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伝通人は仲間想いなんですからねぇ

 次の日、フィンが朝早くから工房へ行くと、既に人影があった。そいつは机の上で何かを見ている。


「アーロン、もう大丈夫なのか?」

「……フィンか。ああ、大丈夫だ。迷惑かけたな。おかげで楽しい時間を過ごせたよ」


 昨晩のことをどうしても関連付けてしまい、ついつい様子を伺う声音になる。だがアーロンは気づいていないのか気にする様子はなく、視線を机の上に向けたままだ。それは過去にレオナルドと共に皆で開発した術式だった。


「昨日の解析結果、後で見せてくれ」

「それはいいけど。どうして急にその術式を見てるんだ?」

「昨日の魔草のおかげで閃いたことがあってな。どうだったか気になった」


(何を言ってるんだこいつは?)


 ラリッていたおかげでアイディアが出たと言われても、フィンにとっては理解したくもない感覚だ。そもそもラリッている間はまともじゃないのに、それで革新的発想が生まれるものなのだろうか。

 呆れた視線を送るも、アーロンは素知らぬ顔で流した。しかしすぐにフィンの顔を見て眉をひそめた。


「疲れた顔してるな」

「まあ最近何かと忙しくて」

「ちゃんと休んでるのか」

「まあまあ」

「……仕方ない。俺の秘伝の煙草をやるよ」

「いらない」


 工房内をぐるりと見渡す。アーロン以外には誰もいないように見える。

 昨日マティアスとスピカと一緒に考えた作戦のためには、まず一人一人に別々の情報を渡す必要がある。一人と話しているときに、他の二人がいてはいけない。


「他に誰かいる?」

「いない。お前が最初だ」

「そう、か……アーロン、相談があるんだ」

「一服してからじゃ駄目か?」

「駄目」


 はっきり言えば、アーロンは嫌そうに顔をしかめた。それが今は誤魔化そうとしているように見えてしまうのだから、嫌気が差す。









「マティアス、本当に来るのかよこんなところに」

「作戦が成功すれば」


 作戦を開始しても半信半疑なフィンは疑いの眼差しをマティアスに向けた。居心地悪そうに視線を逸らされた。


「ここに来るとは限らない。もしかしたらスピカの方かもしれないし、ヘレンの方かもしれない」

「それはそうだけど」


 契約魔術も新たに結んだので、内通者はすぐにでもそのことを話すだろうと読み、今日は工房を休みにしたが、内通者が見つかるまで毎日休みにするわけにはいかない。それも踏まえて、渡した情報は鮮度が重要になるものにしたがどうでるか。


 ちらりとマティアスの後ろを見れば、茶髪のゆるふわパーマでスピカと同じように毛先が紫色の女性が立っている。目が合うと、彼女はこくんと頷き、のんびりと話し出した。


「大丈夫ですよぉ。スピカやヘレンの方に誰かが来たらぁ、ネットワークを通じてすぐにわかりますからぁ」

「お世話になります、シルベット」

「いいですよ別にぃ! スピカの友達はぁ、私たちの友達ですぅ。つまりフィン君も友達ですよぉ。知ってると思いますけどぉ、伝通人は仲間想いなんですからねぇ」


 にこにこと緊張感とは無縁そうな笑顔を浮かべている。シルベットはスピカとは違って感情豊かだ。


「シルベットさんたちのおかげで三か所それぞれを見張れてる。だから現れればすぐにわかる。それにこっちが失敗してもまだ三人にそれぞれ伝通人がついてる。どこにも現れなくても、オズワルドの関係者と接触すればすぐにわかる」


 フィンだって今更どうしようもないことくらいわかってる。賽は投げられた。後はなるようになるだけ。

 だがどうしても納得がいかないのは、


「だからっておもちゃ屋を見張ることになるなんて思わないだろう?」

「それは……そうかも」


 今フィンたち三人が見張っているのは、大通りから外れた路地にある、小さな店だ。ピンク色のファンシーな屋根に、カラフルな泡模様の壁の店の名前はトイスター。そこでは子供用のおもちゃを主に扱っている。

 もちろん、スクロールなんて一切売っていない。


「いいじゃないですかぁ。私は好きですよこういう所ぉ。ちょっと探さないと見つけられない路地にあるのがポイント高いですぅ。隠れた名店? みたいでちょっとドキドキしますしねぇ」

「営業先で聞いた場所ですけどね。シルベットさんは日頃からこういったマイナーな店を探しているのですか?」

「そうですねぇ。探す、というよりはふらふらっと歩いてぇ、目に入った店に入る感じかなぁ。それで気に入ったらネットワークに発信するんですよぉ。ふふ、目利きがいいって結構評判なんですよぉ」


 納得したかのようにマティアスは頷いた。


「確かに。スピカがシルベットさんから教えて頂いたという店のお酒は美味しかったです。ほら、フィンも覚えてるだろう? レオナルド蒸発事件の前の晩に飲んだ酒」

「ああ、あれか。うん、美味しかったです。ついつい飲みすぎちゃうくらい」


 飲み過ぎてぶっ倒れるくらいには。


「それは良かったですぅ。あっ! 見てください! 今親子が店に入りましたよぉ。やっぱりぃ、知ってる人は知ってる店なのかも」

「マニアの間では有名らしいですから。数が少ない限定品も見つかったりしますよ」

「……ボクからすればそんな店が内通者特定の鍵になることが信じられないよ」


 フィンのぼやきに、マティアスは苦笑した。


「でもオズワルドが最近はウィズニャンにはまっているっていう話は有名なんだ。それでいて今まではそういった店とは無縁だったせいで入手に苦労してるって話もね」

「だから隠れた名店を教えればオズワルド関係者が買いにやって来るかもなんて甘すぎない?」


 今回、フィンは三人にそれぞれ別の店について話した。内容としては、これから先の取り引き相手の候補としてだ。人気商品のウィズニャンを買える可能性のある場所として、マニアの間で有名なのでこれから先、名が売れていく可能性が高い、と。


 マティアス曰く、内通者というのは自分に価値があることを示し続けないといけないらしい。情報を渡している相手に見捨てられると、所属している組織を裏切っているせいで居場所がなくなるからだという。

 だからどんな些細なことでも、役に立つのであれば伝えるだろうというのがマティアスの見解だ。


 とはいえオズワルドが別口で同じ情報を手に入れる可能性も無視できないので、見分けるための嘘も一つ織り交ぜてある。


「ウィズニャン、可愛らしいですよねぇ。私もぉ、いくつか持ってますよぉ。でも人気だから中々手に入らないのよねぇ。友達と一緒によく探すわぁ」


 シルベットのゆるふわな雰囲気とウィズニャンのメルヘンな雰囲気はよく似合うだろう。フィンとしてはそこに違和感はない。ただ。


「オズワルドは私はクールな男ですアピールしておいてなんではまってるんだよ……」

「かっこいい男性の意外な一面っていうのは人気ありますよぉ?」

「そんなもんですか……もしかしてスピカもそうなのかな?」

「ふふふ、どうでしょう?」


 シルベットの笑みに、思わず言葉が漏れていたことに気づいたフィンは顔を赤くした。

 その時、シルベットが真剣な眼差しで、静止するように手を突き出した。


「フィリップの方で動きがぁ、ありましたぁ」


 緊張が走る。フィリップは尾行組のはずだ。


「フィリップさんは確か───」

「アーロンの方か!?」


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