどねぇ」
それでも局所的な暴力装置に留まる為に、せめて飛鳥馬ムネチカが保有する"巌尽衆"のような私設部隊でも雇えればまた違ってくるだが……。
紅炎一座は既にそれぞれの道を歩んでいる上に、ラディーアやエドゥアールら家族となると、こっ恥ずかしいし何よりやりにくい。
「ねぇアルム、その白尾トオルって人……そんなに強いんだ?」
「まぁな。最近の俺が闘ってて楽しいと思えるのはノエと、思えたのがトオルと、思えそうなのが宗像タツトラだ」
「今のアルムとかぁ……そういえばリンドウさんもお強いんですよね?」
ノエは局長アルムの向かい側に座っているリンドウに問いかける。
「自分はそれなりだよ」
「リンドウさんの強さは、他とは質が違うからな。俺でも勝てるかは微妙なとこだ、負けもないけど」
「へぇ~~~」
ノエは感嘆の声を漏らす。しかしその詳細については、アルムもリンドウもそれ以上語らない秘密。
なぜならば与羽村リンドウ──異世界転生者ヨハン・ミューラーとしての"魔導"に由来するものである為であった。
「アルムさぁ、我も一つ疑問あんだがいいかよ?」
「なんだフェイジン」
「局長はオメーさんしかいないのに、筆頭ってなんだ?」
「それは、だな──」
「聖威大将軍"斯衛筆頭"を参考にしたのでしょう」
フェイジンに問われたアルムは言葉を濁そうとしたところで、阿佐木リュウトにズバッと言の刃で斬って落とされる。
「あーーーなるほどぉ、宗像タツトラとは決着ついてないから、アルムってば対抗してるんだ~」
「別にそういうわけじゃねぇよ、なんかかっけぇなって思ったから参考にしただけだ。にしても、よくわかったなぁ阿佐木」
「飛鳥馬さまから"上覧武芸試合"の話は伺っていますので。それと貴方の気性を鑑みれば、自ずと正解は導けます」
「くっかっはっは! その頭を今後は"戯粋局"の為にも使ってくれな」
「言われずとも。手前自身の流通にも有益ですので」
淡々とそう言いながら、阿佐木リュウトは珈琲を口に含んだ。
「おいこら給仕、乾いてる杯があるんだから手と足を動かせ。俺のはこの瓶に注いでこい」
アルムはそう言ながら、メイを解放しつつ"透明の瓶"を手渡す。
「ふじゃっけんな! おまえがあたしを拘束して黙らしてたんだろうが!」
「はいはい、お前も好きなの飲んでいいからとっとと働け」
「ほんと? そんじゃ最高級茶葉を──」
メイは皆がそれぞれ飲んでいるものを目線だけ動かして確認すると、そそくさと隣の部屋へに行く。
「さってと、他に質問とかあるか?」
「質問じゃねぇけど、もう一個だけいいか?」
そう口にしたフェイジンは、その場で座ったまま頭を下げるのだった。




