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だからないって言ってるんだ!

「ザック様、この組み合わせだと数値がよいと思うのですけど、こっちの組み合わせもコストが低い割にはいいと思うんです。どちらの方がいいでしょう?」

「そうだな……今はレベルを少しでも上げたいからな。こっち」

「わかりました!」


 あれからロレインもまたフィン工房に入ることを希望し、能力的には問題なかったために受け入れた。そしたらザックと一緒に喜び合っていた。


「なぁアーロン、どんな会話があったと思う?」

「さあな」


 二人に聞いても秘密ですの一点張りでさっぱりわからない。きっとフィン工房七不思議に加わることだろう。とにかく二人は恋人になって帰ってきた。


 ただそれで万事解決だと思っていたのだが、次の問題が出てきた。スピカがネットワークからの情報で、ロレインの父親が血相を変えて屋敷を飛び出し、以来行方不明らしい。

 これは無関係ではないと考え、ザックとロレインの二人を調べると、二人には互いに触れられる距離まで近づくと、場所をどこかに発信する呪いがかけられていることがわかった。発信先は言うまでもないだろう。


 どうやらロレインの父親はかつてザックを襲った際に既にこの呪いをかけていたようだ。となると時期的にどこに向かってるかはわかってしまう。

 そんなわけでどうすればロレインの父親に二人の関係を認めてもらえるか作戦会議が始まった。


 まず第一に、ザックの女性関係。これは言うまでもなく今後一切なしだ。ザックも誓っている。だがそれだけで二人の交際を認めてはくれないだろう。

 そこでロレインが提案した。


「私がお父様をぶっ飛ばします。それで万事解決です」


 即却下した。

 次にザックが提案した。


「俺がお義父さんと決闘して、ロレインに相応しいと認めさせる」

「さすがはザック様です!」


 即却下した。


 ここで一回、ハリエットの提案でロレインの父親がどういった人間かということをもう一度考えることにした。ロレインが語った父親評の中で、最も有力だった情報は価値あるものへの考え方だ。


「お父様は労働への対価を気にする方でした。特に技術職に対してはその考えは強く、彼らが時間をかけて身に着けた技術に対し、お金を払うことを厭わない人です」

「なら話は早い。ザックが価値ある人間だと示せばいい」

「価値……?」

「ザック様は価値のあるお方です!」


 フィンたちが理解していないのを見ると、アーロンがパイプを磨きながら言った。


「つまりレベル3のスクロール開発に成功すれば、その技術を持ち合わせるザックを少なからず認めてくれるというわけだ」


 こうして方針は決まった。だが言うは易し行うは難し。

 妖精の森とこの街の距離から、ロレインの父親が到着するまであと一月だというのがスピカの予想だった。そのため、その期間中にレベル3に到達しなければならない。

 もしもザックとロレインの仲が認められなければ、二人は工房を去るかもしれない。それは大きな損失だ。無関係ではいられない。


 それに何より、一ヶ月後と言えば一年前に辛酸をなめさせられた魔法技術発表会がある。今年も参加するフィン工房は、ここで是非とも成果を上げないといけないのだ。








「お金がない」

「知ってる」

「だからないって言ってるんだ!」


 マティアスは悲痛な声でフィンに訴えた。


「わかってるよ? とにかくレベル3を超すスクロールを作るために効率とかコストとかを度外視しなきゃいけないのは。でもこれ以上は無理だって!」

「だけどこれでレベル3を出せば出資先だってたくさん出るだろ? 元だって取れるさ。それから緻密に詰めていけばいい」

「その前に尽きるかもしれないって言ってるんだ! 一体今は最高でどれくらいなんだ?」

「2.5」

「小人方式前より下がってるじゃないか! それに0.5も上げなきゃいけないじゃないか!」

「いやこれはまだまだ伸びしろがあるから。つい最近まで1.9だったんだよ? それを考えればめちゃくちゃ早いからね」

「あーもう、どうすればわかってくれるかな?」


 頭を抱えるマティアスを前に、フィンはカップに注がれたお湯を飲んで誤魔化した。


(お茶飲みたいけど、こういうところから節約しないとだし)


 マティアスだって仕方ないことはわかっているし、フィンだってこのままではまずいことはわかっている。だけどこれを解決するにはお金しかないのだ。


「マティアス、頼む」


 フィンにはそう言って研究を頑張るしかない。


「はぁ、無理言ってるのはわかってるとにかく頑張る。そっちも発表会までには間に合わせてくれ」


 マティアスは難しそうに顔をしかめながら部屋を出ようとして、そこで何かを思い出したのか戻ってきた。


「ザックとロレインはどうにかならないか? 隙あればいちゃついているのは正直見るに堪えないんだが」


 どこでも幸せオーラを出すカップルに辟易しているようだ。


「あー、わかった。後で言っとく」

「頼んだよ」


 苦々しい顔をしながら文句を言うマティアスだったが、何かを思いついたのか唐突に笑みを浮かべる。爽やかとはいえない笑みだ。


「でもフィンがスピカといちゃつくのは止めないよ?」

「ッ!? ……お、お前……それは……無茶言うなよ……」


 からかうマティアスからフィンは目をそらすことしか出来なかった。










 スクロール用の術式だけが完成しても、印刻用の魔術具の性能が悪ければ意味がない。その調整を任されていたアーロンに、フィンは進捗を聞いた。


「どう?」

「技術的には出来るが……これは欲しい」

「どれどれ……うっ」


 見せられた魔術具の材料のメモに、フィンは呻いた。いくつか書かれているが、高価なものが混じっている。

 アーロンがパイプを咥えながら言った。


「用意出来るか?」

「もう少し安くは───」

「無茶言うな」

「ですよねー」


 必要な出費と割り切るしかないだろう。今はとにかくレベル3に到達し、出資者にアピールするのが先だ。


(お金が尽きるのが先か、レベル3に到達するのが先か……嫌な賭けだな……うん?)


 ふとアーロンの吸っている煙草の匂いに違和感を覚えた。何というかイガイガする。


「あれ? 煙草変えた?」

「ああ……安くてマズイのにな」

「ふーん……あっ……」


 藪蛇であったことに今更気づいたフィン。


「えーとそうだ! ちょっとスピカの様子見てくる!」


 機嫌が悪くなったアーロンから逃げ出すことにした。足早に立ち去ろうとすると、部屋の扉が勝手に開いた。

 驚くフィンが誰だろうと扉を外から開けた相手を見ると、それはマティアスだった。ハリエットと話すときのように目を輝かせ、よほど急いでいたのか息を切らしている。


「ぜぇ、ぜぇ、フィン、ぜぇ、ハリエットに、ここにいるって、ぜぇ」

「そんな急がなくても」


 ふぅーと息を吐き出すと、マティアスはフィンの肩をがっしりと掴んだ。


「フィン! 出資してもいいって人が見つかった! しかもお金持ち!」

「本当!?」

「ああ!!」


 フィンは拳をぎゅっと握り、興奮を表すように「よし!」と叫んだ。金さえあればレベル3に到達する自信はある。そこからはもう金に悩まされることがなくなるのだ。

 同じく聞いていたアーロンも駆け寄ってくる。

 マティアスは嬉しそうに、小躍りしそうなくらい跳ねるような調子で言った。


「今すぐ会ってもいいって! フィン早く準備してくれ!」

「フィン、気が変わらないうちに行け」

「わかってる!」


 突如飛び込んできたチャンスに、はしゃぐように意気揚々とフィンはマティアスとともに工房を飛び出した。







 フィン工房に出資してくれていいと名乗り上げたのは、病気や怪我に利く薬を扱うトーマス商会だ。この商会の魔術師が調合した薬は品質がよく、魔力溢れる森の貴重な薬草から作り出された薬であれば、貴族とも取引きすることがあるという。


 来客用の部屋に通された二人を、代表のトーマスが迎え入れた。ただしやけにギラギラとした目で。

 目力の強い人だと思いながら、早速本題に入る。


「本日はフィン工房へ出資していただけるとマティアスから聞きました。それは本当ですか?」

「はい、嘘ではありません」


 トーマスはよどみなく答えた


「ありがとうございます!」


 頭を勢いよく下げた。これで問題の大方が片付くと思うと、体が軽くなったように感じる。嬉しさでにやけてしまうのを必死で堪えた。

 だが。


「ただし条件があります」


 重苦しく言われたその発言に、冷や水を浴びせられたように興奮が冷めた。マティアスが隣から戸惑い混じりに確認した。


「条件……ですか?」

「えぇ」

「私はそんな話聞いていませんが」

「今言いましたから」


 ぶっきらぼうに言うトーマスに、心臓が警鐘を鳴らすかのように響いているのを感じた。この状況でいわれる条件が、容易なものであるとは到底思えなかった。

 頭の中を想像出来る限りの無理難題が駆け巡る。それらを要求されたらどうしようと苦い思いを抱きながらフィンは口を開いた。


「条件とは一体何でしょう? まずはそれを聞かせて下さい」

「もちろん。なに、簡単なことです。……そちらに所属しているザックをここに呼んでさえくれれば、ね」

「はい?」


 予想外な要求に困惑を隠せなかった。どうしてザックをここに呼べばいいのかを、しばし自分で考えてみるも、思い浮かばないので尋ねた。


「どうしてザックを?」

「秘密です。えぇ、秘密です。これも条件の一つとしましょう」

「ちょっと待ってください! 何故言えないんですか? 大体こっちはザックの名前がここで出ること自体予想外だっていうのに」

「……」


 ニコリともせずに、トーマスは無言で訴えていた。条件を受けるのか、受けないのか、と。


(……ザックを連れてくるだけなら簡単だ。でも、どうして?)


 理由がわからず、どうすればいいのか混乱していると、マティアスが何か思い当たったのか「あっ」と声を漏らした。恐る恐るといった様子で言った。


「失礼ですが……トーマスさんには娘さんがいらっしゃいましたよね? 確か……シャルロットという名前の?」

「───ああ」


 ここに来て、トーマスの声が一段と低くなった。目はさらにギラギラとし、視線は鋭く、強い感情を抑えこんでいるのが一目でわかる。

 そしてフィンもここに来て、どうしてザックの名が出たのかを把握した。


(野郎、手を出してやがった!)


 さすがにロレインが来る前の話だろうが、遂に問題事に発展したということか。頭を抱えたいほどの問題だった。

 自分の娘に手を出した男に、その父親が怒りを抱くのも当たり前だろう。


「その……ザックを連れてきたらどうするのかは……やっぱり教えてくれません?」

「……」


 トーマスは答えなかったが、指をバキバキと鳴らした。フィンは察した。

 フィンとマティアスは、泣く泣く出資を断ることとなった。

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